こいのきざし

BY りかん様

 

 

その日はたまたま寒い日だった。まだ初冬であるこの時期には珍しく、東京に寒波がやってきた。

そのため空はいまにも雪が降りそうな感じで、どんよりと曇っていた。

悠理は清四郎と待ち合わせをしていた。

”絶対、遅れるなよ!”、そういわれたから、30分も前にここにきてしまった。

(…さみぃ。)

二人はお昼を食べて映画を観る約束をしていた。

そもそも悠理は清四郎と一緒に映画に行くつもりはなかったのだ。

『なぁ、美童、一緒に映画観に行かない?』そう美童を誘ったのだった。

魅録が法事のため、泊りがけで親戚の家にいってしまったので、チケットが余っていたから仕方なく美童を誘ってみた。

女性陣は勿論、行くはずのないアクションもの。

清四郎を誘ったら、また何かにつけて小言をいわれそうだったので嫌だった。

『ごめーん。悠理。その日はデートなんだぁ。』

聞いたあたしがバカだった。悠理は後悔した。美童にデートの無い週末はないのだ。

『清四郎、行くか?』

一応聞いてみる。まさか誘わない訳にもいかないかと思ったので。

それを察したのか、ちょっと面白くなさそうな顔をして清四郎は言った。

『いいですよ、悠理が遅れてこないというのであれば。』

『あたしが遅れるわけないじゃんかー!』

そういった手前…。早く来て清四郎を待ってようと思った。

映画は14時から。

今は11時半。

(なんか、雪でも降りそうだよなぁ。)

そう思いつつ、駅の近くの小径においてあるベンチに座って待つ。

そういえば。

(携帯!)。

やっぱり、忘れた…。

ごそごそと服の中をあちこち探しても出てこない。

辛うじて、財布とお金は持っていたけど。

(参ったな…。)

寒いから店の中で待っていたくとも、これじゃ店の中では待てないな…と悠理は思った。

この場で携帯買ったとしても、清四郎の番号がわからないからどうしようもない。

悠理は諦めてベンチで待つことにした。

(寒いな…。)

空を見上げると、雪がちらほら降ってきた。

ハーッと手に息を吹きかける。白い息が指先に掛かる。

(息が白いよ〜!。清四郎早く来い!!!。…でも、何故か人を待つのって、どきどきするな。)

 

 

「君ねぇ…。」

清四郎は呆れた声で呟いてしまった。

父の友人の娘が父親の誕生日プレゼントを購入するのに急遽つき合わされることになってしまい、その子と一緒にデパートにきていた。午前10時の開店と同時に店にいる。

さっきから、何度も同じ物を取っては、下に置いていた。

「用事があるので、そろそろ、行かないといけないんですけど…。」

「まぁ、清四郎さん。わたくしの父より、友達との約束が大事なんですのね!」

彼女は意地悪く言う。

確かに彼女の父親にはお世話になっている。

でも、友人との約束をすっぽかすわけにも…。

「お行きになれば、よろしいんですのよ。わたくしは、ここで一人、父へのプレゼントを選びますわ!」

そこまで言われると、去るわけにもいかず。

時計を見ると11:50を指していた。

約束の時間まであと10分。

(彼女の買い物をなんとかあと20分以内に終わらせれば、12時30分には着くか。)

とりあえず、彼女が商品に見入っている間にメールする。

”ちょっと遅れるから、適当に店に入っていてください。お店、決まったら、メールください。”

 

結局、彼女の買い物が終わったのは、12時半だった。

外へ出ると、うっすら雪が積もっていた。

5mm積もったか積もらないかくらいだろう。

清四郎はメールを見た。が、何も返事が無い。

携帯に電話をするが、出ない。

おかしいな〜、と思いつつ、剣菱邸に電話を入れる。

「お嬢さまなら、まだ戻ってきておりませんが。」

(待ち合わせ場所にいるんだろうか?まさか…な。)

こんなに寒いのだから、きっと、カフェにでも入って、ケーキでも食べているのだろう。

そして、ぼくに連絡をいれるのを忘れているに違いない。

清四郎はそう思いつつも、一応電車に乗り、待ち合わせ場所に向かう。

(あ…っ!!)

雪がうっすらと積もった、真っ赤なオーバーを来た女性が、ベンチに座っていた。うつむいている。

(…ここで待っていたんだ。

 バカだバカだと思っていたが、ほんっとに、バカなやつ!

 店に入っていればよかったのに…。)

清四郎は呆れていた。

「悠理。こんなところで、どうして待っていたんですか。メール、みてないんですか?」

呆れた声で声をかけると、悠理は驚いたように、清四郎を見た。

「おまえが遅いから、悪いんじゃないか!」

怒ってムキになっていう。

「携帯、家に忘れたんだから、仕方ないだろ。おまえのメールなんて、見れなかったよ!」

「…。」

清四郎は言葉を失った。

(だからって…。

 電話番号案内とかで、僕の病院を調べるとか、なんとかって、できないんですかね…。

 まぁ、悠理に期待するほうが、無理か…。)

悠理は鼻が寒さで赤くなっており、今にも鼻水が流れそうだった。

「ほら、鼻をかみなさい。」

清四郎はティッシュを取り出し、悠理の鼻にピタッとくっつけた。

(…冷たい。)

顔がひんやりしていた。

「何時から、ここにいたんです!」

「11:30。…遅れないって、約束したから。」

いまはもう1時近かった。

(幾ら約束したからって、1時間30分も、こんなところで…。)

清四郎は自分のしていたマフラーを悠理の首に巻きつけた。

悠理が健気に待っていてくれたことに対して、胸がキュッと締め付けられる思いがした。

「悠理、すまなかったね。とりあえず、温かいコーヒーでものみにいきましょう。」

悠理はコクッと頷いた。

清四郎は悠理の手を取って歩き出した。

やっぱり、手まで冷たい。

「清四郎の手。あったかいな…。」

ぽつりと悠理は言った。

(悠理の心のほうがあったかいですよ…。

 1時間半も、あそこで待つなんて、普通はありえないでしょ…。)

清四郎は悠理の手ごと、コートのポケットの中へしまいこんだ。

 

 

 

 

 

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2005.11.07

2006.04.15 3人称に修正。タイトル修正。ただしひらがな(PM)

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