an ovulatory phase

       By 麗様

 

 

 

 

 「もしもし、清四郎?あたいだけど、今から行ってもいい?」

毎月半ば、悠理から、こんな電話がかかってくる。
僕は、机の上のカレンダーを捲り、先月の今頃の日付の下に、小さく入れた赤丸をチェックした。…正確だな。


「いいですよ。どれくらいで着きます?」
「ん〜、30分ぐらい」
「わかりました。じゃ、後で」

電話を切った後、僕は手早くシャワーを浴びた。

これから、月に一度の”お勤め”が待っているのだから。



「よっ!」

僕の部屋に入ってくると、挨拶もそこそこに悠理はさっさと服を脱ぎだした。
トレーナー、ジーンズ、ブラにパンツ…ぽいぽいと服が宙を舞い、すっかり脱いでしまうと、悠理は僕のベッドにゴロン、と寝転ぶ。
僕はゆっくりと自分のシャツのボタンを外し、ズボン、下着と脱いでいくと、それらを椅子の背にかけた。

「早くぅ」
「…まったく、色気のない。たまには”脱がす”というのもやってみたいんですけどねぇ」
「ヤだよ。そんなの、恥ずかしいじゃん!」


ギシ。
ベッドに片膝をつき、悠理を見下ろすと、すぐにすんなりとした腕が首に絡んできた。

「これからする行為は、恥ずかしくないのですか?」

悠理の大きな瞳が、きらきらと輝いている。そこに羞恥などカケラもなく―――


ハ・ヤ・ク…
声に出さずに、口の動きだけで、僕をせかす。
僕は苦笑しつつ、無防備な唇に口づけ、舌を差し入れる。
悠理はベッドから頭を浮かせ、積極的に応えてくる。
普段のこいつからは信じられないほど、セクシャルな反応に僕の下半身が疼く。


今、悠理は、発情期なのだ。





*****







3月ほど前のことである。
悠理が泣きそうな顔をして、僕を訪ねてきた。

「清四郎、あたい、おかしいのかもしんないっ!」
そういうと、床にぺたんと座り込んで、おんおんと泣きはじめた。
「いったい、どうしたというのですか?」
泣きじゃくる悠理の頬を手で挟んで上げさせ、その理由を聞いてみると……


最近、身体の奥が疼くような感覚を覚え、夜ともなると身体が熱を帯びたようで、眠ることができないという。
肌の感覚も鋭敏になっていて、人に触れられるとゾクゾクとし、疼くような感覚がよりひどくなるらしい。

「それだけじゃないんだ。しょっちゅう、なんか、その…すごく、えっちなことばっかり、考えちゃうんだ……」
「はぁ……いったい、どんな?」
「どんなって、その…」
悠理は、顔を真っ赤に染め、消え入りそうな声で言いよどんだ。
「男の人と、えっちしちゃうこととか…」
「……」

僕は、あんぐりと口をあけた。
この、男か女かわからない、色気ナシ、サル娘の悠理が、男とえっちすることを考えてしまうだと?
それは、まさか……


「悠理、この前生理が来たのは、いつですか?」
「へ?んっとぉ、2週間くらい前かな?」
「やっぱり。悠理、それって、発情してるんじゃないですか?」
「はつじょう?」
「ええ、たぶん。2週間前に生理が来たとすると、今はちょうど排卵期ですからね。子孫を残そうとする本能が働いているのかもしれません」
「そんなことって、あるの?」
「ま、普通の男女でもそういった状態になることはありますが、悠理のは、程度が重いようですね。さすがはドーブツ」
「なんだとぉ!」


悠理は怒って僕の胸倉を掴んできた。
が、すぐに情けない顔になってぱっと僕から身を離す。


「わぁぁぁん!あたいはどうしたらいいんだよぉ!」
「心配しなくても発情期なら、排卵期が過ぎればそんな状態はなくなりますよ。それまで、我慢してるんですな」
「がまんできないよぉ!体の奥がむずむずじんじんして、気持ち悪いんだよぉっ」

悠理は、目の前の床をごろごろと転がり始めた。
そして、急に起き上がると、縋るような瞳で僕をじっと見上げてきた。


「清四郎ちゃぁん」
「嫌です!」
「まだ、何にも言ってないじゃん!」
「言わなくてもわかりますよ!えっちしてくれって言うんでしょう?僕は嫌です!」
「薄情モン!いいよ、じゃあ誰か他の男とするから」

そう言って、悠理はさっさと部屋を出て行こうとした。

「待ってください。他の男って…。今は排卵期なんですよ。妊娠の危険性が高い時期に、下手な男とそんなことしたら…」
「いいもん」
「は?」
「妊娠したって、いいもん。こんな状態、もう耐えられないんだもん」
「いいって、そんな…」
「いいんだ。でも、そうなったら清四郎を怨むかもしれないなぁ。あの時、清四郎がえっちしてくれてたら…って」
「……」
「じゃあな、清四郎」
「…待て!悠理!」


くるり、と悠理は振り返って僕を見た。
大きな瞳に、涙が溜まってゆらゆらと揺れている。
その目を見て、僕は陥落した。


しょうがない。
ペットのバースコントロール(?)も、飼い主の仕事のひとつなんだろう。





*****







「はぅんっ、ああん…」
すでに硬くとがっている悠理の乳首を口に含むと、悠理は身体を仰け反らせてあえぐ。
唇で挟んで吸い、軽く歯を立ててやると、「あ、あ、あ」と小さく声を上げながら、僕にぎゅっと抱きつき、腰を摺り寄せてくる。
足の間に手を差し入れると、もう、ぐっしょりと濡れているのがわかる。

「すごいな…前戯は必要ないんじゃないか?」
感心して呟くと、悠理は「いや…」と小さな声で答えた。
人差し指、次いで中指と差し入れ、ぐちゅぐちゅと音を立てて抜き差しし、少し乱暴なくらいに掻き回してやる。

「んんっ!んっ…あんっ」
悠理はいかにも気持ちよさそうに、健やかに声を上げている。
猫のような目が細められ、恍惚、といった表情だ。
「ちょっと…声が大きすぎやしないか?」
「あ…だって、気持ち…い……」
「もう、入れて欲しい?」
「ん…あっ!」

悠理の返答を確かめる前に、僕は欲望をねじ込んだ。
細い腰を抱え上げ、激しく突く。
「はぁっ!ああん、ああんっ!」
悠理の身体がびくびくと痙攣し、白い胸が揺れる。

「声が、大きすぎますって…」
悠理の嬌声を封じようと、人差し指を彼女の唇に当てる。
と、柔らかい舌を、ちろちろとミルクを舐めるようにまとわりつかせてくる。
淫らな舌の動き。淫らな光をたたえる瞳。
しなやかな身体が妖しく動く。まるで、美しい野生の肉食動物のように。

「くっ…」
下半身から突き上げてくるような快感を、僕は唇を噛んで耐える。
負けたら、食われる。こいつを、打ち伏せ従わせなくてはならない。
悠理とのセックスは、僕にとって真剣勝負だ。


「あっ、あああっ!!」
片足を脇に抱え込み、より深く挿入すると、悠理は甲高い声を上げて達した。
のけぞりあらわになった白い首の上で、尖った顎がガクガクと揺れる。
そのさまを見届けてから、僕も自分を解放した。
深く、深く、悠理の一番内奥に。





*****







―――射精後は、すぐに抜いて避妊具の始末をしなければならない。
そう、わかってはいるのだが。
射精時の快感が深ければ深いほど、その後は動くのも億劫になる。
僕は、悠理の胸に顔を伏せたまま、自分の息と悠理の鼓動、どちらが早く正常に戻るだろうか、などと考えていた。
考えるうちにも、悠理の鼓動は静まっていく。
さすがだ、と思いながら、僕は息をひとつ吐いて呼吸を整え、そっと悠理の中から僕自身を抜き出した。

ベッドのふちに腰掛け、避妊具を始末する。その後ろで、悠理がシーツを自分の身体に巻きつけている。
視線を移すと、僕の目をじっと見ながら、抱っこ、とでも言うように、両手を差し伸べてくる。
かわいいな、と素直に思うのは、こんな時だ。


ご要望にお応えして、僕は悠理に覆い被さり、抱きしめる。
当然のように、触れ合わす唇。
「ん……」
悠理が、情事の名残で、鼻にかかった甘え声を上げた。

「すっきりしましたか?」
唇を離して、彼女の目を見て微笑む。
「うん。ありがとう、清四郎」
あっけらかんと言い放つ悠理に、僕の胸はちくり、と痛む。


「…いつまで、お相手できるでしょうねぇ?」
ごろんと横になり、なんとなく思ったことを口に出す。
「いつまでって…なんで?」
僕の横に腹這いになった悠理が、上から僕の顔を覗き込む。

「悠理にだって、いつか好きな人が出来て、その人とお付き合いをするようになるかもしれないでしょう?そうしたら、僕の役目は終わりでしょ」
言いながら、そんなことはありえない、と思いもした。
「あたいに、カレシ?ありえね〜」
悠理が、眉を顰める。その反応に、嬉しくなる。
「そうですねぇ、ありえませんな」
「お前は?お前にだって、いつか好きなオンナが出来て、付き合うようになるかもじゃん」
悠理が、拗ねたように口を尖らせて言う。僕は、少し考える。フム、僕に彼女?


「…それも、ありえませんねぇ」
「…だな」
僕達は、顔を見合わせて笑った。

「じゃ、ずっと、このままな」
悠理が、僕の胸に顔を寄せてくる。
「腐れ縁ですな」


心地良い眠気が、ひたひたと迫ってくる。僕は、悠理の髪を撫でながら、目を閉じた。


明日にはきっと、悠理の発情期も終わり、いつもの友人同士に戻っているのだろう。
その考えに、少しばかり疼く心を、僕は眠りに落ちることで忘れる。
腕の中の君の感触に、切なさを伴わせたくはないから。




……とりあえず、勝負には勝ちましたしね。

 

 

 

 

END

 


 

フロです。いつもより余計に回っております、サカっております♪(←殴)

エロリーヌから分捕り成功〜〜♪

 

麗さんち月と太陽に焦がれて・・・の1周年祝いに、ケダモノ悠理ちゃんSSを書いて送ったら、直後に送られて来た妄想双子作品がコレ。つくづくサカる話が好きねぇ、私ら・・・(しみじみ)

ということで、同時アップとあいなりました。

 

”とりあえず”清四郎が勝利したこのお話に対して、私が書いたのは清四郎敗北の巻。

そこら辺が作風の違い?

ケダモノネタも、麗さんが料理するとこんなに艶かしくムーディにvv 

タイトルからして「排卵日」のくせに〜(爆)

 

 

 

 作品一覧

 

素材:Abundant Shine