PINKY

   BY のりりん様


 サプライズ



『学生』と名の付く最後の年の12月。
剣菱邸の悠理の部屋といいましょうか、今ではすっかり 悠理達の部屋 というのが
正しいその部屋からはいつもの2人の声が聞こえていた。
学校へはもうほとんど行かなくてもいいものの、その分仕事に忙しい清四郎とPINKY
のプリンセス悠理である。
「悠理、今年のクリスマスはどうします?」
「・・・どうしますっておまえ仕事だろ?」
清四郎に手伝われ何とか身支度はしたが、まだ少々眠そうな彼女がそう答えた。
「24日は午前中は仕事ですが、午後は何も予定は入ってませんよ。それに、翌日は
もう土曜日ですし、休みです。」
「えっ、うそ!!んじゃー、24日の午後からずっと休みじゃん!」
「そういうことです。」
清四郎が片目を瞑って楽しそうに返事をするとその首に悠理が飛びついてきた。
「やったー!!」
「嬉しいですか?」
「うん、うれしいじょー!!なぁ、何して遊ぶ?」
「悠理のお好きなように。」
「いいのか?そしたら、うぅ〜ん、どうしよっかなー。でも、その時期はどこ行って
もいっぱいなんだよな〜。」
「まだ日にちはありますから、ゆっくり考えといてください。」
清四郎はそういって悠理の頭を撫ぜた。
「うん、わかった。それより、おまえ今日はどうすんだ?」
「そうですねー。朝から打ち合わせがありますし、その後の昼食会は出ないとして
も、一箇所寄る所があるんでそちらによってからPINKYの撮影の方へ行きますよ。悠
理は午前中には行ってるんでしょ?」
「あたいはそうだけど・・・。じゃ、おまえ昼飯食わないつもりかよ。」
「まぁ、一食くらい抜いたって何ともないですし、時間があれば適当に食べます
よ。」
「大丈夫か〜?」
「心配してくれてるんですか? 平気ですよ。」
そういった清四郎に悠理は納得のいかないような顔をしながらも
「うぅ〜ん、わかった。じゃ、打ち合わせの終わる時間に迎えの車をまわしとくよ。
それはいいだろ?」
「えぇ、助かります。」
そうして朝食をとり、清四郎は一足先に出かけていった。


打ち合わせが終わると、朝の言葉どおり迎えの車がきていた。
急いで乗り込んだ清四郎に運転手がバスケットを手渡した。
「お嬢様からです。こちらに乗られたらすぐにお渡しするようにとお預かりしてまいりました。」
そう告げると運転手は軽く頭を下げ、運転席へと戻った。
清四郎がそのバスケットをあけると中には・・・・・
水筒とランチボックス、そして手紙が添えてあった。
あけてみるとそこには悠理の字で

『とりあえず食っとけ!でも、味の保障はないぞ。』

と書かれていた。
「相変わらず汚い字ですね。」
そういいながらも顔が勝手に緩んでいく。
今朝の話を聞いて昼食を取れないかもしれない清四郎を心配して悠理が作ってくれた
んだろう。ランチボックスのなかには移動中でも食べやすいサンドイッチがいっぱいに詰まっ
ていた。
「まったく、あいつは・・・」
こみ上げてくる嬉しい笑みをなんとか堪えようとした。
いったい誰が予想できようか。
可憐でも野梨子でもなく、あの悠理が清四郎のためにお弁当を作るなんて。
こんなに近くに、こんなに長く一緒にいる清四郎でも思いつかなかったのに。
悠理はこんな嬉しい驚きを清四郎にたくさんプレゼントしてくれる。
「飽きないやつですね。」
そう独り言をいいながら悠理お手製のサンドイッチを口に運んだ。



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清四郎が到着したころには、PINKYの撮影ももう半分を終えていた。
カメラの前に立つ悠理は皆の注文に難なく答え、PINKYの顔としての貫禄も、存在感
も、そしてその美しさにも一層磨きがかかっていた。
そんな忙しそうな彼女の変わりに仲間たちが清四郎に声をかけた。
「よぉ、清四郎。」
「相変わらず忙しいみたいだね。」
皆忙しくなりなかなか顔をあわせることも以前のようにはいかなくなったが、悠理の
撮影の日にはよく顔を出してくれる。
「清四郎、ママから聞いたわよ。」
「早いですね、悠理には黙っててください。」
「ふふっ、わかってるわよ。」
「清四郎、もうお昼はすみましたの?」
その野梨子の言葉にちょうど休憩に入った悠理の顔が変わった。
レイコ達と話をしていた彼女だが、なにやら慌ててこちらに向かって走ってくる。
だが、それを横目で見ながら清四郎は仲間達に笑顔で答えた。
「えぇ、移動中に悠理のお手製のサンドイッチをおいしく頂きました。」
なにくわぬ顔でそういった彼の言葉に、仲間達は固まり、その口を塞ごうとして間に
合わなかった悠理は真っ赤になって怒り出した。
「ぬわぁー!お、おまえ、何言ってんだー!!!」
「何ってほんとのことでしょ?」
「で、でも、だ、だからって言うことないだろうがー!!!」
「隠すことでもないです。」
ニコニコとそういいきる清四郎に悠理は拳を握りながらも怒ることを諦めた。
こんなに楽しそうに話すこの男を止めることなど誰が出来ようか。
口げんかで悠理が清四郎に勝てる確率など消費税よりはるかに低い。
それに、・・・なんにしても言ってしまったものは仕方がない。
悠理は大きな溜息をついた。
そのときレイコ達が悠理を呼ぶ声が聞こえた。
「悠理ちゃん、お願いねー。」
「はーい。」
そう返事をした後、くるりと清四郎のほうへ向き直った。
「せーしろ!余計なこと言うんじゃないぞ!!わかったな!!」
そう叫んで悠理は、固まっている4人を気にもせず急いで撮影に戻っていった。
その後姿を見ながらも くすくすと言う笑い声を出す清四郎にようやく皆が声をかけ
た。
「お、おい、清四郎。あいつのお手製って嘘だろ?!」
「ま、まさか、悠理が料理なんか。ね〜」
そういう仲間に清四郎は
「ほんとですよ。それもなかなかの腕前なんです。」
そういって彼は剣菱家でのご褒美つきの暇つぶしの話をした。時々 くっくっと笑い
声を出しながらも、清四郎はとても嬉しそうに楽しそうにそのことを話した。
一通り聞き終えるとようやく4人もなんとか信じたようだった。
「まぁ、悠理ならおいしいものはよく知ってるから、作るとなると結構できるのかも
しれないね。」
「勘は確かにいいですものね。」
「でも、想像できないわ〜。」
そんな皆の中、一人黙っていた魅録に清四郎が視線を向けた。
「どうしました?まだ信じられませんか?」
その問いかけに、魅録は
「いや、そうじゃないんだ。おまえってさ、そんなによく表情の変わるヤツだったっ
けって思ってさ。」
「そ、そうですか?」
その言葉に清四郎が驚いた。自分ではまったく自覚はないのだが・・・
「・・・ひょっとしたら、悠理と一緒にいるからうつったのかもしれませんね。」
そういって彼はカメラの前に立つ愛しい人に優しい視線を向けた。
それは清四郎が悠理と一緒にいるようになってみせるようになった彼の特別な顔。
その幸せそうな顔をみて2組のカップルも互いに微笑みあった。

 PINKY