雪 BY のりりん様
それはある冬のこと・・・
降りしきる雪の中たたずむ一人の女性。 その後姿には思わず触れたくなるような見事な黒髪。 真っ直ぐに伸びるその毛先はもう少しで腰まで届きそうな程。 一面の銀世界の中、温かそうなファーのコートを着て静かにたたずんでいる。 そんな彼女が ゆっくりと振り返った。 その横顔は 雪に負けないほど白く その頬は目を疑うほどの美しさだった。 吐く息も白くなる世界の中、一度俯いた彼女がゆっくりと顔を上げた。 それは誰あろう PINKYのプリンセス。 その隣には姿は移らないものの誰かの影が。 彼女の視線がゆっくりとその人物へと移る。
そっと赤みを増していく頬 小刻みに震える唇
艶やかな唇が漸く開いた。 声にならない言葉を紡ぐ 隣の彼を真っ直ぐに見詰めて
『 すき 』
その瞬間 アップにされた彼女の頬に一滴の涙が零れた。 宝石よりも輝く粒。 降り積もる雪よりも、色づく吐息よりも 綺麗な雫。 たまらずに隣にいた人物が手を差し伸べた。 濃い茶色の手袋が、その雫を拭う。 黒髪に降る雪を払うより先に。 そうして画面は彼女の髪に吸い込まれるように一面の黒となり、一行の言葉だけが浮 かび上がった。
『恋の魔法をかけてあげる』
これは一月十四日から三月十四日までの間PINKYから期間限定で発売された リップ グロスのCM。 撮影は美童のおばあさまのいるスウェーデンで行われた。 雪の中での撮影。 この日一番驚かされたのは他の誰でもなくPINKYの魔女達だった。 打ち合わせを済ませ、撮影の直前まで雪の中ではしゃいでいた悠理。 その顔は どこから見ても無邪気な子供。 それを楽しそうにもながらも洋服が汚れるから程ほどにしろ と口やかましく言って いて清四郎。 その言葉に膨れっ面をしたり、反撃を繰り出したり全く飽きることを知らない悠理。 そんな彼女に 少々不安さえ抱きそうな魔女達の前で、そんな雪遊び直後に撮影され たのが このCMなのだ。 それも、台詞の所までは打ち合わせどおりなんだが まさかその後あんなに綺麗な涙 を見せられるとは。 その場にいた誰も予想できなかった。 清四郎も台詞の後、彼女の手をとり2人で雪の中を歩いていくと言うのが打ち合わせ だったのに、悠理の迫力につられてしまったのか、それとも撮影だと言うことさえ一 瞬忘れてしまっていたのか、 彼女の涙を拭っていた。 どちらにせよ、彼も予想できなかった一人であることには間違いない。
撮影が終わり、「今度は雪合戦しよう!清四郎!!」 と騒ぐ彼女はいつもの姿。 PINKYのスタッフの誰かが呟いた。
「一体幾つの顔を持ってるのよ。」 「彼女こそ魔女なんじゃない?!」 「それも天性のね。」 |