yell

・・・なんか、ホント。不器用っていうか、子供っていうか―――。

夏休み前の生徒会室。
この後、講堂で終業式が行われば、即休みに突入だった。
今年は、特にみんなで何処かへ行く予定もない。
だが、このメンバーの事。別々の予定で過ごしていても、いつの間にか六人全員揃って馬鹿やってるんだろう。
美童は、今しがたラブコールを送った携帯片手にぼんやりそんなことを考えていた。

(それにしてもなぁ・・・)
美童の視線は、いつしか清四郎に釘付けになっていた。
だからといって、清四郎にときめいたわけではない。
清四郎が、奇行をしているわけでもない。
いや、美童からすれば、それは奇行とまでとは言わずとも、珍しい光景だった。
清四郎が、悠理を怒らせていた。
それは、ごく普通の光景だった。
なにが楽しいのか、・・・考えるまでもなくその反応だろうが、清四郎は悠理を、それが何よりの趣味かのように毎度毎度飽きずにからかう。
それは成績の事だったり、食欲の事だったり、一般常識の事だったり。
馬鹿にしたり、挙げ足を取ったり。
それもこれも全部、悠理の事が好きで、構いたくて、構ってもらいたくてという小学生の子供みたいな感情の顕れらしいのだが。

(怒らせて楽しむなんて、あいつサドだと思ってたけど、もしかしてマゾっ気もあるんじゃないか?)

そう思っていた矢先の事だった。
美童が釘付けになった理由、それは、珍しく、悠理が怒った事で清四郎がうろたえてしまっていたのだ。

―――ガールフレンドと話している最中、聞こえてきた話の端々では、いつものように成績についてからかって・・・そう、その後、それこそ本当に珍しく普通にデートに誘ってたんだ。
といっても悠理の方はデートなんて単語、全く浮かびもしてないだろうけど。
で・・・・・・、僕は丁度電話を切って、それを見物してた。
清四郎がまともに食事に誘うなんて、滅多にない事だったし。
誘われた悠理は、やっぱりきょとんとしてて。
いっつもツーリングだライブだってつるんでる魅録ならともかく、まさか清四郎が、しかも唐突に食事に誘えばそりゃビックリするよね。
その何秒か前まで馬鹿にされてたんだもんなぁ・・・。

「それって新手の嫌がらせか?」

悠理の奴、ぷっと頬を膨らませて清四郎を睨み付けてた。

「失礼な。偶には食事もいいかなと思っただけですよ」

そこまでは清四郎にも余裕があったんだ。
だけど、どういう訳か悠理ってば更に機嫌が悪くなって。

「お前が何にもないのにあたいを飯になんて誘うわけないだろ」

悠理もバカじゃない。これまで散々騙されているんだから清四郎に何か思惑がある事をちゃんと気付いてるらしい。
確かに、清四郎には思惑があるのだし、その考えは間違っちゃいない。
ただそれは悠理が思っているような事じゃないんだけど。
なんて、悠理が気付いているのなら、清四郎の奴も苦労はしないよなぁ。
ふいっと顔を背けてしまった悠理に、驚いた事に清四郎は慌てだした。
そりゃそうだよ。
真剣に、真面目に、きっと勇気も多少必要だったんだと思う。
それなのに、疑われて、機嫌損ねて。
可哀想になぁ。でもさ、清四郎。それもこれも、お前の普段の行いの所為なんだぞ?

「悠理、誤解ですよ。悠理が好きそうな店を見つけたからどうかなと思っただけで」
「あたいが好きそうな店?」

お、悠理の奴ちょっとその気になったか?

「そうです、一人前の食事の量がやたら多くて、でも味は美味しくて、その上、隠れ家的な雰囲気でね」

清四郎、あともう一息だ。悠理の奴、半分行く気になってるぞ。

「か、隠れ家?量も多いの?」

もう決まったも同然だな。あの悠理の嬉しそうな顔。
清四郎も良くそんな店見つけてきたよなぁ。
きっと悠理の気に入りそうな店、あちこち探してたんだろうな。
でも清四郎がここだって思った店なら確かに雰囲気もいいのかも。
今度教えても〜らお。

「きっと悠理も気にいると思いますよ」
「ほ、本当か?絶対あたいの事騙してない?」

悠理もある意味、可哀想だよな。
今までが今までだけに、あんなに疑り深くなっちゃって。

「騙したりなんてしませんよ。本当に人聞き悪いですねぇ」

あ、ダメだよ清四郎。そんないつもの調子出しちゃ。

「だって。なーんか信用出来ないんだよなぁ」
「む。せっかく人が悠理が喜ぶと思って誘ってるのに」

だから、そこで怒るなって。ってほら、悠理の奴、結構気にしちゃってるじゃん。

「あ、ち、違うゴメン。でも、本当に・・・」
「いいですよ、もう。そんなに疑うんなら」

清四郎・・・。お前の場合自業自得なんだからさぁ。ちょっと疑われたぐらいでそんなにへそ曲げんなよ。ホント、ガキだなぁ。

「あ〜ゴメンナサイ。清四郎ちゃ〜ん。連れって!あたい、行きたいその店」
「無理しなくていいですよ。どうせ僕なんかと行っても楽しくなんてないでしょうし?」
「そんなことないよお。清四郎と隠れ家で美味しい料理食べたいです」

・・・・・・清四郎の悪魔。
くそぉ。僕まで騙された。僕は見たぞ、お前、悠理が連れてってって言った途端、あのいつもの悪魔の微笑み見せただろ。
悠理、気付け!清四郎の後ろから悪魔のシッポが見えてるじゃないか!
あいつ、何処でそんな技覚えて来てんだよお。
悠理の奴、すっかり"拗ねたお前"の機嫌取り戻すのに必死じゃないか。
おまけに悠理が今なんて言ったかちゃんと聞いてただろ?
―――清四郎と
お前とって言ったんだぞ。あいつならみんなでって言いそうなとこ、お前とって言い切ったんだ。
・・・・・・はぁ、ホント、悠理の扱い上手いよね。
ちゃんと、なに言えば悠理がどう行動するってわかってるんだ、お前は。
可愛くないなぁ・・・。
う〜ん。いや、でも、可愛くもあるのか?
そんな卑怯な手を使ってでも、悠理を誘いたかったんだよね。って言うか、そんな卑怯な手を使わないと誘えないって、なぁ。
何度言っても仕方ないけど、やっぱり思うよ。
普段から、優しく、とはいかなくても、もう少し素直に接してれば悠理だって、そんな頑なにはならないんじゃないか?
ホント、ガキだよねぇ。

「な。清四郎ちゃん、行こ?清四郎〜」
「仕方ないですなぁ」

形勢逆転してるじゃないか。
何が仕方ないだよ・・。あ〜そうか、"嬉しくて"仕方ないんだな。
でもね、清四郎。言っとくけど、今の悠理はお前より、「隠れ家で美味しい沢山の料理」の方が大事なんだからな。
絶対に「お前とふたりで食事」が大事で縋られてる訳じゃないんだぞ。
そんな嬉しそうな顔しちゃって、後で料理しか見てない悠理を見てへこまない様にね。フン。

・・・・・・なんて、へこまないか。
きっと今みたいにさ、笑ってる悠理といられるだけで、いいんだろ?
今のお前の顔、最高にイイ男だよ。
本気で悠理の事好きなんだね。
いつかさ、届くといいね。その気持ち。
お前に恋愛感情があるなんて、悠理はそんな事すら想像もしていないだろうけど、あと少し、もうほんの少しでも今みたいに優しい顔してたら、ちょっとは期待できるんじゃない?

頑張れよ、親友。

 

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