First Love 4

  BY nero様



   
沈黙が続いた。
ほらな、やっぱりあたいじゃないんだ。
あたいは涙が出そうになるのを必死で我慢して、清四郎を見続ける。
そして、やっと開いた口から出てきた言葉は、あたいの欲しいものではなかった。
「誰から聞いたんですか?」

悔しかった。
悔しくて、悲しくて、そして、猛烈に腹が立った。
「誰でもいいじゃんか!なあ、本当に清四郎にとってあたいが一番なのか?」
「ええ」

「嘘だ!!だったら、何で写真なんか大事に取っておくんだよ!!」
あたいはもう、清四郎の言葉が信じられなくなっていた。

よく平気でそんなことが言えるよな。
今でも咲子さんが好きなくせに、何であたいと付き合うだなんて言ったんだよ!
何であたいを好きだなんて言うんだよ!
嘘つき!!

清四郎が悲しげにあたいを見つめていた。
「……見たんですか?」

そんな顔をするなよ。
まるであたいが悪いみたいじゃないか!
悪いのはあたいを騙し続けたお前だろう!

「偶然だ。けど、そんなことが問題なんかじゃない。お前が好きなのは、咲子さんなのか、それともあたいなのか、はっきりさせろよ!」
あたいは怒鳴るように声を荒げ、清四郎に詰め寄った。

「……勿論、悠理のことは好きです」
そう言いながらも、清四郎はあたいから視線を逸らした。
「けど、彼女のことは忘れられません。彼女を否定することは、今ここにいる僕自身も否定することになる。それに……彼女は僕の初恋の人だから」

それが、清四郎の本当の気持ち。
咲子さんのことは忘れない。
咲子さんのことは否定できない。
あたいは、どうすればいいんだろう。
どうしたらいいんだろう。

あたいは何も言うことが出来ずに、ただ泣くことしか出来なかった。



あの日以来、あたいは咲子さんのことしか考えられなくなっていた。
清四郎の初恋の人。
美人で、綺麗で、清四郎が好きだった人。
清四郎の初恋の人。
今でも写真を大切に持っていて、捨てられない程大切な人。
あたいとは正反対の女の人。

咲子さんが羨ましくって。
憎くたらしくって。
そして……悲しくって。
あたいが想うほど、清四郎はあたいを想ってくれないんだと思うと、涙がボロボロ毀れて止まらなかった。
こんな風に思ってしまう自分が嫌だけど、考えれば考える程悪い方へと気持ちが進んでいった。

夜、寝ようと目を瞑れば、清四郎と咲子さんの顔が浮かんでしまう。
だから、眠れない日が続いた。
体中が悲鳴を上げて、ご飯も喉を通らない。
ずっと、咲子さんが頭から離れてくれないんだ。

みんなが心配するから、あたいは体調が良くない、とだけ言った。
清四郎は何も言わない。
だから、あたいは益々不安になって、清四郎の愛情を疑ってしまう。
こんな日が続いて、あたい、おかしくなっていたんだと思う。



ある日、野梨子が家に招いてくれた。
可憐も一緒だった。
心配した二人が、あたいの話を聞く為に呼んでくれたんだと思う。
そんな親友の気持ちは嬉しかったけど、あたいの頭の中は咲子さんのことでいっぱいだった。

清四郎の初恋の人。
美人で、綺麗で、清四郎が好きだった人。
今でも写真を大切に持っていて、捨てられない程大切な人。
あたいとは正反対の女の人。


「今、お茶を入れて来ますわね」
野梨子が席を立ち、可憐もそれに続いた。
「あたし、トイレに行ってくる」
女の子らしい部屋に、あたいは一人取り残された。

手持ち無沙汰になったあたいは、何気に野梨子の机へと目をやった。
あたいが来るまで作業していたらしく、机の上に道具がそのまま置いてある。
小さな箱と濃いグリーンのリボン、そして淡いイエローグリーンの包装紙があり、その脇にはクリーム色のカッター。
そういえば、魅録の誕生日が近い。
どうやら、フレゼントを包んでいたようだった。

何時もだったら、プレゼントが何であるのか興味が沸いたかもしれない。
けど、あたいの目が見ていたのは、クリーム色のカッター。
それしか見えていなかった。

あたいはそれを手にすると、カチカチと刃を押し出した。
几帳面な野梨子のこと、そのカッターの刃は欠けている部分もない。
おそらく、切れが悪くなった刃先を折ったばかりなのだろう。
キラリと光るそれは、とても綺麗だった。

無意識のうち、鋭い刃先を手首に当てていた。
不思議と怖いとか、震えることもない。
多分、逃げたかったのかもしれない。
この苦しみから。
辛い現実から。

あたいも死んだら、一番になれるかな?
2番目じゃなくって、あたいが一番に。
死んだら、なれるかな?

あたいはもうそんなことしか思えなくて。
スッとカッターを引いた。

不思議と痛みは感じられなかった。
だって、それ以上に胸が痛かったから。
みるみるうちに、真っ赤な血が溢れ、腕を伝う。
ボタボタボタッ。
淡いグリーンの包装紙が赤く染まった。

これで一番になれるかな?
あたいが死んだら……

その時、清四郎の顔が浮かんだ。
大好きな清四郎。
死んだら……清四郎に会えなくなる。
そう思ったら、目が覚めた。

何バカな事やってんだろ。
こんなことをしたら、清四郎に嫌われるだけだ。
それだけは絶対に嫌だ。
好きで、好きで、大好きでたまらない清四郎に、嫌われるのだけは絶対に。

そう思ったけど、血はどんどん流れ続ける。
着ていたTシャツの裾で押さえてみたけど、白いシャツが赤く染まっただけだった。
押さえ付けても赤い染みは益々広がっていく。
「止まれ!止まれったら!!」
あたいは、泣きながらそう喚いていた。

あたいの声を聞きつけたのか、可憐が部屋に飛び込んで来た。
「悠理!あんた、何してるの!」
血に塗れたあたいを見て、可憐が叫んだ。
「可憐……どうしよう……血が止まらないんだ……」
あたいは手首を押さえたまま、それだけ言うのがやっとだった。









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