PINKY

   BY のりりん様

やきもち


悠理と清四郎がマスコミの前に現れたことはかなりの事態を引き起こしていた。
あの後から、PINKYの窓口の電話は鳴り止むことはなく、ホームページはパンク寸前
だった。
その全てが悠理と清四郎についてのことだった。
マスコミの取材もひっきりなしとなり、あまりの事態にPINKYは新聞、雑誌、TVなど
全ての報道機関を通してコメントを出した。

『またいつかお会いしましょう。そのときは素敵なお話が出来るかもしれません。そ
の日を楽しみに今はどうか静かにお待ちくださいませ。』

そう、一切話すつもりはない、ということだ。
実際にPINKYのチームの面々の顔を見たマスコミは、あの迫力十分の彼女達がこう
いったらどうあがいても無理だとわかったようでしばらくするとおとなしくなった。
それに母体は剣菱だ、こうなっては騒ぐのはよくない。

だが、一瞬にして世界中に出来てしまったファンはこのコメントだけではおさまって
はくれなかった。
それは、ある程度のことを予測していたレイコ達をもお手上げ状態にさせていた。
毎日まさに山のように届く花や手紙、プレゼント。
それもPINKY宛に届くものだけではなく、母体である剣菱本社に送ってくるものまで
ある。
最初は喜んでいた皆もさすがに毎日となると・・・

特に渦中の2人は眉間に皺を寄せてその前に座っていた。
一部屋に集められ積み上げられた彼ら宛の『山』。
むせ返るほどの花たち。
天井近くまで積み上げられたプレゼント。
ダンボール箱幾つ分もの手紙。
『埋もれる』とはまさにこのことだといわんばかりの顔つきである。
「・・・すごい事になってますね・・・・」
先に声を出したのは清四郎だった。その声で、悠理もあんぐりと開けていた口元をよ
うやく動かした。
「・・・せ、せーしろー・・・・」
そういってただただ見ている悠理を横目に清四郎はいくつかを開けてみた。
「ほぉー、スゴイですねー。皆自分の写真も入れてますよ。これは綺麗な字ですね。
結構、年上の人からもきてますね。うぅ〜ん、これはファンレターというよりラブレ
ターという感じですね。」
そうして、そこまで独り言を呟いていた彼が視線を感じて振りかえると悠理と目が
合った。
だが、悠理は大きく顔をそむけそれをそらした。
ブンっと音のしそうな勢いで。
その周りからは明らかに不機嫌のオーラが出ていた。
清四郎の瞳がきらりと光った。
口元がニヤリと動く。
「どうしました?」
「べ、べつに!」
悠理はこちらに顔を向けることもなく、、そんな返事が返ってきた。
その仕草に、くっくと笑い声が出そうになるのをなんとか堪える。
「ひょっとして、ヤキモチ妬いてるんですか?」
「だ、だれが!!!」
「悠理が。」
そういって覗き込むと、拗ねた顔がますます横を向いた。
あまりの可愛さに腕の中に閉じ込める。
「ゆーり」
「な、なんだよ。」
「どうしました?」
「・・・・・て、手紙、そんなに嬉しいか・・・・・・」
「どうしてですか?」
「・・・だって、嬉しそうな顔して見てたもん・・・・・」
「ほら、ヤキモチじゃないですか。嬉しそうな顔なんかしてません!」
「・・・・・」
「いくら悠理の頭でもいいかげんに覚えてください。僕が一緒にいたいと思うのも、
愛してるのもおまえだけです。」
「・・・お、おまえー!」
「わかりましたか?」
「・・・わかった・・・・・」
「だったらそんな顔しない。ほら」
そういって大きな手に両頬を包まれた。
その顔に笑顔が戻る。
清四郎がそっと額にキスを落とすと悠理の頬は見る見る真っ赤に染まった。
「ば、ばーたれ!!こんなとこで、おまえは!!」
「いいじゃないですか、僕達は恋人同士なんですから。」
しれっとした顔でそういった彼の黒い瞳はとても楽しそうだった。
くすくすと笑い声までもらす清四郎に悠理は再び顔を横に向けた。
そのとき、高々と積み上げられている箱の中から見覚えのある包装紙が・・・
今度は悠理の目がきらりと光った。
「清四郎、あれ取って!」
そうして彼女が指差したのは、有名洋菓子店の包装紙の箱。
彼の腕の中の恋人の瞳はすでにそれに釘付けになっていた。
なんともわかりやすい。
清四郎は今度は苦笑いを浮かべながらそれを取ると悠理に手渡した。
「さんきゅ。」
そういって受け取ると、同封されていた手紙には目もくれず、早速はこの中身に手が
のびた。
清四郎がその手紙に目を通すと、悠理宛の熱烈なファンレターであった。
なんともいえない胸のむかむかと一緒にそれをゴミ箱に放り投げた。
(悠理のことを言えませんね。僕のこれもヤキモチでしょうし・・・)
そう思っている清四郎に悠理が箱を差し出した。
「ここのはおまえのも好きだろ?一緒に食べよーぜ。」
今日一番ともいえる笑みでそういわれては・・・・・
清四郎はきらきらした瞳で自分を呼ぶ彼女に笑顔を返した。
 

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