PINKY

「とっても景色の綺麗な所があったんだよ。お前にも見せてやりたくなってね。手配しておいたから清四郎君と行っておいで、僕からの卒業祝いだよ。」

海外出張から帰った豊作がそういった。

そんな兄の言葉に妹は少し考える表情をしてから答えた。

「それって、6人で行っちゃだめかな?」

そんな悠理の答えにも驚くこともなく 兄は優しい笑顔を返した。

「かまわないよ、みんなでゆっくり行っておいで。」

豊作は悠理の方を見て 『出発の日が決まったら教えておくれ』と付け加えると自分の部屋へと戻っていった。

 

 

想い

    BY のりりん

 

 

真冬の日本を抜け出して、6人を乗せた飛行機は青い空と青い海の眩しい南の地へとやってきた。

この飛行機も結婚の決まった清四郎と悠理のために剣菱夫妻が『生活必需品』のひとつとして用意したもの一つである。

そう2人のプライベートジェットなのだ。

到着した機内から真っ先に飛び出したい気持ちを抑えながら、悠理は上着を羽織った。

それは最近ではようやく見慣れてきた光景。

PINKYのプリンセスとして、プロ中のプロ達と仕事をする彼女がその肌を庇うためのものだ。

誰よりも太陽の光や、海やプールが似合う彼女には意外な動作に思えたが、それも世間でカリスマモデルといわれる悠理の自覚のひとつなのだろう。

6人は迎えの車に乗り込み、空港を後にした。

車は、高級住宅地へと入っていく。

ここは、多くの別荘が立ち並ぶ有名な場所。

その中でも一際大きな建物の前で車が止まった。

運転手が車のドアをあける。

眩しい日差しが、飛び込んでくる。

6人の表情で太陽の光に一層輝きを増す。

やはり 仲間との時間は特別だ。

流れる風に 皆同じように想っているだろう。

その隣に特別な人がいても。

「こんなとこにうちの別荘なんかあったか〜。」

そういいながら歩き出す悠理の手は、当たり前のようにしっかりと清四郎の手が包んでいる。

「豊作さんが手配してくれたのはここで間違いないんですよね?」

清四郎がそう尋ねたのは、この建物の前で6人を待っていた剣菱のスタッフ。

「はい、ここで間違いございません。さあ、こちらでございます。」

そういって玄関の大きな扉を開けた。

「うわぁー、すげなぁー!!」

「きれいだなぁー!」

6人の視界に見事な景色が飛び込んできた。

大理石の広いエントランスを抜けると、リビングの向こうにはプール。

そしてその向こうにはさっき見た 青い空と青い海が一面に広がっている。

まるで全てつながっているかのように。

小高い場所にあるこの建物からの景色はそれはそれは綺麗で、6人はそのまま見蕩れてしまった。

今だ手をつないだままの清四郎と悠理も。

そんな2人に案内してくれていたスタッフが そっと声をかけた。

「こちらは豊作様からのお預かりものでございます。」

そういって差し出されたのは、白い封筒。

宛名は、清四郎宛が一通と悠理宛が一通。

「兄ちゃんから?なんだろ。」

そういって悠理は早速封をあけだした。

 

悠理へ 

 

ここの景色は気に入ったかい?

少し早いが、ここを僕からの結婚祝として受け取ってくれないだろうか。

じゃじゃ馬で泣き虫のお前が結婚できるなんて驚きだけど、だけど・・・

 

どうか、幸せになるんだぞ。

 

                           兄より

 

悠理の手にもつ便箋にぽとりと雫が零れた。

ガラス色のそれは 綺麗な紙の上で消えていく。

俯いたまま 小さく震える肩

音さえ立てずに

手紙を握り締めたまま

隣で見ていた清四郎が泣き虫な彼女の髪をクシャリと撫ぜた。

それでも顔をあげない悠理。

下を向いたままの彼女がポツリと呟いた。

 

「お前のにはなんて書いてあるんだよ。」

 

清四郎は手に持っていた封筒を丁寧に開けてみる。

彼女がしたよりも大事そうに

 

 

 

 

清四郎くんへ

 

『バカな子ほど可愛い』

その言葉は悠理の為にあるんじゃないかとうちの家族はずっと思ってきました。

もちろん僕もその一人です。

世間では、じゃじゃ馬だとか言われるあいつも僕にとっては大事な妹です。

清四郎君、どうか どうか悠理を宜しくお願いします。

 

                              剣菱 豊作

 

 

 

 

目を通し終えた清四郎は元通りそれをきちんとたたむと、大事そうに内ポケットへとしまった。

「なんて書いてあったんだよ!」

漸く顔を上げた彼女の瞳はまだ濡れていた。

バツが悪そうにしながらも それでも上目遣いでじっと清四郎を見ている。

彼はその瞳を 反らすことなく見つめ返す。

何よりも大事そうに

この上なく優しい色で

「内緒です。」

そう答えると、清四郎の大きな手は彼女の頬を拭った。

その手がそのまま彼女の白い手へと落ちる。

「さぁ、折角の旅行です。楽しみましょう。」

そう言って涙の後の残る彼女の手を引くと、穏やかにこちらを見ていた仲間たちのもとへと歩き出した。

「こら、せーしろ!聞いてんだぞ!!!」

怒りながらも、仲間の呼び声が彼女の表情を変える。

「悠理、早く早く すっごく綺麗よ、ここの景色!」

「風が気持ち良いですわよ!」

その声に誘われる2人。

心地よい友人達の空気にゆっくりと混ざっていく。

いつもの笑顔を見せ、仲間達とはしゃぐ悠理を見ながら清四郎はそっと内ポケットの上を押さえた。

 

 

 

 


本当に本当に 沢山の素敵な時間をありがとうございました。私からの感謝の気持ちと心からの愛を込めて♪

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