ビオトープ  タイプM
         by hachi様




 小等部の校庭で、悠理が見つけた、不自然な自然。

 人間の手によって作られた、小さな小さな生態系だ。

 
 「自然を理解するためには、良い教材だと思いますよ。」
 清四郎が、いつものように薀蓄を垂れる。
 それによると、ビオトープは自然に還すものではなく、あくまで人間が管理するものだという。
 趣旨は理解できるし、否定はしないが、賛同もしない。

 第一、人間が管理し続けたら、「自然」とは言わないんじゃないか?

 「それで保てる命があるのですから、意義はありますよ。」

 ヤツが、もっともな顔をして言う。

 不自然を保つことに、意義がある。
 やはり、納得がいかない。

 「そっか。壊したら、ここで暮らしている生き物が困るんだよな。」
 悠理の言葉に、清四郎は何度も頷いた。
 「ええ。困ります。それどころか死活問題ですよ。」
 とてもじゃないが、ビオトープで暮らす微生物や虫を思い遣っての台詞とは思えなかった。

 ヤツは、環境が変わることを、誰よりも厭っている。

 不自然な関係の中で、自然に振舞う、俺と、悠理と、清四郎。
 友情と愛情の狭間で、どっちつかずのまま、日々を暮らしている。
 清四郎には悪いが、俺はあまり気長なほうじゃない。

 清四郎が傍にいると、悠理はとても嬉しそうだ。
 眼をきらきらさせて。頬を桜色に染めて。
 彼女は今、髪を掻き回されて、恨めしげにヤツを見上げている。
 畜生、滅茶苦茶に可愛い表情をしているじゃねえか。

 長い時間をかけて培ってきた、分厚い友情。
 それを壊すのは、俺だって嫌だ。
 他の仲間たちだって、関係が変われば、態度も変えるだろう。
 だが、不自然なままの関係を続けるなんて、どうにも落ち着かない。

 たとえ―― 俺の失恋が確定しようとも、悠理には幸せになって欲しいし。
 

 「今の状況を壊したって、図太いヤツは生き延びるさ。」
 俺は言い終わる前に、清四郎の腹に、軽くパンチを入れてみた。
 拳に、固い腹筋の感触。
 眼が合うと、清四郎は不敵ににやりと笑った。
 「生憎と、僕は繊細な性質なので、環境が変わったら生き延びられそうにありません。」
 「よく言うぜ。」
 「お互いさまです。」
 「なあなあ、なんの話をしてるんだよ?」
 男二人の間に割って入った悠理に、俺と清四郎は何事もなかったかのように笑いかけた。
 「友情を確かめ合っているのですよ。ねえ、魅録?」
 「ああ、男の分厚い友情って奴をな。」


 三人の関係が壊れたとしても、友情まで壊れるわけじゃない。

 自然っていうものは、案外と図太くできている。

 「悠理。」
 「あん?」
 振り返った顔は、色気の欠片もない。
 その表情が、俺と悠理の、自然な関係を表わしている。
 
 俺は、ガキの顔をした悠理に、ウインクを送った。

 「清四郎に飽きたら、いつでも俺が相手になってやるぜ。」

 瞬間、悠理の顔が火を噴いた。

 「ば、馬鹿野郎っ!いきなりヘンなこと言うなよっ!」

 怒る悠理があまりにも可愛くて、俺と清四郎は、声を上げて笑った。



 もう少し―― もう少しだけ、この不自然な関係を楽しんでいたい。

 この、甘くて苦い関係を。





タイプ S
タイプ Y


皆さま、拙作を読んでいただき、誠に有難うございます。
お恥ずかしいことに、コレは20万ヒットの祝い品として、フロさまにお約束していたブツでございます。はい、その通り。20万ヒットっていつだっけ?という感じです。なので、厚顔に輪をかけて開き直ります!
今回のテーマは「不自然だけど、自然な関係」です。最近、お馬鹿と鬼畜に走っていたので、リハビリを兼ねて、清×悠←魅という、王道の三角関係に挑戦してみました。不満を抱きつつも、何となく現状を維持し続ける、微妙な関係を描いたつもり・・・です。つもり、なのが、かなり虚しい・・・
毎度毎度、フロさまには愚作をアップしていただき、感謝しております。今後もお見捨てになられぬよう、よろしくお願いしますねvv



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