薄いブルーグレーのシーツから覗く細い肩に唇を落として、清四郎は身を起こした。 清四郎が起きた後のベッドの上には、白いレースのカーテン越しに落ちる陽光が降り注いで、シーツに包まる悠理の素肌を美しく輝かせていた。 「悠理」 「ん ……?」 「さすがに、そろそろ起きませんか?」 「やだ ……。もちょっとこうしてたい ……」 正午間近の日差しの中、未だまどろんだままでいる悠理の髪を、清四郎がゆっくりと撫でる。 暫く指で髪を弄んだ後、名残惜しそうに離して、清四郎はひとつ息を吐いた。 「好きなだけ寝てろ」 悠理の額を拳で軽く小突いてベッドから離れると、清四郎はベッド脇のサイドチェストの上にある眼鏡に手を伸ばした。 黒いセルフレームのウェリントン型の眼鏡をかけ、髪を掻き揚げながら、清四郎は自室を出て、階段を下りていった。
パソコンのキーボードを叩く軽快な音に、悠理は目を覚ました。 身体は横にしたまま、うっすらと目を開けれは、目の前に見慣れた男の黒い後頭部が目に入る。更によく見れば、清四郎はベッドの側面を背凭れにし、床に胡坐を掻いて座っているようだ。 そして、先程から聞こえてくる小さな音は、清四郎の膝の上に乗ったノートパソコンから発せられているのだった。 悠理は目前に見えている清四郎の頭に手を伸ばそうと、知らず知らずベッドから落ちていた左手を持ち上げた。 その途端、硬く冷たいものに指先が当たり、悠理は咄嗟に指を止めた。ゆっくりと視線を下げ、自分が触れたモノの正体を確かめれば、それは、何の変哲もないペットボトルの容器だった。 水が入っているらしいそのペットボトルは、キャップを開けた状態で、フローリングの床に直接置かれていた。そっと手にして持ち上げてみると、ボトル容器の下半分くらいに水滴が付き、容器の周囲を覆っている。 悠理はペットボトルを持ったまま、ゆっくりと身体を起こした。 「せいしろ」 自分を呼ぶ悠理の声に一呼吸おいた後、清四郎が静かに口を開く。 「何です」 ベッドに背を向けたまま、清四郎は、キーボードを叩き続けている。 「この水、もらっていい?」 その瞬間、一定のリズムを刻んでいたキーボードのタッチ音が途切れ、ノートパソコンを床に置く重い音がした。 清四郎はベッドの方を振り向き、眼鏡のレンズ越しに悠理を見詰めた。 「せいしろ? あ、あの、イヤなら別にもらわなくてもいいんだけど」 「何を慌ててるんです。僕はまだ何もいってませんよ?」 そう言って清四郎は微笑み、悠理の手からペットボトルを取り上げると、そのまま水を口に含んだ。それからボトルを持った方の指で悠理の顎を持ち上げ、清四郎は悠理の口をこじ開けるように、自らの唇を重ねた。そうしてそのまま舌で口内を少しずつ押し広げながら、清四郎は悠理の口内へと水を流し込んでいき、口から溢れて零れた水は、顎をつたい、シーツに落ちて染みを作った。 「んっ ……」 悠理の喉が小さく鳴って、口中の水を飲み込む。 そうして思いがけない方法で悠理の喉が潤った後も、清四郎は悠理を離すことなく、彼女の吐息を味わいつくしたのだった。 ― END ―
サイト5周年の記念に、千尋ちゃんが書きおろして下さいましたv 眼鏡清四郎萌えの私の趣味を盛り込んで(笑)糖度たっぷりのふたりをありがとうね!(フロ)
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sozai:abundant shine様