PINKY

   BY のりりん様


 騒動


今日の打ち合わせ会場には黄桜親子の姿があった。
PINKYではそれはもう珍しくない光景である。
撮影などでアクセサリーがほしいときにはジュエリーAKIで用意してもらっているの
だ。
そして彼女達が来る日はたいてい他の有閑の面々もそろって顔を出すことが多い。
今日もそんなおなじみのメンバーでの打ち合わせが何事もなく終わろうとしていたの
だ。
ふと、可憐の母の携帯がなった。
席をはずし話を終えて戻った彼女は、愛娘に駆け寄った。
「可憐ちゃん、どうしましょう。」
「ちょ、ちょっと、ママ。どーしたのよ。」
「明後日の発表会にモデルの桃花がこないって言うのよ。」
「えぇ〜、なに、急に?」
だが、そんなオロオロした黄桜親子にかけたレイコの一言で有閑倶楽部の面々の顔が
曇った。
「桃花ってRusyの専属に決まった子でしょ?」
Rusyとはレイコ達のPINKYが現れる前までは国内無敵のトップブランドだった。それ
が今ではPINKYに売上でも、注目度でも大きく差を開けられて躍起になっているとい
う。
そしてそのRusyとは・・・
「おい、Rusyって・・・。せーしろ!」
「・・・えぇ、そうですね。」
そういう二人にチームのみなが声を上げた。
「何!なんなの?」
「・・・以前、皆さんと僕らが襲われたことがありましたよね。あの時の『犯人』と
いいましょうか・・・『依頼者』はRusyの人間だったんです。PINKYはほとんどのこ
とがこのチームで行われているので誰かが欠ければバランスがくずれるだろうから
と、それに打ち合わせの中にはあのモデルもいるだろうからってことであの時襲われ
たようなんです。ようするにむこうにとってPINKYは邪魔なんでしょうね。まぁ、今
回のことも可憐のところを通しての・・・」
「嫌がらせのつもりだって言うこと?」
そこまで聞いていたレイコと有閑の面々が声を出した。
「スペシャルゲストの桃花がでないとなると、マスコミも注目度も減ると。」
「まぁ、今、桃花以上の注目されてるモデルっていえば悠理くらいだもんね。」
「でも、その悠理はマスコミには一切姿を出さないんですものね。きっと今ごろ向こ
うではこちらのことが困っていると思って面白おかしく話していることですわ。腹が
立ちますわね。」
魅録も美童も野梨子も眉間に皺を寄せている。
そんな中一人楽しそうな瞳をしていた彼女が声を出した。
「・・・ようするに、あたいらにケンカ売ったってことか?」
悠理である。
色素の薄い瞳は獲物を狙うときのようであった。
その形のよい口元が挑発的な笑みを浮かべる。
そして彼女のその一言に、可憐の母以外の皆の目がきらりと光った。
「ゆ、悠理ちゃん、ケンカってそんな・・・」
「ママ、無理よ。こんな悠理止められないわよ。」
「そうですわね。止められるんならとっくの昔に止めてますわよ。」
「まぁ、ケンカを売られているのは事実のようですし・・・」
「悠理なら言い値で買いそうだよね。」
「まぁ、そうだろうな。」
そんな有閑の皆に続いてチームの皆も話し出した。
「私たちにケンカ売ってくるなんていい度胸じゃない。」
「勝てると思ってんのかしら?」
「相手見てからにすればいいのに。」
そんななかレイコが声をあげた。
「気持ちは全員一致のようね。このケンカ買ってやりましょう。」
「悠理ちゃん、PINKYの顔として可憐ちゃんとこの発表会に出るわよ。」
「あ、あたいが?」
「そうよ。桃花をキャンセルさせたこと、むこうはきっと後悔するわよ〜。」
「まぁ、悠理が出るとなると、マスコミは挙って動くでしょうね。」
「うぅ〜ん、でも一人はちょっと心配だから・・・清四郎君一緒に出て。」
「分かりました。」
「のわっ、レイコさんだから清四郎はダメだって。まともな生活が・・・」
そういってこの間のポスター撮影のときのように話し出す悠理にチームの皆が笑いな
がら声をかけた。
「大丈夫よ、悠理ちゃん。私達がついてるじゃない。二人に魔法をかけてあげるか
ら。」
「だから安心なさい。」
「そうよ。悠理ちゃんが言ったんでしょ?」
「私たちは 『魔法使いだ』 って。」
そういってPINKYの頼もしい百戦錬磨の魔女達はこういった。
「Rusyも相手が悪かったわね。」


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発表会当日
たくさんの人が訪れる会場の前には報道人が山のように集まっていた。
もちろんここにあのPINKYのモデルが現れると聞きつけたからだ。
一切マスコミの前に姿を出さないあの女性は実在するのかとまで言われていた彼女が
来るとあって報道陣以外の人も山のように来ていた。
そんな大騒ぎの中会場の前に数台のリムジンが横付けされた。
入り口の真正面以外の車から次々に現れたのは、PINKYのチームの面々。
この人だかりの前でも彼女達がひるむ事などあるはずもなく、貫禄十分である。
そして、最後のリムジンのドアからまず降りてきたのは・・・
栗色の髪を無造作に仕上げ、仕立てのよいスーツをラフに着崩してサングラスをかけ
た長身の男ーーー清四郎だった。
そして、彼が手を差し出すと・・・
車内からは高いヒールを履いたPINKYの顔、悠理が現れた。
どよめきと歓声が上がる
フラッシュの雨が降る。
スリットの入ったドレスをさらりと着こなした彼女は清四郎の手をとるとその光の方
へ微笑みを投げた。

カメラの向こうにいるケンカ相手への
PINKYからのお返しを

魔女達の手によって魔法をかけられた彼女。
その美しさに磨きをかけられた悠理は、吸い寄せられるような引力を持つ目元、光る
桜色の唇、そしてセミロングのウイッグには毛先に上品なカールが施され、悠理が動
くたびにふわりと揺れその場の視線を釘付けにしていた。
彼女のドレスからのぞく艶やかで白い肌は、ジュエリーAKIのオリジナルアクセサ
リーが飾っていた。
そんな二人が見つめ合い、微笑みを交わすと小さく声をかけた。
(行きましょうか。)
くるりと背を向け歩き出す。
清四郎と腕を組み歩く悠理にあちこちから溜息が漏れた。

まさに美男美女
圧倒的な存在感

チームの皆が待つ入り口へと着くと皆が一斉にカメラの方を向いた。
思い切り楽しそうな自信に満ちた笑みと挑戦的な瞳、その口元からは悠理のいつもの
台詞が聞こえてきそうであった。

「あたいらにケンカ売ろうなんて100年早いわい!!」

 

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翌日からは各マスコミが挙ってジュエリーAKIの発表会に現れたPINKYの面々のことを
取り上げた。
そのことで世間は持ちきりであった。
もちろんそんな話題の主は、清四郎と悠理であった。
だが、当の本人達はあの日チームの面々と倶楽部の皆に勝利の笑みを投げたあとは、
すっかりもとの生活に戻っている。
特に、いま日本だけでなく世界中の話題の中心といっても過言ではないPINKYのプリ
ンセスは、元の黒髪のヘアースタイルに戻った彼の隣でウトウトと居眠りをしてい
る。
世間の騒動なんか気にもせず、とても、とても幸せそうな顔をして・・・

 

 PINKY