PINKY

   BY のりりん様

日常

大学生になろうとも、「PINKY」での悠理がカリスマモデルとして世間でどれほど大
騒ぎされようと、有閑倶楽部の面々は相変わらずであった。
さすがに高校生の時の様にいつも一緒とはいかないものの6人寄れば楽しい時間が流
れていた。
周りから見ればずいぶん外見は変わってきたように思えていたのだが、本人達の自覚
は少ないようだ。
まぁ、最も自覚のないのは約一名のようなのだが・・・・
男性陣は皆精悍さが増し、大学から入ってきた生徒や、街角で女性から告白されるこ
ともかなりの回数であった。
だが、今ではそのとなりで微笑む幸せそうな笑顔を知らないものは少なくさすがに彼
らの周りも静かになった。
『彼らの周りも』というのは当然『彼女らの周りも』ということなのだが。
黙っていればすれ違うものが振り返る有閑の美女3人。
美しさに磨きがかかり、「キレイ」という言葉が似合う彼女達に群がる男達は後をた
たなかった。
だが、そんな男達はそのとなりにいる清四郎、魅録、美童達によって、告白どころか
傍によることさえできなかったのだが。
そう、悠理のとなりには清四郎が、可憐のとなりには魅録が、そして野梨子のとなり
には・・・美童がいるのだ。
それが彼らにとっては今では日常の当たり前の風景なのだ。
恋に恋するロマンチストの自称恋愛の達人が、近くから遠くからいつでも優しく見て
くれていた魅録の隣に落ち着いたのは極々自然なことに見えた。
長い長い片思いが実り、清四郎の隣にはまぶしい悠理の笑顔がいつも絶えなかった。
そして・・・

高校最後のクリスマスを前に部室ではいつものようにおやつの時間を迎えようとして
いた。
にこやかにお茶の用意をしていた野梨子の隣にすうっと美童が立った。
いつものように手伝いにでもきてくれたのかと、特別気にもとめず用意をする野梨子
に声が降ってきた。
「野梨子、クリスマスは何か予定ある?」
その声にようやく顔をあげた彼女は
「いいえ、特別何も。美童は今年も忙しいんでしょう?」
そういって彼女の視線の先では彼は少し強ばった笑みを浮かべていた。
「今年は何にも予定は入れてないんだ、まだ。もうやめたんだよ、自分に嘘つくの。
今年はずっと一緒に過ごしたいと思っていた人とすごしたいんだ。それがダメなら一
人で過ごすって決めたんだ。」
青いきれいな瞳はまっすぐに野梨子を見てそういった。
後ろでは「どうしたんだよ、美童。」と声を上げた悠理の口を清四郎の大きな手が後
ろからふさいでいた。
「美童がクリスマスを一人でなんてうそでしょ?!」そう叫んだ可憐の隣からのびた
魅録の手が彼女を椅子へとおとなしく座らせた。
清四郎と魅録は黙ってみていた。その隣に座らされている彼女達も静かにせざるを得
なかった。
なんともいえない緊張した空気の中で。
「野梨子、僕とクリスマスを一緒に過ごさないかい?」
「えっ・・・」
「ほんとはずっと前から・・・、はじめてあった時からそう思ってたんだ。だけど僕
じゃ野梨子の相手にふさわしくないってずっとあきらめて、誤魔化してきたんだ。で
も、そんなことはおしまいにする。今の僕が相応しくないんだったら相応しい男にな
るように努力するよ。だから・・・考えてみてくれないかな。」
野梨子の白い頬が赤く染まっていた。大きな瞳が揺れている。
「・・・でも、・・・美童とクリスマスを過ごしたい方はたくさんいらっしゃるで
しょう?まだ、お誘いでしたらかかってくるんじゃありませんの?なのに、ほんとに
私なんかと・・・」
そんなことをいうつもりではなかったんだ。
だが、青い瞳でまっすぐに気持ちを伝えられてなんと答えて言いか分からなかった。
「野梨子と過ごしたいんだ、一緒にいたいって思うんだ。それにもう誰からの誘いも
いらない。」
そういって彼はポケットから小さな携帯を取り出すと、彼女の目の前でパキっと2つ
に折ってしまった。
「これももういらないしね。」
そういって彼は笑みを浮かべた。
美童のきもちが部屋のなかに広がっていく。
その真剣さに聞いていた可憐や悠理のほうが胸が一杯になるくらいだ。
美童は本気だ。
このメンバーの前で、それも野梨子相手にこんなことを冗談で言えるわけはない。
きっと男達は知っていたのだろう。それで黙って静かに見ているのだろう。
固まったままの野梨子と静まり返った空気の中まず口を開いたのは悠理だった。
「美童、お前ってそんないい男だったか?知らなかったじょ。」
それは本心だった。仲間達の前でまっすぐに野梨子の目を見て気持ちを伝える彼は、
いつものなよなよした所はなく本当にそう思えた。
「野梨子もいい男に惚れられたじゃない。」
そういって立ち上がった可憐は魅録に目配せをした。
清四郎と悠理にも。
「じゃあな、またあした。」
そして4人は部室を後にした。
それからの野梨子の返事がどうだったのかは、皆ははっきりとは聞いていない。
だが、あれからクリスマスの日も今も彼女は青い目の彼の隣で幸せそうに笑ってい
る。それが全てだ。

剣菱邸の日常にも清四郎がすっかりと溶け込んでいた。
もともと友人として試験勉強やらで彼がこのうちにいることも多かったが、いまでは
ここで生活をするのに何の支障もないというくらいである。
それも彼らにとっては当たり前の日常になっていた。

「おはようございます。」
ベットの中で目を覚ますと隣からは聞きなれた優しい声が聞こえてきた。
「おはよ。せーしろ。」
そういって彼の胸元に擦り寄った。逞しい腕と、心地いい温かさに抱きしめられて自
然に笑みがこぼれる。
清四郎とて愛しい人の可愛いしぐさに顔が緩んでいく。思わず抱きしめ、その髪に口
付けを落とした。
しばらくすると悠理が彼を見上げた。
「シャワーでも浴びてこよっかな。」
そんな言葉に
「一人で行くのはダメだって言ってるでしょ。一緒にいきましょう。」
という言葉が笑顔と一緒に返ってきた。
これも彼と彼女には日常の会話なのだ。
清四郎はこの部屋で過ごすときは彼女を離そうとしない。洗面所に行くときも、バス
ルームに行くときも。
その腕が絡みつき、纏わり着いてくる。
いつも。
最初は嫌がっていた悠理だが、人とは慣れるもの。
いつのまにかそれが当たり前になっていた。
座るときも手を繋ぎ、指を絡め、膝の上に座らせ、甘い甘いあま〜い時間を過ごすこ
とが多い。
清四郎と悠理がだ。
誰が予測出来ようか、あの冷静沈着な男のこんな一面を。
世界中で悠理ただ一人しか知らない彼の顔。
この部屋から出れば完全無敵の清四郎なのだ。
悠理も最近はそんな彼を可愛いとさえ思ってしまう。
自分だけしか知らないそんな彼を。
「なぁ、今日はどっかいこうよ〜。」
着替えを終えてそういった悠理を清四郎が後ろから抱きしめた。
「嫌です。せっかくのゆっくりとした休日なのに、どこにも行きたくないです。」
「なんでだよ。めちゃくちゃいい天気だぞ。どっかいこ、な。」
ねだる様な彼女の声にも清四郎は首を縦に振らなかった。
「外に出るとあちこちで悠理がいろんな人に見られてます。だから嫌です。」
「PINKYのポスターのことか?そ、それはしょうがないだろ?」
「それもありますけど・・・とにかく嫌なんです。」
全く・・・こいつは分かってないのだ。
ポスターのことも確かに気にはなるのだが、そんなものなんかとは関係のない、悠理
本人に周りから多くの視線が集まっていることを。
清四郎だけを見てきらきらした瞳で話す彼女は本当にきれいなのだ。
その笑顔に向けられる多くの視線たちに彼がどれだけ眉間の皺を抑えているのか。
彼女が清四郎だけを見ていると分かっていていても。
「うぅ〜ん、お前が嫌ならしょうがない。そしたら何して遊ぶ?ゲーム?それとも映
画でも見るか?」
そういって回されていた清四郎の手に悠理の手が触れた。
「こうしていられるのならどちらでもいいですよ。」
そういって彼は彼女の頬にキスをした。
この部屋にいるときだけの二人の秘密の日常が過ぎていく。
世界中で悠理しか知らない清四郎と、PINKYのものでも剣菱のものでもない彼だけの
悠理の甘い甘い時間が・・・・・

 

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