10月31日文&絵 あき様
晩秋を向かえ、清四郎は秋の夜長を読書にあてていた。 来週になれば学期末テストに向けて「悠理のテスト対策」を練らなくてはならず、今のうちに溜まってしまった本を片付けてしまおうと、手当たり次第に読んでいただけだったが。 コンコンと軽いノックの音がして、清四郎は活字を追うのをやめ、「どうぞ」と声をかけた。 母にしても、姉にしても、声が聞こえればドアを開けるはずなのに、ドアノブは一向に動く様子が無かった。 気のせいだったのかと続きを追い始めると、またコンコンと先程より少し大きな音が聞こえてきた。 「開いてますよ。」 清四郎も今度は、大きな声で言った。 それでも、ドアは開かなかった。 訝しく思った清四郎は、ドアに近づき様子をうかがってみた。確かに人の気配はあった。 また、姉がいたずらでも仕掛けようとしているのだろうか。 その手は喰わないとばかりに、清四郎は一気にドアを手前に引いた。 「うわぁっ!」 思いがけない声がして、オレンジ色の物体が清四郎の腕の中に転がり込んだ。 よく見れば、オレンジ色のニットのワンピースにグリーンの太いベルトを締め、オレンジとグリーンの縞のタイツに、頭にジャックオーランタンの帽子を被った悠理だった。 「まったく、何て格好してるんだ。」 あまりの悪趣味に清四郎は眩暈さえ感じ、思ったままを口に出した。 「いいだろう。今夜はハロウィンなんだから!」 清四郎の腕からその身を離すと、悠理が膨れっ面で答えた。 「それより、『Trick or Treat !』 お菓子ちょうだい。」 悠理が清四郎に向かって、小さな子供のように両手を出した。 「ここに、お菓子はありません。今、下から貰ってくるから待ってろ。」 清四郎は、ほとほと呆れたといった調子で悠理に告げた。 一瞬、悠理の目によからぬ光が走った様な気がした。 「ブ~。いたずら決定!目、瞑ってそこに立ってて。いいって言うまで、絶対に明けるなよ。」 どうやら悠理は、始めからハロウィンにかこつけて、何かいたずらをするのが目的で訪ねてきたようだった。 「こうですか?」 (悠理のいたずらなんてたかが知れてるとはいえ・・・・・) やれやれといった様子で、清四郎は悠理に言われるままに目を閉じた。 スッと悠理の近づく気配がして、同時に唇に伝わった軟らかい感触にビックリして目を開けると、超ドアップの悠理と目があった。 「ばっ、馬鹿!いいって言うまで、明けるなって言っただろう!!」 見る見る真っ赤になった悠理は、そのまま踵を返すとバタバタと部屋を出ていってしまった。 「あんた、悠理ちゃんになんかしたの?」 飲み物と茶菓子を持った和子が、悠理と入れ違いに顔を見せた。 (あんたの方が、なんかされちゃったのねぇ・・・・・) 締まりの無い顔で立ち尽くしていた清四郎は、その唇にリップグロスが微かについていることに気づいた和子が、悪魔の微笑を浮かべていたことを知る由も無かった。
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たまには、ウブな清四郎くんもイイかなぁ・・・・と。 悠理ちゃん、確信犯です(笑) |