「清四郎、せーしろ?‥‥‥せーしろってば!!」 こ、こいつ……完全に無視しやがって。 さっきから名前を呼ぶあたしの方を全然見ようともしない。
やるじゃん、女の子BY れん様
―――昼休み。 あたしにとっては一番大切な時間。 色とりどりのお弁当達があたしを待っている! 食べたい気持ちをぐっと堪えてあたしは今、目の前に居る清四郎と中庭で向き合っていた。 あたしが何度呼んでも一向に口を開かない清四郎。 ホント、なんて嫌な奴!! ……分かっていたけどさ。 分かってて好きな訳なんだけど……
清四郎の怒っている原因は……あたし。 先週の土曜日に清四郎とふたりで映画を観にいく約束だった‥ はずが、「悠理!チャイナ服を新調しに行くわよ!!」と母ちゃんが朝早く部屋に入って来ては、まだ寝ぼけていたあたしの腕を掴んだまま香港まで連れ出され、清四郎との約束をすっぽかしてしまった。 頭の隅では電話、電話と思っていたのに九江の点心が話題になった処ですっかり清四郎への電話の事はあたしの頭の中から消えてしまっていた。
「えっと…清四郎。」
相変わらず返事は無いけど、聞こえているはず。 ふん、と構わずあたしは話始めた。
「電話しなかったこと、ごめんなさい。あたいが悪かったよ。 だからって、そんなに怒ること無いじゃないかっ」
片方の眉がつり上がってジロっと横目であたしを見る清四郎。 余りにもその怒った顔が怖くてあたしは逃げ出したくなる。 (何とか言えよ〜)そう思いながら踏み止まった。 このままだと昼休みが終わっちゃうじゃん! 大事なお弁当にありつけないと思ったら、だんだん腹が立ってきた。 あたしは清四郎に向かって声を張り上げる。
「えーい!あたいが悪かったって言ってるだろう!清四郎っ!あたいのこと無視して!何とか言ったらどうなんだよ!!」
腕を組みながら清四郎がそのまま、近づいて来た。
「別に無視なんてしていませんよ。ただ呆れているだけです。悠理にとって僕はその程度なんですよね。それに――」 ふぅと溜息を付く。 「僕が怒っているように見えますか?」
口元はにっこりと笑っているのに、視線は氷のように冷ややかだった。
「お、怒ってるだろう…言っとくけどな、電話しなかったのはあたいが悪いってさっきから謝ってるし…それに母ちゃんに逆らったら怖いってこと清四郎だって知ってるじゃないか…」
小さくなる声と共に清四郎の顔が直視出来ないあたしは清四郎の足元だけを見つめた。 (どうしたらいいんだよ!) こんなに謝っても清四郎はあたしのこと許してくれないんだ… あたしの頭じゃ、もう分かんないよ! そう思ったら、胸が苦しくなって涙が溢れて止まらなくなる。 と同時に清四郎の足が一歩前に動いたのが見えた。
「泣いてもダメですよ」 「泣いてなんかないやい!」
両手をぐっと握り締めながらあたしは唇を噛む。 涙の向こう側で清四郎がゆっくりと組んでいた腕を解くのが見えた。
「悠理、降参です。本当にもう、怒っていませんから」
あたしの肩に清四郎がそっと手を置く。 まだ涙が止まらないあたしの頬を清四郎の大きな手が優しく拭ってくれた。
「だから泣かないで下さい」 「…清四郎、あたいのこと許してくれないんだろう?」
可憐が言ってた通りだ。 「天真爛漫の悠理とプライドの高い清四郎。全くあんた達が喧嘩となると面白いわ。 傍から見れば飼い主とペットみたいな関係で悠理が清四郎に勝てることなんて無いわよ」
……そうかも。 本当は清四郎と相性が悪いんじゃないかなと思ってしまう。
あたしは頬に触れる清四郎の手をしっかりと掴んだ。 離したら清四郎がもう二度と口を利いてくれないかもしれないと不安になったから。 やっとお互いの気持ちが通じ合い恋人同士になったのに、あたしはこの新しい関係を皆の前で、どう保っていけばいいのか解らなかった。 照れくさいような、恥ずかしいような。 でも、いつまでも、こんなんじゃダメなんだ。
「反省しているのは良く解りました。しかし悠理、その日は僕たちにとって初デートだったんですよ…それなのに電話もなければ、家にも居ない。僕はとても楽しみにしていたんですが、悠理にとってはそうでも無かったのですか?」 「そんなこと、ないやい」 「まぁお前が人並み外れて、そういうのに鈍いって事は良く知ってますよ。誰よりも随分苦労させて頂きましたからね。それにしたって、だ……」 「ご、ごめん……。あたいが悪かったです」
呆れた声でこのまま延々とお説教が続きそうな気がしたあたしは慌てて顔を上げて清四郎を見た。 なのに。 それなのに、あたしを見つめる清四郎の目はとても、とても優しくて。 その眼差しを受けながら、あたしは自分の頬が熱くなるのを感じた。
清四郎が小さく笑う。
「では、次の休みは何処に行きましょうか?悠理の行きたい所……そうですね、今日の帰り美味しいものでも食べながら決めましょうか」 「うん!!」
清四郎が笑ってくれる。 それだけで、あたしの中にあった不安な気持ちが消えていくと共にまだ何て呼べばいいのか分からない感情が心に溢れてきて、涙が零れた。
「泣き虫さんですね、悠理は」 「フンっだ!!」
泣き顔を見られたくないあたしは、目の前の清四郎に思いっきり抱きついた。
「ゆ、ゆうり! ここが何処だか分かっているんですか!」
当たり前だい!! 昼休み、色々な学生が和気あいあいと過ごしている中庭の隅に二人で居ること、さっきからチラチラと清四郎を見てる女の子達と男どもの事も知ってるぞ。 生徒会室からは様子が気になるのか親友達が窓にべったり張り付いている事も。 まさかあたしが、こんなことするとは思わなかっただろうな、 きっと今頃「悠理にしちゃ上出来」なんて言ってそう。
あたしは清四郎の広い胸の中で顔を埋めながら、くすっと笑った。 そのまま顔を上げて清四郎をまっすぐ見る。
「だーいすきだよ、せーしろー」
あたしの言葉に、慌てている清四郎がいる。 よく見ると清四郎の頬も耳も赤かった。 そんな姿は皆の目には、どう映っているのかな?なんて思ったら、あたしの頬も耳も清四郎には負けてないくらい、きっと真っ赤だね。 さて、そろそろあの部屋で待ちくたびれている4人の仲間達から祝福と冷やかしを受けようじゃない! 午後からの授業は、たぶん…………無理だな。
完全無欠の生徒会長殿、準備はOK?
Fin 今回はふたりがお付き合いをしてから、まだ10日も経っていない初々しいふたりを・・・ ちゃうちゃう、初々しいのは悠理ちゃんだけであって清四郎の頭の中では、きっと (あんなことや、こんなこと・笑)いっぱい色々考えてるだろな、と思いながら。 悠理はこれからが大変です(嬉)←うふふvv
清×悠、万歳な愛をフロ様へ・・・捧げます。 (出来れば返品なしで!笑) では、読んで頂きまして有難うございました。れん。 |
背景:CresentMoon様