BY ことこ様
タイガーアイ、それは幸運を招く宝石。 金褐色のこの石は、持ち主に深い洞察力と明晰な頭脳を与える。 そう、この石のおかげなんだろう、今の僕があるのは。 彼女の瞳、それが僕のタイガーアイだから。 あいつは時々、あたいの目をじっとみる。あたいを怒る時、褒める時、なだめる時。 そしてたぶん、あいつ自身が落ち込んだり、迷ったりしている時。 深く、深く、まるであたいの瞳に何か大切なものが映っているかのように、 その黒い瞳で見つめる。 いつものように放課後、6人は生徒会室に集まっていた。皆それぞれ好き勝手なことをして、閑をもてあましている。 その中で可憐は、一人熱心に宝石や天然石の特集が載った雑誌を読んでいた。 「へ〜、宝石って一つ一つ意味があるんだな。」 可憐の後ろから雑誌を覗いた魅録は、驚いたように言った。宝石の話など、彼にとっては縁遠いものである。 「あら、知りませんの、魅録。生まれた月によって誕生石が決まっていて、それぞれ意味がありますのよ。一月でしたら誕生石がガーネットで真実、忠実という意味ですし、…」 「やっぱり野梨子も宝石とか興味あるんだ。僕は女性に宝石を贈るときは、ちゃんと意味を踏まえたうえでプレゼントするよ。」 美童が野梨子にウィンクしながら言った。さすが世界の恋人、その辺りの知識に抜かりは無い。 「一般常識として知っているというだけですわ。もちろん、美しいものを見るのは嫌いではありませんし。大体、美童、あなた宝石の意味をご存知なら、女性にサファイアだけは贈ったらいけませんわよ。」 野梨子はすげなく言う。 「言いますねぇ、野梨子。サファイアの意味は確か『誠実』でしょう?確かに美童には似合わないが。」 そう言って苦笑する清四郎に、美童はすっかり憤慨していた。 「ひどいなぁ!僕ほど誠実な人間はいないと思うよ。」 「ルビーは情熱でダイヤモンドは純愛、いいわよね〜こんな意味を込めた宝石を素敵な男性からプレゼントされたら。」 可憐は想像してうっとりしている。 「好きそうだよなー、女ってそういうの。」と魅録は呆れ顔。 「あたいはおいしいもんをプレゼントされたほうがいいじょ。」 おやつのせんべいをかじりながら悠理は言った。剣菱財閥令嬢の彼女であるが、当然のごとく宝石に興味は無いようである。仲間達にとって意外でもなんでもない。 「お前はいわゆる『女』の中に入りません。」 「なんだと〜!清四郎!」 清四郎の言葉に、ふくれた悠理は、おやつのせんべいに伸ばした清四郎の細長い指に噛み付こうとした。 「かみつくなっ!」「がるるっ!」 「ったく獣じゃないんだから。もうちょっと女らしくしたらどうですか。」 「うるさい!」 清四郎と悠理がこうやってじゃれあうのもいつものことである。もちろん悠理は魅録ともよくつるんで、じゃれあっているように見える。しかし、趣味の似たふたりがつるんでじゃれあうのは成り行きであり、趣味も性格もまったく違う悠理と清四郎がじゃれあうというのは、お互いかまってほしくほしくてちょっかいを出すからであろう。 そのことに悠理は気づいていない。 「見て見て〜!こんな意味のある石もあるみたいよ。タイガーアイ、『知力・判断力』ですって。『怠惰な心を絶ち、明晰な頭脳と知覚を与える』らしいわよ。悠理、テスト前はこの石持ってたらいいんじゃない?」 可憐のアドバイスに悠理は顔を輝かせた。 「ほんとか〜!それ持ってるだけでテストで点数とれるんだな!」 「まぁ、悠理ったら。持っているだけで勉強ができたら苦労しませんわ。きちんと自分で努力もなさいませ。」 「あたいだって、試験前は清四郎にしごかれて頑張ってるぞ〜。でも、やったって清四郎みたいにできないんだい!ん、そうか!清四郎、お前もしかして、このタイガーアイってやつ持ってんだろ!」 何を馬鹿なことを・・・、清四郎もそう答えるだろうという皆の予想とは裏腹に、清四郎はめずらしく言葉につまっていた。 「・・・。」 「何、清四郎?もしかして本当にタイガーアイ持ってるの?」 美童が興味津々で聞いてきた。この隙の無い男が言葉につまるなんて、珍しいことである。 「じゃあ、僕にも貸してよ!古典のテストの前には、ぜひご利益にあやかりたいな〜。」 そう言う美童に清四郎は即座に答えた。 「駄目です。」 「なんだ〜?やっぱりお前もってんのか、その石!あたいにも貸せ!!」 「そうだよ、独り占めしないで、僕にも貸してよ。」 「持っているというか・・・。」 悠理と美童は必死である。他の3人も、歯切れの悪い清四郎に怪訝な顔をしている。だいたい占いや神頼みなど一切しないような自信家で現実主義者の彼が、パワーストーンを後生大事に持っているなんて、想像できない。宝石を夜な夜な眺め、にんまりと笑う清四郎・・・そんな想像に魅録は身震いしてしまった。 うだうだと清四郎に文句を言い続ける二人から逃げるように、清四郎はかばんを持って立ち上がった。 「今日は親父の病院に顔をださなきゃいけないんでした。それじゃあ。」 そう言って生徒会室から出て行ってしまった。 「なんか変だな〜今日の清四郎。何、動揺してるんだ?」 「くそ〜やっぱり詳しく聞いてくるぞ!あきらめないからな〜そんなすごい石!」 そう言って悠理は清四郎を追って生徒会室を出た。 「ほんと、珍しいわね。清四郎があんな風に言葉をにごすなんて。」 可憐の言葉に、野梨子は含み笑いをして言った。 「冷静な清四郎が動揺するのは大抵『あること』に関するときですわ。小さい頃から。」 「「「あること?」」」 その頃、校庭で清四郎に追いついた悠理は、逃がすまいと後ろからタックルをかけた。 「まて!清四郎!あたいにもそのタイガーなんとかっていう石貸せ!」 しかし細身の悠理のタックルごときでは、清四郎はびくともしない。 「ったく、お前は。食べ物と楽してテストの点を取ることに関しては執念深いですね。」 以前、勉強のできる霊が悠理に衝いた時の騒動を思い出しながら清四郎は言った。 「なんとでも言え〜。とにかく、その石持ってんだよな、せーしろ?」 悠理は清四郎の制服の袖をつかんで、すがり付くような目をして言った。清四郎は、この金褐色のうるんだ大きな瞳に弱い。思わず、タックルを抱きとめた手に力が入りそうになる。そのことを悠理は知ってか知らずか、おねだりをする時はいつもこんな顔をする。 「・・・まぁ、持っているというか、なんというか。僕のものであってほしいんですが、今の段階ではなんとも・・・。」 「なんだ、それ?お前のもんじゃないのか?」 その言葉に清四郎はにっこり笑って、悠理のあたまをくしゃっと撫でながら言った。 「遠からず僕のものになる予定です。だいたい、お前のテストの勉強は僕がみてやってるだろう?」 清四郎が時たまする、この諭すような優しい目に悠理は弱かった。思わず見入ってしまうような、そらしたくなるような。 「・・・わかったよ。でもその石がお前のものになったら見せろよ。」 「もちろんです。」 清四郎の黒い瞳に見つめられるのが照れくさくなって、悠理は、ぴょんと飛びはねて清四郎の側から離れた。 (じゃれてきたと思ったら、急に離れたり。・・・全く、自覚がない分やっかいですね。) 「な〜るほどね。じゃあタイガーアイって悠理のことなのね。クサイわね〜。でも、清四郎がそんな風に思ってたなんて、あたしとしたことが、今まで気づかなかったわ。」 校門に向かいながらじゃれあっている二人を窓から見て、可憐は言った。 「ひねてますから清四郎も。悠理も気づいてないと思いますわ。」 野梨子はお茶をすすりながら言う。 「でも悠理もまんざらじゃないと思うな。だって悠理、清四郎の前だと時々すごく可愛らしい顔するんだよ。すこし色があるというか。」 美童はうすうす気づいていたらしい。 「まぁ、でもあいつは自分の気持ちに自覚はないと思うけどな。清四郎さんも前途多難だな。」 魅録の言葉に、悪魔の笑みを浮かべて美童が言った、 「ま、あの悠理の無自覚な攻撃に、清四郎の理性がいつまでもつか楽しみだね〜」
おわり |
あとがき 初にお目にかかります、ことこです。拙い処女作を読んでいただき、ありがとうございました。また、いきなり作品を送りつけたにもかかわらず、快く受け止めてくださったフロ様、ほんと〜にありがとうございます! 清悠にはまって、2ヶ月、jazztronikの「tiger eyes」という曲を聴いて、その内容があまりにも清悠だったため、勢いで書いてしまいました。しかし、勢いだけで、どう終わったらよいかも分からず、結局、恋愛の達人・美童にしめていただきました(汗)。いやはや、困ったときの美童頼みになりそうです。 この二人は、かなり前途多難だとは思いますが、歌詞にある通り、いつかは「もらった愛の分だけ光放つ」悠理が見てみたいと思っています。私の筆力ではその日は遠いのですが・・・。 調子にのって時代物有閑も書いている途中です。これからもよろしくお願いいたしますvv |