作戦

  by のりりん様



食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋。
そう、本日は聖プレジデント高等部の文化祭2日目である。
1日目は各クラスの展示や発表、2日目は各倶楽部、演劇部やブラスバンド部、茶道
部などの発表が行われこの日だけは一般開放されるのだ。
昨年までは生徒会長として忙しくこの2日間を過ごしていた清四郎も今は次の世代に
その座を譲ったためほかの5人と一緒にこの日の朝を元生徒会室で過ごしていた。
この部屋は、今まで生徒会役員としてがんばってくれたお礼に卒業まで使ってくださ
いとミセス・エールからお許しが出ていたのだ。
新しい生徒会室には空いていた教室が使われている。

悠理は大きな溜息とともに、恋人である清四郎にここ数日何度も話した言葉を繰り返
した。

「なぁ、清四郎。もういっぺん言っとくけどいろんなやつが近づいてきてもあたいの
せいじゃないかんな。」
「分かってますよ。何度同じ事を言うんですか。そんなに心配なんですか。」
「僕はそんな事で怒るような心の狭い男ではありませんよ。」

そういって清四郎は悠理の頭をなぜた。
だが彼は、すぐにこの言葉を後悔することとなるのだ。
昨年まで忙しく走り回っていた彼は知らないのだ。
一般開放された日に、有閑のメンバー目当てで集まる人の波を。
そのなかでも、体育系クラブの助っ人としてあちこちの学校や試合に顔を出す悠理に
は考えられない程の人だかりができることを。
どんなにプレゼントや花束を断ってもその波が途切れることがないということを。
そして、そのなかには可憐や野梨子よりもはるかに多くの男達がいるということを。

               ***********

想像を絶するほどの人の波をくぐりぬけ、早めのお昼のために部室に戻った6人の中
清四郎の眉間にはくっきりとしわがよっていた。

「まぁ、まぁそんな顔しなさんなって。」
「毎年に比べればまだいいほうですわよ。」
「自分の彼女がもてるってのはうれしいことじゃないか。」
「・・・別に僕は何もいってません。」

だが、弁当を食べながらも不機嫌のオーラは丸出しとなっていた。
清四郎の目の前で次々と悠理に男達が言い寄ってくるのだ。
どんなに断ってもついてくる者や、なかには近くにいる清四郎に挑戦的な視線を向け
るものまでいるのだ。
(・・・全く・・・・)
その上目の前の4人は清四郎に慰めの言葉をかけつつも、なんだか面白がっているよ
うなのだ。

「毎年午後はもっとすごいですわよ。」
「可愛そうに。高校最後の文化祭、やっと普通に過ごせるのにゆっくりどころじゃな
いわね。」
「ほんとだな。」

と、それ間で黙って本日5個目の弁当を食べていた悠理の箸が止まった。
そのまま何か考えているようにしてたかとおもうと、急にいすからたちあがり、スタ
スタと清四郎の前まで歩いていった。
そして、それを黙って悠理を見ていた清四郎の前に ブンッ と音がするほどの勢い
で左手が差し出された。

「飯も食ったし、行こうぜ、清四郎。」

いまだその差し出された手の意味がわからず悠理の顔と手を交互に見る清四郎に

「いくらなんでも手つないで歩いてたらそんなそんな近寄ってこないだろ?!ほら、
いくぞ!」

そういって悠理はその手をさらに突き出した。

「・・・僕はいいですが、いいんですか。」
ただでさえ照れ屋の悠理が学園の中で手をつなぐなんて清四郎には信じられなかっ
た。
だが、

「良いも悪いもあるか!!お前らと一緒にいられる文化祭はこれが最後かもしんない
だぞ。これ以上邪魔されてたまるか!!!」

冷やかしてやろうと構えていた4人も悠理の言葉に黙ってしまった。
確かに進路はまだはっきりとはしていないものの今のように来年も一緒かどうかはわ
からない。
清四郎のことが、親友達の事が大好きな悠理には、その大事な今をこれ以上邪魔され
るのが許せなくなったのだろう。
じっと悠理を見ていた黒い瞳のまぶたが閉じた。
ほんのりと口元に笑みを浮かべ目を空けた清四郎がその手を取った。

「分かりました。楽しみましょう。」

その言葉に悠理は微笑み返すと一言付け加えた。

「午後は邪魔するやつは容赦なしだ。お前もそのつもりでいろよ。」

 

******************

 



午後、部室から現れた6人に我先にと近づこうとしていた者達の足がピタリと止まっ
た。
そこには3組のカップルがそれぞれ手をつなぎ、腕を組み、視線を絡ませ歩いている
のだ。
一瞬の後あたりは騒然となった。
花束をもって立ちすくむ者、目当てのものの名を叫ぶ者、泣き出すものまでいた。
だが当の6人は知らん振り。
清四郎のとなりではニコニコしながらつないだ手を振り歩く悠理がいた。

「なぁー、どっからいく?あっ、演劇って何時からだっけ?」

そういって清四郎を見上げる悠理を見て思わず顔が緩んだ。
全く、朝の不機嫌はどこに言ったのだろうか。
悠理の強行作戦によって清四郎の眉間のしわはすっかり消えていた。

「・・・やっぱ、やだったか?」
「なにがですか?」

そういった清四郎の目の前に悠理はつないだ手を持ち上げた。

「やっぱり元生徒会長のおまえが学園内で、その・・・あたいなんかと手繋いでで歩
いたりしたら・・・」
「嫌なわけないでしょう。朝よりすごく楽しいです。高校最後の文化祭こうして悠理
と周れてうれしいですよ。」

そういって清四郎は目の前に持ち上げられてたままの悠理の手にキスをした。

「おっ、お前な〜」

一気に真っ赤に染まっていく悠理に笑みを落としその手をギュッと握りかえした。

「行きますよ。」

上機嫌となった清四郎とそれをうれしそうに見る悠理がこの日学園のあちこちで見ら
れることとなりました。

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