RRRRR・・・・RRRRRR・・・
「もしもし?どした?」 『あぁ悠理。今何処ですか?』
あたいが寛いでると、清四郎からの電話が鳴った。 ちょうどちょっと声なんか聞きたいなぁなんて思ってたところで。 こんな時あたいらってやっぱ夫婦なのかなぁなんて。
「えへへへへ。何処でしょう」 『そんな事言う時は何かある時なんですよね・・・。部屋じゃないですよねぇ。で、悠理がわざわざ訊く所・・。書斎、ですか?』
図星。 やっぱわかっちゃうか。隠し事って大きい事も小さいことも出来た例がないんだよなぁ。
「当たり。そんなわかりやすい?あたいって」 『わかりやすいっていうか・・・。でもそんなトコで何やってんです?本を読む気にでもなりましたか?明日は出張なんですからね、季節外れの雪なんか降らせないでくださいよ』
どうしてコイツはこうも鈍いというか、余計な事を言うというのか。 ホントにあたいの事わかってるのか? イイや、言ってやんない。 少しでもお前の近くに居たいから、お前の匂いのする書斎に居る、なんて。
「別に。ちょっとな」 『ま、いいですよ。それよりそこにいるのならちょうどいい』
ま、いいですよ、だ? ちょっとは気にしろよ。
『机の上に青いファイルないですか?』 「青いの?」
ある。 あいつにしては珍しく、机の上が書類や本で埋まってる。 最近忙しそうだもんなぁ。 そのファイルはその鮮やかな色が良かったのか、よくわかんない文字で書かれた分厚い本の山の下の中でもかろうじて発見できた。
「あるぞ」
あたいはそのファイルに近付いて手に取ってみた。 その拍子に机の上に積み上げてあった他の書類や本がばさばさーっといい音を出して崩れ落ちていった。
『何の音ですか?』
多分、訊かなくてもわかってたんだろうとは思う。 聞こえてきた深々とした溜息にあたいは笑って誤魔化した。
『帰ったら片付けますよ』 「悪ぃ」 『とにかく、そのファイルが今必要なんだ。悪いけどここまで届けてくれないか』 「今からか?」
会える?
『あぁ、それがあればとりあえず僕の役目は終わりそうでね。その後休憩出来そうなんですよ』
てことは・・・。
『だから、一緒に食事でもしましょう。あいつが学校から帰ってくるまでには帰れるでしょ』
やっり〜。そうこなくっちゃな。 でも素直にそうやって言うわけにはいかない。 そんなこと言えばきっとあいつが学校から帰ってくるまでには帰れない。 ウン、絶対無理だ。
「なんだよ、そんな大事なヤツ忘れて行ってたのか?」
なんて。偶にはあたいが優位に立つのも悪くないよな。
『すいませんね。朝ちょっとゴタゴタしてたものですから』 「そういや、あいつとなんか話ししてたな。また、怒ったのか?」 『違いますよ、人聞き悪いですね。作文の宿題が出てたので、ちゃんと書けてるかどうか確認してたんですよ』 「アイツ、やってなかったのか?」 『まさか。昨日ちょっと書き直しをさせたものですからね。それが出来てるかどうかの確認です。それより、持って来てくれるんでしょ、ファイル』
なんだか、急に話を変えられた気がするけど・・・。 ま、いっか。急いでるからだろうな。 早く持って行って、早く会おうっと。
「うん。今から出る。これだけでいいんだな」 『あぁ。じゃ、頼みましたよ』
清四郎と飯ぃ〜。 いつ以来だ?四日ぶりか?三日ぶりか? フフン、とにかく早く行くとするか。 ・・・・っと。
スキップしようとしたら、足に何か当たった。 さっき落とした本の一冊らしい。
ん?なんか挟んである? ヘソクリ?まさかな、清四郎がこんな古典的な隠し方する訳ないって。 しかもヘソクリ自体する必要もないし。 じゃ、なんだ。
あたいはしゃがみこんで、その本を手に取った。
原稿用紙・・・・? 原稿用紙・・・原稿用・・・・。 あぁそうか、さっき言ってた書き直しさせたアイツの宿題だな。 あいつなに書いてたんだぁ? 書き直しさせられるぐらいだから、また余計な事書いてんだろうなぁ。 そういうトコ清四郎そっくりだよな。 どれどれ。 ・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・。
グシャっ。
――――「一週間お預けの刑」決定。
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