Blue X'mas

 

小さい頃、わがままを言って庭に植えてもらったもみの木。

もう15年以上も経ってるから小さかったもみの木も立派になった。

それからは毎年毎年、クリスマスに飾り付けをした。

飾り付けはあたしの役目。

同じ飾り付けにならないように毎年苦労したっけ。

キャンディーやジンジャークッキーを飾ったり、

タマやフクのランタンを作ってもらったり、

色とりどりのライトと小さいミラーボールをいっぱいつけたり、

ゴールド一色のオーナメントをたくさん付けたり。

それから仲間たちともみの木の前でパーティしたっけ。

みんな忙しくって6人揃うこともなかなか難しくなってきた。

来年、あたしたちは大学を卒業する。

 

今年の飾り付け。

ブルーのライトとガラスのオーナメントボール。

それだけ。

あまりにも地味だからみんな驚いてたけど、

ガラスのボールにブルーの光がキラキラ映ってすごくきれい。

この青色発光ダイオードって、ノーベル賞ものの大発見なんだって。

清四郎がそんなこと言ってた。

青い空。青い海。

青い地球にはこんなに青がいっぱい溢れてるのに

発明するのが大変だったなんて、なんだかヘンな話。

 

「悠理…」

後ろからふわりと抱きしめられた。

清四郎はいつも大きな腕であたいを包んでくれる。

あたしはこうやって後ろから抱きしめてもらえるのが大好き。

清四郎にちょっともたれかかる。

「寒くないんですか?」

「うん、大丈夫」

清四郎と付き合い始めて5回目のクリスマス。

仲間たちは気を遣ってくれて24日と25日はふたりっきりにしてくれる。

「今年の飾り付けは何だか寂しいですね。」

そう?ほら、ガラスにブルーの光が当って風に揺れてきれいだよ。

ちょっと後ろを振り返ると清四郎の顔もブルーに染まってる。

すっと通った鼻筋。きゅっとしまった薄い唇。漆黒の瞳にもブルーが映ってる。

あたしの視線に気が付いた清四郎はふっと笑った。

「どうかしました?」

「ううん、何でもない」

「そうですか…」

そういうとぎゅっと抱きしめてくれた。

清四郎ってなんて温かいんだろう。

ふたりでいるとなんて温かいんだろう。

でも来年の春からはこんな風に抱きしめてもらえない。

清四郎はイギリスに留学してしまうから。

あたしは後ろから回された腕をぎゅと抱きしめた。

「寒いんですか?」

ううん、違う。

清四郎がそばにいなくなることはもの凄く寂しい。

寂しいけど、泣いてばかりじゃいられない。

あたしだっていつまでも子供じゃないんだ。

清四郎に包まれたまま、黙ってブルーに飾ったツリーを眺めていた。

「悠理…」

清四郎が耳元にささやいた。

あたいの名前を呼ぶ声はなんて優しいんだろう。

「僕がイギリスに行っても、絶対に無理をするな。」

いつもと違う口調にあたしは黙って聞く。

「悠理が僕の…顔を見たいとき、声が聞きたいとき、そばにいて欲しいとき、

 我慢しないで僕のところに来い。」

清四郎があたしの髪に顔を埋める。

清四郎と付き合いはじめて5年間。素直になれず、ケンカして、傷つけて、

でも離れられなくって… 色々なことがあったっけ。

色んな清四郎の顔が目に浮かんでくる。

笑ってる顔、怒ってる顔、意地悪そうな顔、ムッとしてる顔、はにかんだ顔、

そして、愛してるって言ってくれる顔…

堪えていたものが押さえきれなくなる。絶対に泣かないって決めたのに。

「僕も我慢はしません。悠理に会いたいときはお前のところに帰ってきます。」

「…そんなことしたら勉強できないじゃん。」

ちょっと口答えして何とか泣くのを堪える。

「悠理と会えない方がはかどりませんよ。」

いつもの清四郎の声に戻ってくすりと笑った。

だったら留学なんてしなきゃいいのに、なんて言えない。

剣菱を継ぐために決めた留学。結局はあたしのため。

「…うん、わかった。」

「絶対ですよ。」

「…うん、約束する。」

ツリーからブルーの光に包まれてると、世界でふたりきりになったみたい。

青い海の中に清四郎とふたりきり。

青い地球に清四郎とふたりきり。

あたしは清四郎に包まれて、守られて、こんなにも愛されて。

どんなに離れたってあたしは清四郎といっしょ。

「さ、いい加減家に入りましょう。風邪を引きますよ。」

そう言うと清四郎は腕を緩めてあたしの手を握った。

清四郎の手から温かさが伝わってくる。

「ねぇ、清四郎。来年のツリーはどうしようか?」

「もう来年の話ですか?」

ちょっと呆れた顔をしてあたしの顔を見て、クスッて笑った。

「来年は僕も手伝いますよ。」

「うん!」

来年の飾り付けはふたりで考えよう。

ふたりでこのもみの木を世界一きれいなツリーにしよう。

それからその次の年も、その次の年も。

ずーっと、ずーっと…

清四郎に抱きしめられてあたいはツリーを見上げられるんだよね。

 

 

 

壁紙:季節素材 雲水亭様

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