清四郎は後ろから抱きしめるように、悠理の白い肩に手を滑らせていた。 暖炉の前の絨毯の上で愛し合ったふたりは、求め合う直前まで着ていた清四郎の長く重いコートをシーツ代わりに、その中でその身を寄せあっていた。
暖炉の火もやがて消え、明るかった部屋は暗くなっていった。 悠理の肌は、少し冷たくなり、それが清四郎をどうしようもなく不安にさせた。 だから、抱きしめ、その存在を、その体温を確認する。 確かに腕の中に在ることで、自分の存在をも認める事が出来る気がした。
「部屋に戻ろう。寒くなってきただろ」 「あたいは暖かいよ?」 寒いのは自分ではなく、お前だろ?と。 自分を優先させる事によって、コートから肩が出ていることにも気にしていなかった男にクスクス笑う。
悠理が自分の身体を這う手を捕まえた。 「お前の腕、暖かい。この手も・・・・・・・いいな。欲しいな」 「手、ですか?」 自分の目の高さまで持ってくると、顔だけ振り返り強請る。 「な、いいだろ?頂戴」 「随分と怖い事を言いますね。どうする気ですか?ここからちょん切るんですか?」 清四郎は悠理の言葉に面食らいながらも、左手で、掴まれている右の手首を切る真似をした。 「どっちが怖い事言ってんだよ。そんなのヤダ。この手はちゃんとこの身体についてなきゃ」 悠理はそんな事させるまいというように、顔を顰めると清四郎の右手も左手もその胸に抱え込んだ。 「だって、欲しいんでしょ?僕の手が」 「くれるのか?」 掴んでいた手をゆっくり離すと、体を反転させて清四郎の顔を伺うように見た。 「あげますよ、何でも」 身体を動かした事でずれたコートを肩までかけてやる。 悠理もそれを真似るように、清四郎の首までコートを引っ張りあげた。
「なら、あたいの事もあげる。全部あげる」
―――だから、あたいはずっと傍にいる。
ずっと、この手も離さないから―――
消えてしまった暖炉の前。 外の雪明かりに照らされるふたりの、ひとつの影。
清四郎は、紅く、熱くなる肌に、更に紅い、紅い、華を刻んだ。
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