JACK-O'LANTERNを作りましょう

                      BY 青蘭 様

 




十月も半ば過ぎの日曜日。僕は何を思い立ったのか、大きなオレンジ色のカボチャと彫刻刀を握り締めていた。

これから”ジャック オ ランタン”を作るのだ。

悠理ちゃんは、仮装が大好きだから(たまに偶然外で会ったりするといつも派手な服を着て仮装してる)、きっとハロウィンパーティーを学校でしたら喜ぶに違いない。

そう思ったから、手作りのカボチャのランプを作ることにした。

悠理ちゃん、気に入ってくれますかね? 僕のこと見直して友達になってくれますかね? そうだと良いな。

 

 

 

 

 

 

「痛っ」

ああ、また指を切ってしまった。僕としたことが、情けない。この硬い皮がいけないんです。

「せいしろう? また指怪我したのか?」

「ええ、このカボチャの皮が硬くてね」

「おまえ毎年同じこといってるじょ」

「そうでしたか?」

そういえば、同じ科白に同じ怪我を毎年繰り返している気もしたが、都合の悪いことはこの際忘れましょう。

素知らぬ振りをして、”ジャック オ ランタン”作りに精を出した。

このカボチャが切欠で、僕たちは少しずつ距離を縮めることが出来たのだから。

 

二十二年前、当時、聖プレジデント学園小等部で児童会会長をしていた僕は、悠理の気を引きたくて全校生徒を巻き込んだハロウィンパーティーを企画した。

最初は躊躇っていた、生徒達も最後には楽しそうにしていましたね。

 

「月末にある、ハロウィンの日にハロウィンパーティーを企画したいと思います。つきましては、児童会委員で、”ジャック オ ランタン”を作りたいと思います。異議のある方はいますか?」

この発言で、一気にざわめき出した児童会委員たち。

無理もない。この学園の生徒は箸より重い物を持ったこともない、良家の子息たちばかりなのだから。

「異議のあるものは?」

両腕を組み、片眼を瞑って、悠理いわく『悪魔の微笑み』と称される笑みを浮べ問うた。

たちどころにシーンと静まり返った、児童会室。

フフン。嫌とは言わせませんよ。

皆さんには損はさせません。その代わり、僕と悠理ちゃんが友達になる為の切欠作りを手伝ってもらいますよ。

 

その時の僕は締りのない薄ら笑いを浮かべていた、と後になって野梨子が言っていた。

締りのない、とは失礼ですねえ。あのたおやかな幼馴染は、時々、本当にきつい人です。

 

 

 

「剣菱さん」

いつもは車で送り迎えの悠理ちゃんが、今日は珍しく一人で帰宅していた。急いで後を追いかけで、名前を呼んだ。

「なんだ、おまえか。あたいに何か用事?」

苦み虫を噛み潰したような顔。もう慣れたけれど、少し悲しい。

「そんな嫌そうな顔しないでください、実は今度のハロウィンの日に、全校でハロウィンパーティーをすることになったんです」

「ふーん、で、あたいに何の用?」

ああ、そんな素っ気ない返事、パーティーや仮装好きだと思ったけど、違ったのか?

「剣菱さん、よくお父さんの用事で海外にいくでしょう。だから日本では余り馴染みのないハロウィンのこととか教えてくれたら良いなって」

少しの沈黙と何か考えているような表情。

「お願いします。もし良かったら、児童会に協力してくれませんか?」

「なにすればいいの?」

悠理ちゃんは、頬っぺたを真っ赤にして、ぽつり、と呟いた。

「主に、代表的な行事。仮装とか、カボチャのランプのこととか色々」

「あたいもよく知らないけど、前に仮装パレードに参加して、そのあとお菓子を貰いに色んな家を周った」

「パレードとお菓子ですね。お菓子は、仮装姿のままで?」

「うん、なんか呪文を言うと、そこの家の人がお菓子の包みを持ってきてくれた」

「呪文? その呪文覚えてますか?」

うーん、と難しい顔で悠理ちゃんは、必死で思い出そうとしてくれてて、なんだかその姿が急に可愛く思えて、暫くの間じいっと見つめていた。

「菊正宗、ちょっと家に来いよ!」

突然手を握られて、心臓が飛び出しそうになるくらい吃驚した。でも驚いてる暇もなく、あっと言う間にぐんぐん悠理ちゃんは僕の手を取りながら走っていく。

置いていかれないように、僕も本気で走った。

 

 

 

「昔はあんな弱っちかったのに、あたいの足に付いて来るなんて、いつの間に運動得意になったんだ?」

少しだけ、納得いかない、という表情で悠理ちゃんは誉めてくれた。

僕、悠理ちゃんとこうやって話したり、一緒に遊んだりしたくて、あの時から身体を鍛えてたんですよ。

「実は、拳法を習ってます。走ることは基本ですからね、毎日マラソンしてますよ。でも剣菱さんも、もの凄く素晴らしい運動神経ですよ」

「へえ〜、拳法。本格的だな、あたいのは自己流喧嘩作法だけどな、これでも強いんだぜ! 今度一緒に勝負しよう!」

茶色い瞳をキラキラ輝かせて、悠理ちゃんは言った。

勝負じゃなく、デートならもっと嬉しいけれど、今度一緒に、という言葉が嬉しかった。

どんなに強くても、女の子と勝負する訳にはいかないけれど。でも、嬉しかった。

 

 

 

「菊正宗、今、五代に聞いてきたじょ、お菓子の呪文。”トリック オア トリート”だって」

「お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃうぞ、ですかあ」

「おまえ、小学生のくせによその国の呪文が判るのか? すげえな〜さすが児童会長だな」

本当は、こうして悠理ちゃんと一緒にパーティーの計画をたてられたら良いなと思った。だから自分で下調べもしていた。けどそれは内緒にしとこう、と思った。

凄い凄い、と驚き続ける悠理ちゃんに、ほんの少し罪悪感を感じたけれど、それ以上に二人で一緒にパーティーの企画が出来るのが嬉しくて仕方がなかった。

 

「仮装パレードは、聖プレジデントから剣菱邸までのおよそ3キロ。その後、剣菱の庭でパーティをし、自由参加で、こちらでお願いした近辺のお宅にお菓子を貰いに行く。こんなものでしょうか?」

「ああ、家を使うのは構わない。近所の人には五代に頼んでもらうから。でも何か一つ足りない気がする、…」

「”ジャック オ ランタン”ですか?」

「なんだそれ、また別の呪文か?」

「カボチャのランプですよ。大きなカボチャをくり抜いて、彫刻したカボチャのランプ」

「ああ、そーいえば、そのランプが沢山飾ってあった。美味そうなカボチャの中身は食ってから飾るのかなって思ってたんだ」

「剣菱さんらしい疑問ですね」

そういうと、悠理ちゃんは少しふてくされて、「おまえはカボチャの中身が気になったことないのかよ?」と言った。

「多分、生のままくり抜いて彫刻するから、綺麗にくり抜けば、カボチャの煮物で食べられますよ。そうだ、当日は”ジャック オ ランタン”作りの競争も企画しましょう!」

「あたいは、競争より食べる審査員のほうが良いな」

「では剣菱さんは、コンテストの審査委員長として、これからも協力してくれますか?」

すかさず、そう訊くと、「いいじょ!」と悠理ちゃんは答えた。

今後も怪しまれず接触出来る口実を得た僕は、嬉しくて、今なら何処までも空高く飛んでいけるような、そんな気分だった。

 

 

 

 

 

今日は待ちに待ったハロウィンパーティーの日。朝から僕は、ソワソワしていた。

学校にも、いつもより早く行った。

悠理ちゃんと、約束したんだ、皆よりも早く行って飾り付けをしようって。

 

十月も最後となると、もう外は肌寒い。

でもそんなこと気にならないくらい、僕は上機嫌だった。

 

「おはよう、剣菱さん」

「はよ〜、菊正宗」

頑張って早起きしてきたからかな。悠理ちゃんの柔らかそうな髪は、今日はいつにも増して、あっちこち飛び跳ねてて、なんだか天使に見えた。

「どうしたんだよ? そんな髪ばっか見て、そんなに寝癖酷いか?」

「いえ、いっそ今日は天使の仮装をすれば似合うのにな、って思って」

「ばーか。ハロウィンの仮装って言えば、オバケか、スーパーマンって決まってるんだよ」

そんなことないですよ、定番はあれど、自分の好きなものになっていいんですからね。でもきっと悠理ちゃんのなりたいものはスーパーマンなんだろう、と思った。

それから、今日が終わったら、また僕たちはいつもの僕たちに戻ってしまうんだ、と思ったら悲しくて言葉を詰まらせた。

「どーした? 菊正宗。待ちに待ったハロウィンなのに、暗い顔して」

「そんなことないです、今日は絶対に成功させましょうね」

にっこり笑い、最後の飾り付けを始めた。

児童会で作ったカボチャのランタンを、各教室に一つずつ置き、(他の飾りは各自で作って持ち寄った)正門のところにハロウィンの大きな飾りと、特大カボチャのランプ(剣菱のおじさんが特別に作ってくれた)に、灯を燈した。

最後の点火が終わった時、僕たちは感動して少しだけ泣いた。

一緒にいる口実が欲しくて、この企画を考え付いた。けど、二人で(他にも児童会のメンバーが沢山いたけど)頑張って考えた企画にお互い愛着があった。

だから、二人とも始まる前から、泣いてしまった。

きっと僕はこの日を忘れない。大人になっても。悠理ちゃんと、過したこの数週間をきっと忘れない。

 

 

 

「どうした、清四郎?」

「いえね、小等部のころ二人で企画したハロウィンパーティーのことを思い出していたんですよ」

「ああ、あれ楽しかったな。最後、清四郎もの凄く泣いてた、あたいもつられて泣いたけど」

「違いますよ、あの時は悠理が泣くから、僕がつられて泣いたんです」

「いーや、違う。つられたのは、あたいの方だ!」

「とーちゃんも、かーちゃんもケンカすんなって、早く、”ジャック オ ランタン”作って見せてよ」

僕らの息子が、二人の間に入って、喧嘩の仲裁を買って出るのはいつものこと。

「そうですね、お母さんは僕に謝らなければ。そしてきちんと、事実を認めなければいけませんね」

「なにが、事実だよ。あれは絶対、清四郎が先だったじょ!」

「もういい加減にしろよ、いい大人がみっともない。オレ、ばあちゃん家にまた行くからな」

「「それは、困ります(やめてくれ〜)」」

二人の声が揃い、三人で顔を見合わせる。自然と笑い声が響く。

そして、小さな紳士の顔を立て、仲直りをするのもいつものこと。

けれどね、これは喧嘩じゃなくて、愛情を確かめる為のスキンシップなんですよ。あなたにも、いつかそんな相手に巡り逢えたら判ります。

 

 

 

菊正宗、泣くなよ。あたいも、つられて泣いちゃうじゃないか。

でも、これで終わってしまいました。楽しかったのに。剣菱さんと、悠理ちゃんと一緒にいられて楽しかったのに。

また、来年、…来年もハロウィンしよう。もっと楽しい企画一緒に考えよう。な、菊、…清四郎。

また、来年?

そうだじょ、来年も再来年もずっとずっと、一緒に。

 

 

 

ずっと、ずっと一緒に、……。

 

 

 

Fin

 

 


 

あとがき

 

ハロウィンのお話で妄想してみました。

もしも、清四郎と悠理が実はこっそり、小等部時代に仲良くなっていたら。

きっとこういう感じかな? と思ってみました。

最後に出てくる子供は、フロさまんちの悠希くんをお借りしましたvV

勝手に悠希くん借りました>フロさま(*^▽^*)/

ではみなさま、Happy Halloween Night ☆


 

 

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