コスモス

BY 樹梨様

 

「これだけあると、ほんとぉ!すっごいなぁ!!」

いつもは、15センチの距離を開けて横を歩く悠理が、

今日に限ってしっかりと手をつないできた。

それも、指と指を交互に絡める恋人つなぎ。

その手をぶんぶんと振り回しながら、こぼれそうな笑顔で騒いでいる。

手を離すと今にも飛んでいきそうな勢いだ。

 

 

「せいしろ〜、コスモスの花畑の向こうに東京タワーが見えるよ!!

不思議な感じだけれど、綺麗だなぁ。

コスモスもこれだけ咲いていると、圧倒されるよなぁ」

と言いながら、入口で買った使い捨てのカメラで、コスモスを撮っている。

 

「都会の中のオアシスって感じですね。

コスモスは、ギリシア語で「美しい」の意で、

花の美しさゆえに名付けられた和名だそうです」

 

そんなんだぁといいながら、眩しい笑顔でこちらを見つめてくる。

なんだか今日の悠理は、いつもの悠理と何かが違いますね。

タマ&フクの形をしたリュックを担いでいても、女らしさが滲み出ていますね。

抱きしめて、頭からバリバリと食べてしまいたくなるくらいですよ。

可憐がアドバイスを?それとも美童の入れ知恵か?

いや、そんなことを言われたぐらいで悠理が変わるとは思わないし・・・

 

 

コスモスがよく見えるベンチに腰掛ける。

それでも悠理は手を離そうとはしない。

はい笑ってぇと、言いながら角度を変えて何枚の僕の写真を撮る。

そして、2ショットもね!と言って、僕の顔にぴったりと顔をつける。

 

悠理の熱が、僕に伝わる。

いや、僕の熱が悠理に伝わっているのでは?

心臓がはちきれそうにドクドクといっている。

その横で、悠理はまたもや何枚も写真を撮っている。

って君は、林家パー子か!!

 

 

「「ここに、30万本咲いているんだって、

それをぜひ清四郎と見たかったんだぁ。

30万って、響はすばらしいよなぁ。愛を感じる響だよなぁ。」」

恍惚をした表情で悠理は僕に向かって、話をする。

 

「「このコスモスの花言葉は、あたいの気持ちだよ、清四郎。

それと、いまはあたいのことフロって呼んで欲しいんだけど。」」

体を完全にこちらに向けて、食い入るようにこちらを見ている。

というか、今にも襲い掛かろうとしている獣のようだ。

思わず、悠理の両腕をつかんでしまう。

 

舌なめずりまでして・・・

目が、ハートになって・・・

この目を以前に見たような・・・・

もしかして??

 

「昨日、電話の前に何をしていた?」

そんなことは、どうでもいいのにと言うと、

急にぼんやりとした表情になってしぶしぶと答えている。

「え〜と、パソコンでメールだよ。

何件かあったんだぁ。

そういえば、1件意味不明のがあったなぁ」

「なんて書いてあったんだ?」

畳み掛けるように質問する。

その後の記憶がうっすらとしているなぁ、

と言いながらボソボソと答える。

「やっと見つけた・・・とか、

カーニバルとか、フェスティバルだとか、

1日だけのお祭りだとか。30万を祝いたいとか。」

 

 

それを聞いて、がっくりとうなだれた。

こんなに積極的なのは、そのメールが原因なのですね。

 

 

「なにが30万の祝か解りませんが、

そのメールの発信源はそのことを祝いたかったんでしょう」

 

「「そうなの、清四郎。

これはフェスティバルなの。

だから、今だけフロって呼んで!!」」

さっきまでのぼんやりとした悠理と違って、

舌なめずりをしている悠理が出てきた。

「あなたが、メールを送ってきたヒトですね。

それとも怨霊かな?」

すこし声のトーンが下がって、清四郎が鋭い目をむける。

しかし、目の前の悠理というかフロはそんなことは全然意に介せず、

「「そんな顔しても、全然大丈夫。

伊達に場数は踏んでいないわ!!

いつもあなたを見てるもの。

それにあんなことも、こんなこともさせているし・・・」

「え?何を言っているのですか?」

全然理解できないと、清四郎が眉間にしわを寄せて聞き返す

 

「「あ、いいえ何でもないの。

ばれちゃったけれど、目的は達成するわよ!

 悠理ちゃんを帰して欲しかったら、

お願いを1つ聞いて」

 

悠理の腕を握っている手に力が入る。

「何をさせようと言うのですか?」

 

いままで、強気な態度だったのが、一転もじもじとさせて、

「「ぎゅ〜、して欲しいの」」

 

 

「へぇ???」

思わず清四郎は、素っ頓狂な声を出す。

「それをして欲しいために、悠理に入ったのですか?」

 

悠理(フロ)は、うるうるした目をこちらに向けながら、

大きく何度もうなずいている。

 

なんだかテレビのCMで見たことのある犬のチワワのようですね。

いくら今が違う人格が入っているとは言え、

いまにも雫が零れ落ちそうな潤んだ瞳でこちらを見て、

震えた声で言われてしまうと、理性が音を立てて崩れていくのがわかる。

体が、悠理を求める。

つかんでいた両腕を外し、背中へと手が廻る。

 

「華奢な体ですね。この体でどこからあんなパワーが出てくるのでしょう・・

ああ、柔らかい・・・」

頭の芯が疼きそうになったとき

 

「「・・・・あぁ、たまらない・・・・」」

と陶酔した表情で呟いたと同時に、悠理はそのまま意識を失った。

 

 

本当にこれが目的だったのですね。

なんだかよく解りませんが、役得ですな。

 

 

 

なんか、体中が痛いよなぁとぶつぶつ言いながら、肩を廻しつつ悠理が横を歩く。

いつものとおりきっちりと15センチの距離を開けながら。

いつもの悠理に戻ったみたいだな。

この距離が、元に戻ったことを如実に表していますね。

それにしても、左手のぬくもりが恋しいですね。

こういうものは、一度味わうと元に戻るのはなかなかつらいものがありますね。

と左手を見つめて思う。

 

「あれっ?カメラが無い!!」

急に立ち止まって両手を見ながら、悠理が叫んでいる。

 

なかなかやりますね。カメラまで持っていきましたか。

ふむ、よほど強い信念で動いているのですね。

まぁ、今回は楽しませていただいたので、

それぐらいはあげるとしましょう。

 

「明日、カメラを買いに行きましょうか、悠理。

これからは、2人のアルバムを増やしていきましょう」

 

 

急に立ち止まって2、3歩後ろにいた悠理は、

みるみるうちに顔を紅く染めると、顔中をほころばせ頷く。

 

頬を染めたまま歩き出すと、僕に追いつきすっと手を絡める。

「ゆうり!!まさかまだ、中に・・・?」

「ちっちがうわい。

なんだかこうしていたとき、心がほんわかしたんだ。

だから、これからも手をつないでもいいか?」

ぶっきらぼうに。

だけど、とても暖かい言葉が僕の中に注ぎ込まれる。

 

「ええ、悠理。これからはずっとこうしましょう。」

 

生霊か怨霊か、

謎は判明しませんでしたが、

今日は、フロという人に感謝しなければなりませんね。

 

清四郎は、柔らかな左手の感触を確かめながら歩き出した。

 

 

 

  フロです。このお話は、樹梨様に三十万ヒットのお祝いに頂いちゃいましたv

  清四郎にぎゅーっとされてるよ、ワタシ!!(歓喜)

  ん?どこのどなた?ワタシが抱擁だけで満足するはずない、なんて言ってるのは?

  ついでにあんなことしたりこんなとこもちゃっかり触っちゃったり・・・

  いいえ!気持ちだけは恋する乙女!

  ありがとうございます、樹梨様♪

 

 

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