PINKY

   BY のりりん様

新作

PINKYから香水が発売されることとなった。
そのための行われた打ち合わせの会場の中に一人眉間にしわのよっている男がいた。
清四郎である。
何パターンか行われる新商品の撮影の中の一つがスリップ姿のものだと決まったの
だ。
もちろんモデルは悠理である。
ベットの中から起き上がるというものでシーツに隠れているときもあるものの清四郎
としてはなんとも複雑である。
なのに当の本人はというと 「水着であれだけ毎年あちこち遊びに行ってんのに何
行ってんだよ。」 と、清四郎の心配を笑い飛ばしたのである。
その上そんな2人をチームの皆は明らかに面白がっている。
「撮影まで悠理ちゃんの白い肌に変なものつけないようにしてよ♪ 清四郎君。」
「そうそう、メイクで隠すのも大変なんだから。」
「何がつくっていうんですか!」
清四郎の一言に大きな笑い声が響き、その日の打ち合わせは終わった。


いよいよ撮影の日がやってきた。
ウィックをつけメイクされた悠理がスタジオに入ってきた。
軽く言葉を交わした後、羽織っていた上着を彼女が脱ぐとスタジオ中から思わず声が
こぼれた。

「うわぁー、きれい。」

きめ細かく艶やかな白い肌、引き締まった長い手足、そして悠理自身から放たれる独
特の存在感。
その上彼女はどんどん美しくなっているように思える。
数々のモデルを見てきたプロ達が思わず声を漏らすくらいに。
彼女は一瞬にして皆を釘付けにした。

「清四郎ちゃんが見せたがらないのも分かるわ。」

誰もがそう思った。

撮影は予定どおり始まった。
だが途中皆が一箇所に集まりプランを練り直し始めたのだ。
少し遠巻きに聞いていた悠理と清四郎にもその話声はとどいていた。
どうやら悠理に相手役となる男を用意しようかという話のようだ。
その方が彼女がもっと綺麗に見えると。
「でも急にそんなに都合よくこっちの条件に合う子なんて見つかるかしら。」
そういって考え込んでいるみんなの視線がある一点でとまった。
そう、清四郎だ。
思わず顔も引きつる彼をおいて、悠理が先に声をあげた。
「清四郎はダメだ!絶対に!!」
スリップ姿で腰に手を当て仁王立ちで怒鳴る悠理はなかなかの迫力である。
しかし、それを難なく受け流したレイコが話し出した。
「清四郎君って確か鍛えてるのよね。」
「そうだよ。こいつ着やせするんだけど脱いだらすごいじょ・・・って何言ってんだ
よ。だめだぞー!」
「僕は別にかまいませんが。」
「ぬわぁー、何いってんだ 清四郎。そんなことしたらまともに生活できなくなる
ぞ。」
まともに生活・・・その日本語は間違っているように思うのだが、その気持ちは十分
伝わってくる。
何度も一生懸命にダメだと繰り返す悠理。
そんなことをしたら清四郎の生活に支障が出ると。
「それじゃ 悠理は他の誰かが来て正体がばれてもいいというんですか。」
「うぅっ、そ、それとこれとは話が違うわい。とにかくお前はダメだ。」
「じゃぁ その格好で他の男に抱きつくって言うんですか。」
その清四郎の一言に悠理の表情が変わった。
「だ、抱きつくって・・・誰が?」
「悠理がですよ。今皆そう話してたじゃないですか。」
全く何を聞いていたんだと続ける清四郎と「そうなのか?」と聞き返す悠理。
呆気にとられてみていた皆は思わず笑い出した。
なんとも・・・仲のいい2人
われらのカリスマモデルは、あれだけのオーラを持ちながら普段はなんとも可愛い人
なのか。
「魅力的」その言葉がなんとも似合う彼女を見ながらレイコが声を出した。
「大丈夫よ、悠理ちゃん。顔も頭も映らないから。ほしいのは背中だけなの。」
そういっていまだ清四郎の前に仁王立ちのままの悠理をなだめて撮影は再開された。



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PINKYの新しいCMとポスターは今までの中でも一番話題となった。
ベットにむかって立つ男の背中からは無駄なものが一切削ぎ落とされていた。
その見事に鍛え上げられた体に、ベットから這い出てきた女の白い腕が絡みつく。
男の肩越しに見えるのは、

上目使いでこちらを見る挑戦的な女の目
その口元には小悪魔という言葉がぴったりの微笑み

そのCMに町中が釘付けとなり、ポスターは次々と盗まれるというちょっとした事件と
なった。
PINKYが初めて悠理以外の人物を使ったことをマスコミもこぞって取り上げた。
正体を明かさない女の次は、背中しか見えない男。
あれはスポーツ選手かモデルかと世間は大騒ぎ。
あれだけ反対していた悠理も襟足さえも映らないできばえに大満足していた。
本当に背中の肩口だけしか映っていない。
あれでは正体がばれることはないだろう。
安心しきった彼女は今日も口いっぱいにおやつを頬張り食欲の秋を満喫していまし
た。


 

 PINKY