北海道哀歌

BY hachi様

   いつものメンバーで訪れた北海道。

 

とある土産屋で発見したモノに、皆は眼を奪われた。

 

 

平べったい袋を手に、可憐が大口を開けてゲラゲラと笑う。

「何なの、これ!?最低すぎて、面白いじゃない!!」

野梨子が何ごとかと横から可憐の手元を覗きこんだ。

「まあ・・・」

清純派の野梨子は、可憐が手にしているものを見た途端、顔を赤らめた。

 

 

 

それは、ボクサーブリーフだった。

 

黒い生地。前面に緑色のキャラクターが大きくプリントされている。

キャラクターの股間は異様に膨らんでおり、眼は厭らしげな三日月形をしていた。

ただでさえ馬鹿っぽいのに、キャラクターの上方に描かれた文字が、さらなる馬鹿馬鹿しさを醸し出していて、見るものの心を脱力させて止まない。

 

 

キャラクターは。

 

その名も。

 

 

「まりもっこ@」

 

 

その名前がブリーフの前面にでかでかとプリントされているのだから、ある意味、最低の土産である。

 

 

 

可憐はブリーフを手にしたまま、大声で皆を呼んだ。

恋人たちのためにロ@ズのチョコを選んでいた美童と、仲良く並んで乳製品の保冷棚を眺めていた清四郎と悠理が、ブリーフの前に集結し、それを認めた瞬間、可憐と同じように爆笑する。

「ぎゃははは!何だよ、コレ!馬っ鹿みてえ!」

悠理が手を叩いて馬鹿ウケする。それを受けて、可憐の笑いも激しくなる。

「あはははは!最低だね!こんなの穿いてたら彼女が逃げちゃうよ!」

他人事のように笑う美童の姿に、清四郎が、くっ、と笑いを押し殺して、低い声ながらも、はっきりとこう言った。

 

「笑っているところ済みませんけど、これ、美童に似ていますよ。」

 

―― 人一倍、もっこりしたところが。

 

最後までは言わなかったが、誰もが清四郎の言わんとすることが分かった。

 

可憐や悠理だけでなく、野梨子までもが、その場に崩れ落ちて笑い転げた。

「何だよ!?僕はそんな品の無いものに似てなんかいないぞ!」

美童は必死に反論したが、それが皆の笑いを倍増させる結果となった。

「ひーっ!おかしすぎる〜!!美童、コレ買えよ!絶対似合うぞ!」

「そうよぉ!あんた、絶対に似合うわ!私が保証する!」

「ご、ごめんなさい、笑いたくはないんですけど・・・ああ、駄目!」

床をのた打ち回って笑う女性たち。美童はきゅっとくちびるを噛み、女性たちから視線を上げて、清四郎を睨みつけた。

「清四郎、何てこと言うんだよ!失礼だろ!」

怒りの矛先が向けられた清四郎は、棚に寄りかかったまま笑いを噛み殺し、意味ありげな瞳で美童を見た。

 

「本当に似ているから仕方ないでしょう?」

 

その言葉に、美童はぐっと詰まった。

白人の血がなせる業か、美童が一般的な日本人よりもっこりしているのは、紛れもない事実だったからだ。

 

だが、このまま引き下がっては、世界の恋人、世紀の貴公子の名が廃る。

美童は、手近な陳列棚を見回し、あるものを見つけた。

それを掴み、清四郎の鼻先に突き出す。

 

 

「清四郎なんか、コレじゃないか!」

 

 

それは、お馴染みの北海道土産。

 

獰猛なヒグマの顔がどアップでプリントされた「熊出没@意」のトランクスだった。

 

 

「おお!美童!それナイス!」

床をのた打ち回って笑っていた悠理が、ぱっと顔を輝かせて親指を立てる。

「清四郎のヒグマ、いっつもいきなり飛び出して襲ってくるから、めちゃめちゃぴったんこだよ!!」

今度は、清四郎が青くなる番だった。

「な、何を言うんです、悠理!?僕はいつも理性的じゃないですか!?」

「どーこーがっ!お前、エッチに関しては野生の本能丸出しじゃんか!」

「僕がいつ凶暴なヒグマになりました!?」

「サイズが凶暴だじょ。」

「そういう悠理のほうこそ、噛みついたり引っかいたりするじゃないですか!凶暴なのは貴女のほうです!」

流石の会話に、野梨子は笑うのを止めたが、可憐の笑いは止まらない。マスカラ混じりの黒い涙を流しながら、腹を抱えて笑っている。

 

 

この時点で、彼らの周囲から他の買い物客の姿は消えていた。

誰もが眼を合わさないよう、そっぽを向いてそそくさと店を出ていく。

 

営業妨害も甚だしいが、一般的な中流家庭で暮らしてきた店員に、ゴージャスで美形揃いの彼らを止められるはずもなく、ただ黙って傍観するしかなかった。

 

 

ひいひいと笑っていた可憐が、ようやく起き上がった。

頬に残る黒い涙の筋を、手の甲で拭い、改めて陳列棚を見る。

「あら?こんなシリーズもあるのね。」

その声に、痴話喧嘩をしていた清四郎と悠理が言い争いを止めた。

一足早く素に戻っていた野梨子も、喧嘩を見物していた美童も、可憐が指した棚を見る。

 

 

そこにあったのは「熊出没@意」の姉妹品―― というか、兄弟品。もしくは親子品。

 

 

「あん?みんな、何してんだ?」

一同の視線が、棚から離れ、そこに現れた声の主・魅録に注がれた。

 

魅録は、外の屋台で買ってきたであろうクラシッ@ビールを持って、首を傾げていた。

 

 

皆は、何故か彼から眼を逸らし、俯いた。

 

しかし、何も知らない魅録は、皆が先刻まで見ていた棚に視線を向け、見つけてしまった。

 

 

「おっ、可愛いな!これ、買って帰ろう!」

 

 

魅録が嬉々として手にしたのは―― 

 

「熊出没@意」と同系シリーズである「こぐま出没@意」の、トランクスだった。

 

それに、とても愛らしい小熊のプリントが施してあるのは、言うまでもない。

 

 

 

「何で皆、黙ってるんだよ?」

訝しげな視線を向ける魅録に、皆は弾かれたように顔を上げた。

「いや、別にっ!それ、可愛いな!魅録にぴったりだよ!」

美童が引き攣った笑顔で答える。

「本当、魅録に似合うわ〜!」

可憐が取ってつけたように叫ぶ。

「うん、サイズも魅録に・・・むがむがっ!!」

最後まで言う前に、悠理は清四郎に取り押さえられた。

 

 

魅録は訝しげに一同を見つめていたが、野梨子に促されて、レジへと向かった。

 

手には、もちろん「こぐま出没@意」のトランクスを持って。

 

 

 

それ以来、「まりもっこ@」や「熊出没@意」のぱんつについては、誰も口に出そうとはしなかった。

 

 

無論のこと、「こぐま」並みのサイズについても。

 

ちゃんちゃん♪

 

 

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イラスト:kotobukiya