ビオトープ  タイプY
         by hachi様




 小等部の校庭にある、小さな池。

 人間が作った、不自然な自然。


 自然じゃないなら、自然、って言葉を使うのは間違っている。
 あたいがそう言い張ると、清四郎は困ったように笑った。
 少し離れた場所で、魅録も同じように笑っていた。

 それが、あたいたちの関係を、そのまま表わしていた。


 あたいは清四郎が好きだ。
 告白したわけじゃないけれど、清四郎も、それを知っている。
 そして、あたいたちは、たぶん、両思い。
 自惚れじゃない。それは、確信だ。
 天下一品の野生の勘が、こちら向けられた清四郎の想いを感じ取っている。
 同時に、魅録の想いまで、感じ取ってしまったのは困り者だけど。


 「ビオトープというのは、憩いの場でもあるのです。」
 清四郎が、小さな池を眺めながら、そう呟いた。
 「小さな生物が憩い、それを思って、人間も憩う。作られた自然だからこそ、余計に心が落ち着くのかもしれません。」
 「なるほどな。何となく分かるぜ、その気持ち。」
 魅録はそう答えながら、せわしなく手を動かしている。
 煙草が吸いたくて堪らないんだと、すぐに分かった。
 だって、あたいたちの友情は、とても長くて、濃いものだから。


 あたいが知る限り、この二人は、最高の男だ。

 強烈な個性。他人を惹きつける魅力。余りある才能。

 タイプは違うけれど、ふたりともかなりのイイ男だ。

 そんな二人から想われるなんて、あたいはすごい幸せ者だ。

 でも―― あたいが好きなのは、魅録じゃない。


 煙草を欲してさ迷う魅録の手とは対照的に、清四郎の手は、あたいの肩に落ち着いている。
 でも、ふたりの身体の間には、空間がある。
 親友よりも狭くて、恋人よりは大きな空間だ。
 少し近寄って、その距離をちょっとだけ埋める。
 そのぶん、魅録からは遠ざかってしまい、胸がチクリと痛んだ。

 
 ビオトープは、まるで今の三人みたいだ。

 いくら自然を装っていても、本当の自然じゃない。

 不自然なのに、自然だと言い張っている。

 でもね、でも。


 「いっそすべてをぶち壊したほうが、自然なのかもしれないな。」
 魅録が空を見上げて呟く。
 「そうだな。作った自然なんて、自然じゃないし。」
 あたいも空を見上げて呟く。
 「壊したほうが幸せなら、それでも構わないんですけどね。」
 清四郎も空を見上げる。

 どんな関係だろうが、あたいの想いは本物だ。
 何があっても、それは変わらない。
 それを伝えたくて、清四郎の指に触れてみた。
 途端に指を絡め取られ、しっかりと手を握られる。

 
 「でも―― 不自然な環境であっても、中で暮らす生物たちは、本物ですよ。」
 
 清四郎の言葉に、あたいは大きく頷いた。






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