PINKY

   BY のりりん様

スタート

1、

高校を無事卒業し、大学入学までの間、暇を持て余す6人は剣菱邸で午後のTea 
Timeを楽しんでいた。
清四郎と付き合うようになって少々女らしくなったかに思える悠理も、このときばか
りは口いっぱいにおやつを頬張っていた。
そんな有閑倶楽部の面々の前ににこやかに現われた百合子から、いきなり爆弾発言が
落とされた。

「悠理、大学に入ったら少し社会勉強をなさい。」
「えっっっ?!」
「もう用意はしてあるから。分かったわね?」
「・・・かっ かぁちゃん、何するってんだよ。」

ようやく喉に詰まっていたおやつを飲み込んだ悠理が声を上げた。

「今度剣菱からファッション部門を立ち上げる事になったの。そこでモデルとして働
くのよ。」

「「「「「「モデルーー?!」」」」」」

「まぁ、詳しい事は私よりこのプロジェクトの責任者兼あなたのプロデューサーに聞
きなさい。入って頂戴」

そういって入ってきた人物の顔を見て6人は声を揃えた。

「「「「「「レイコさん?!」」」」」」

彼女は剣菱グループの中でも、万作の側近中の側近の1人である。
剣菱夫妻が最も信頼する人物のひとりで、百合子とも歳が近く、剣菱家とは家族同様
のつきあいで、5人も何度か逢った事がある。

「そぉ、私が悠理ちゃんのプロデューサーなの。よろしくね。」

あまりの展開に固まる6人の中、いち早く我に返った清四郎が口を開いた。

「ちょっと待ってください。何も悠理に社会勉強なんてさせなくても僕がついてます
し・・・・」
「清四郎ちゃん、これは悠理の為なの。このまま何も知らずに過ごすよりいい経験に
なると思うのよ。」
「でも、かぁちゃん。あたいまだやるって・・・」
「悠理、私は社会勉強 な・さ・い って言ったのよ。聞こえなかった!」

気合の入った声で言う百合子に誰が逆らえよう。
諦めのため息をついた悠理の横で清四郎がレイコに申し出た。

「悠理が関わるというなら僕にもお手伝いさせていただけませんか。」

それを聞いた百合子とレイコは顔を見合わせ 「言うと思ってたわ。」 と笑った。



2、

百合子が部屋を出ると、レイコは今回の事について説明を始めた。
剣菱の新しいブランドのモデルとして悠理はCMやポスターなどに出るということ
それを押したのは、百合子よりもレイコだということ。
そして、悠理のためにレイコが世界中から集めた人たちでチームが作られた事。
明日その面々と顔合わせをする事などを話した。
最後にそのメンバーの名前を読み上げるレイコに可憐と美童が声を上げた。

「そのカメラマンって、今世界中の女優やモデル達が一番撮ってほしいと思ってるっ
ていわれてる人じゃないか。」
「メイクアップアーティストも、神の手っていわれてる人よ」
「レイコさん、よくこれだけの人たちを集められたね」
「まぁね、でも皆条件付なの」
「なんですの?」
「悠理チャンを見てから受けるかどうか決めるって」
「えっ、それって・・・」
「でも私は皆に言ったのよ。絶対一緒に仕事したくなるわよって。」

悠理がいいといった自分の眼に狂いは無い!と力強くそしてとても楽しそうに話すレ
イコは清四郎の方を見て一言付け加えた。
「安心しなさい。全員女性だから。」


3、

説明が終わり皆が帰った後、悠理は自室で大きなため息をついた。

「なぁ あたいにできると思うか。」
「おばさんもレイコさんも気合入ってますから、仕方ないでしょう」
「あたいはお前にきいてんの!!」

悠理の大きな声に耳を抑えつつ目をむけると、真剣な瞳で悠理が顔を覗き込んでい
た。
(大きなプロジェクトみたいですし、心配してるんですか・・・)
人が動けばお金も動く。規模が大きければ、その額も大きい。
それに、やるからには成功させたい。
日頃あまり使われていない悠理の頭の中では、色々な事が考えられているのであろ
う。
思いや心配が手にとるように分かる。
清四郎は悠理を両腕で包み込み優しい口調で話し出した。

「悠理ならできます。僕が保証します。」
「・・・そっか。 よし、わかった。」
「ただ、僕の悠理がたくさんの人に見られるのは僕としては複雑なんですが・・・」

その言葉の途中から腕の中の顔が赤くなってるのが分かる。

「バッ バカ!あたいはあたいだろーが!!」

そういって桜色の頬のまま清四郎首に抱きつき二人は軽いキスをした。
微笑みをむける清四郎に照れた笑みを返すと悠理は 「よし、やってやるか!」 と
気合を入れた。


4、
百戦錬磨のつわものぞろい。
世界中から集められたスペシャリスト達が揃う顔合わせ会場の中でも、腹を決めて現
われた悠理は一歩も引けを取らないでいた。
凛としたオーラで座る悠理から、自己紹介が終わった今も、会場中が目を放せずにい
た。
一通りの説明を終えたレイコが「休憩をとりましょう」
と皆に声をかけた。
すると、控え室にいた有閑のメンバーがレイコに呼ばれて悠理の元に集まった。
いつもの顔ぶれの中でコロコロ表情を変える悠理に、一瞬にして全ての視線が集まっ
た。
それは引力とでもいうように。
カメラマンである女性が無意識のうちに手持ちのカメラのシャッターを押していた。
そして顔を上げた彼女が会場の皆むかって微笑んだ。すると、全員が微笑み返した。
それが全ての答えだった。

「この続きは明日の楽しみに取っておきます。」

そうカメラマンがレイコにいったのを皮切りに

「今以上に色んな表情をみてみたいわ」
「あなたの言ったとおりね。」

と、皆口々にレイコに言葉を残し会場を後にした。
訳のわからない顔を浮かべる悠理にレイコが親指を立てて見せた。

「明日から撮影よ!」

5、

翌日からチームの初めての撮影が行われた。
悠理いわく 『魔法使い』 のようなスタッフ達によって悠理は色々な女性の顔を見
せていた。
目元を強調してセミロングのウイッグをつけてクールな小悪魔になったり、パステル
調のメイクとカールのついたウイッグで愛らしい少女のような女性になったり、実態
からは想像もつかないものとなっていた。
そう、これもチームの作戦であった。
悠理の実態は明らかにするつもりは無かったのである。
そんなものを明かさなくても、その存在感だけで十分だったのだ。
だが、どこからか悠理のことが漏れるとも限らない。
そのために十分な注意が払われていた。
悠理に直接関われるのはチームのメンバーのみ。
撮影が行われるスタジオも、スタジオがあるビルごと前後数日部外者立ち入り禁止の
厳戒態勢になっていた。

「はい、お疲れ様」

最後の撮影を終えるとレイコが皆に声をかけた。
「あー、終わった。お疲れ様!」
殺人的スケジュールともいえるほどのものを、持ち前の体力と度胸で軽々とやりこな
してしまった悠理が声をかけた。
チームの皆が悠理を知るのに、この撮影の期間だけで十分だった。
真剣なまなざしと合間に見せる人懐こい笑顔。
令嬢でありながらも、それを感じさせない人柄に皆の心は惹かれていた。

「これをこなすなんてプロのモデルの根を上げそうなのによくやったねー。」
「あたいは何も・・・ みんなのおかげじゃん。」
「悠理、やるからには必ず成功させましょう!」
「まぁ、このメンバーなら負ける気はしないけどね!」
そういって皆を見る顔は自信にあふれていた。

そうしてのちにカリスマモデルといわれる悠理と、剣菱のブランド 『PINKY』 は
動き出した。

数日後、CM、雑誌、町中のポスターでみられた悠理の姿に一番驚いたのは有閑のメン
バーであった。
「誰だよ。」
「悠理ですわよね?!」
「ありえねーぞ!」
「化けたねー」

皆が好き勝手な事をいう中、清四郎は愛しい恋人のいつもと違う姿に少々複雑な心境
でした。
 

 PINKY

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