ボクは何でも知っている

BY にゃんこビール様

 

「バァァン!」

悠理のおかえりだ。

しかしまぁ〜ずいぶん派手にドアを開けたなぁ…ご機嫌斜めだな。

まったく、悠理はすぐ態度に出るからわかりやすいんだ。

「バン!」

あ、鞄を投げたな。学校でなんかあったんだ。

ドカドカッ「バァァン!」

こっちにきた!触らぬ神に祟りなし…寝たふりしようっと。

「ポフッ」

あれ?ベッドに直行?いつもだったら「ちきしょう」とか「ばかやろう」とか

言って一暴れするのに。

ちょっと薄目を開けてみる。

ベッドにうつ伏せで寝てるの?どうしたんだろう、あんまり元気がないね。

ボクはおそるおそる呼んでみる。

「にゃぁ(悠理)?」

ボクの方に振り返った悠里の目には涙が貯まっている。

どうしたの?スタッとボクはベッドの上に上がった。

「タマ… どうしよう」

起きあがってボクを抱き寄せてくれた悠理。

ポロポロと悠理の涙がボクの背中に落ちる。

本当は毛が濡れるのは大の苦手なんだけど今日の悠理の様子は違う。

もう一度悠理の顔を覗き込み

「にゃ(どうしたの)?」と聞いてみた。

「清四郎に…」

「(清四郎さんに?)」

「ものすごく怒られちゃったんだ。いつもよりうんと、怒られたんだ」

そういうとまたポロポロと泣き始めた。

清四郎さんに怒られるなんていつものことじゃないか。

ボクだって何度も見たことがあるよ。

「清四郎が野梨子のことが好きで、いいんだ、そんなこと」

「(なに?野梨子さん?)」

「昔からわかってるから。だからいいんだ」

悠理、泣かないでよ。

訳がわからないよ、ボクでいいなら話してみて。悠理の顔を覗いて見る。

「だから、ずーっと友達でいようって決めたのに」

「(ともだち?)」

「あんなに清四郎が怒って… きっともう友達でいるのもいやになっちゃったよ。

 あたい、いつもバカばっかりやって、清四郎やみんなに迷惑かけて…」

ポロポロポロポロ…

もう悠理は泣いちゃって言葉が出てこない。

ちょっとちょっと、悠理。

清四郎さんが野梨子さんが好きだって?そんなこと聞いたの?

それに清四郎さんが悠理のことが嫌いだって?

そんなことはないよ。ボクは知ってるよ。

 

ほら、この前、悠理が「月見だんご♪月見だんご♪」ってはしゃいでいた日あったでしょ?

ここで大宴会した日だよ。

みんな酔いつぶれちゃってソファとか床で寝ちゃってさ。

フクのやつは「美童さんってきれいだし、いいにおいがするから好き」とか言って

ちゃっかり美童さんといっしょに寝てたっけ。

まったく女のやつって… そんなことはいいんだ。

ボクも野梨子さんの足もとで寝てたら外のにおいがしたんだ。

あれ?っと思って見たらテラスの窓が開いてたんだ。

誰かいるのかなってボクもテラスに出てみたんだ。

そしてらね、清四郎さんがいたんだよ、一人で。

月明かりに照らされて何だか寂しげな顔をして…

だからボクは声をかけたんだ。「にゃう(清四郎さん)?」って。

そしたらね、「タマか… おいで」ってポンッて膝を叩くんだ。

めずらしいだろう?清四郎さんがボクを抱っこしてくれるなんて。

ボクだって野梨子さんや可憐さんの柔らかいお膝の方が好きなんだけど

いつもと様子が違う清四郎さんを放っておけないだろう?だからお言葉に甘えて飛び乗ったよ。

確かに女の人と違って堅いけど、でも座り心地は悪くなかった。

「お前のご主人はおもしろいね」ってボクの頭をなでながら言ったんだよ。

「泣いたり、怒ったり、笑ったり…表情がころころ変わる」

くすって笑ったよ。とってもきれいな顔だった。

「もしも僕が悠理に好きだって告白したらどうなるだろう」

「(え?清四郎さん、なんて言ったの?)」

「そしたら悠理の態度は変わってしまうかな。

 もし振られたら…今までみたいに付き合えないかな。」

「(うちの悠理はずっとあのままだと思うよ)」 

「太陽みたいな悠理が曇ってしまうくらいなら…」

清四郎さんは青白く浮かんでいる月を見上げて

「せめてこのままそばにいて見守っていこうと思っているんだ」

「(清四郎さん…)」

思わずボクは見上げて清四郎さんの胸に足を置いたんだ。そんなことないよって。

「慰めてくれるんですか?タマ」ってまたボクの頭をなでてくれた。

とっても優しい、大きな手で…だからボクはウトウトしちゃったんだけど。

 

だから、清四郎さんは悠理のことが好きなんだよ。

きっと今日怒ったのだって好きだから、心配だからだよ。

ね?だからそんなに泣かないで。

瞳が赤くなっちゃうよ。

ボクはあたまで悠理の頬をなで上げた。

「タマ…」

ぎゅってまた抱きしめてくれた時、内線がなった。

『お嬢様、菊正宗さまがいらっしゃいました』

ほら!清四郎さんだよ。きっと謝りにきたんじゃない?悠理!

悠理はぶんぶん頭を振って「いないって言って」って答えた。

なんで?どうして会わないのさ、好きなのに。

『その…もうお部屋の方に…』

その時トントンってノックする音。

「悠理、いますか?」清四郎さんだ!

清四郎さんの声を聞いたら悠理ったらボクを放り投げてまたベッドに

うつ伏せで寝ちゃった。

ちぇっ ひどいじゃないか、放り投げるなんて。

カチャっとドアの開く音がした。清四郎さん!こっちこっち!

ボクは急いで寝室のドアまで行った。

足もとにいるボクに気が付いた清四郎さんは

「おや、タマ。悠理はいますか?」

「にゃーにゃー(そうです。ふて寝してるんですよ)」

ボクは清四郎さんをベッドまで連れて行った。

相変わらずベッドに伏せている悠理。

そんなにまくらに顔を押しつけたらかわいい顔が台無しだよ。

「悠理、さっきは言い過ぎました。謝ります」

「……」あれ?まさか本当に寝ちゃったの?

清四郎さんはベッドの縁に腰掛けて悠理の髪の毛をなでた。

いいなぁ〜 ボクもまた頭をなでなでして欲しいな。

「悠理、大事な話があります。起きてこっちを向いて下さい」

清四郎さん、この前の月の日みたいにとっても優しい顔をしてる。

「僕はどうも不器用で… 優しい言葉をかけたいのにどうしてもきつい

 言い方になってしまって…」

悠理がぴくんって動いた。よかった、寝てた訳じゃないんだね。

「もうごまかすのはやめます。悠理、僕はお前が好きです」

悠理はガパッと飛び起きた。まだ頬には涙の後があったけど顔は真っ赤だ。

ほらね。ボクが言った通りでしょう?

清四郎さんは悠理が好き。

悠理は清四郎さんが好き。

「悠理は、僕のこと嫌いですか?」清四郎さんは悠理の瞳をじっと見ている。

よかったね、悠理。悠理もきちんと素直に言うんだよ。

あ、ボクはもしかしてお邪魔?

んじゃボクは退散するよ。

ドアの外に出て誰も入ってこないように見張ってなきゃ。

フクもそろそろ戻ってくるし。

今度またボクの頭もなでなでしてね、清四郎さん。

 

 

 おしまい♪

 

  あとがき

 

  実はむかし七之助(通称なな)という男の子を飼ってました。
 家への帰り道に迎えに来てくれたり、
 膝をポンポンって叩くとピョンて乗ったり。
 よく頭でほっぺたとかあごとか突き上げられましたが(笑)
 きっと悠理も同じだろうな〜
 清四郎がタマフクと普段からじゃれるのは想像できないけど
 悠理のことを考えたときに抱っこしそうだな〜
 なんて想像したらこんなの書いちゃいました。
 私も清四郎になでなでしてほしいなぁっていう願望も含めて

 

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