「ほら、泣かなくても大丈夫ですよ。じゃあ、早速、飼い主募集の張り紙でも作りましょうか。」
あの後、子犬を魅録に預けることにして、お互い家に帰ることにした。明日の放課後、清四郎の家で飼い主募集の張り紙を作ることにして。

 

 

菊正宗清四郎氏の一週間の憂鬱

                       BY りえりえ様

 



翌日、悠理はクレヨンやペンを持って、清四郎の家を訪ねた。部屋に入ると、清四郎のパソコンとプリンターがカタカタカタと音を立てて動いていた。
「何か持ってきたんですか。僕の方は今印刷を始めたところですよ。」
清四郎が、階下から紅茶とケーキを持って上がってきて、言った。
悠理は、プリントアウトされた印刷物を見ていた。子犬の写真が何枚か貼られたポスターには『飼い主&里親募集!!』とあり、一番下には『連絡先:菊正宗清四郎 090−1146−××××』と書かれていた。悠理は、クレヨンやマジックペンを持ってきた自分がひどく幼稚な気がして、急に恥ずかしくなった。
「う・・・ううん、別に。」
清四郎は、そんな悠理に紅茶を勧めながら、悠理のカバンの中をひょいとのぞきこみ、にっこりと微笑んだ。
「ペンとかを持ってきてくれたんですね。僕のうちには、あまりそういった彩色がないので、助かりますよ。」
「でも、オマエのプリントしたやつでいいじゃん。」
「何を言ってるんですか。『二人で作りましょう』って約束したじゃないですか。プリントアウトした紙の上に、彩っていきましょう。」
そう言われて、悠理は心がほかほかと温かくなっていった。

二人は、次に外に出た。二人でなんとか仕上げた張り紙を、電柱に貼っていく作業のためである。一枚一枚丁寧に・・・子犬の飼い主が見てくれますようにと願いながら貼っていった。

 

 



願いがかなったのか、驚いたことに反響はものすごかった。毎晩10件以上の「里親希望」の電話がかかってくるのだ。清四郎は、一人ひとり丁寧に応対し、名前と連絡先を控えていった。しかし、残念なことに飼い主は現れなかった。

日一日と清四郎が疲れていくのを見て、悠理は魅録に相談をして、次の土曜日に里親を決めることにした。

清四郎も、その提案に賛成した。何しろ毎晩毎晩電話がかかってくるのだ。

土曜日のお昼、聖プレジデントの校門前に集まったのは総勢70名以上の男子生徒であった。皆が熱い目で見ているのは、魅録が抱いている子犬ではなく、清四郎その人であった。
悠理と魅録は清四郎の横に立っていた。
「魅録・・・これって・・・」
「・・・だよなあ。」
明らかに、全員子犬よりも清四郎と仲良くなるチャンスを狙って来ているのだ。清四郎は眉根を揉んでいた。

しかし、黙っていては始まらないので、魅録が仕切ることにした。
「じゃあ、子犬を飼える環境が整っている、もしくは整えられる人が残ってください。」
一気に40人くらいが帰っていった。飼えないんなら来るな!と言いたかったが、無意味なので止めた。
「じゃあ、動物を飼ったことがある人は?」
10人くらいはいた。
「この子犬を見て、どうしても飼いたいという人は?」
全員が諸手を挙げた。
「これじゃ、きりがねぇな。悠理、オマエが発見者なんだから、オマエの勘できちんと育ててくれそうな人を決めてくれよ。」
悠理は目を閉じて、目の前に立っている男子30余名を指差し始めた。
「んん〜〜〜〜〜・・・・・・この人!」
他の人たちはがっかりして帰っていった。
残った一人は、嬉々として子犬を受け取り、清四郎と握手をして帰っていった。

 



聖プレジデントの校門の前には、清四郎と、魅録と、悠理が立っていた。
魅録がいたわるように言った。
「道理で『毎晩の応対が大変』だったわけだ。」
悠理も、清四郎の顔を覗き込んで言った。
「どうしてオマエって、男にモテるんだろうな・・・。」
清四郎は、ようやく眉根を揉むのを止めて言った。
「僕が聞きたいですよ・・・。もう里親探しはコリゴリです。」
12月の寒い風が吹き抜けていった・・・。

 

 

 

 

 


***あとがき***

 

清四郎の電話番号を知りたい人は、きっと山ほど居るでしょう。 私もその一人。でも、架けてくるのは男子ばかりなんですねぇ〜。 イジワルしてごめんね、清四郎ちゃん。

 

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