逆襲?

 

 BY りかん様

 

 

卒業旅行当日。

あれから悠理と顔を合わせていない清四郎は暗澹たる気持ちで当日を迎えた。電話を掛けてもはぐらかされる。

しまいにあの告白は幻だったんじゃないかと思い始める。

きっとそうに違いない。

そう思わないとやってられなかった。

 

福岡に2泊、由布院に3泊の予定だった。

最初の2日は悠理案、残り3日は野梨子案だった。もちろん、じゃんけんで決めたのである。

本当は、悠理案、すなわち食道楽だけの予定だったのだが、女性2人の反対にあい、残り3日は次にじゃんけんで勝った野梨子の温泉案でいくことになった。

福岡では到着した日の夜はもつを食べ、翌日は屋台巡りをした。到着した昼から、昼はラーメンやばかり巡っていた。福岡では特に観光らしい観光はしなかった。可憐と野梨子は食べてばかりで胃がもたれてしかたなかった。掌サイズのひよこを購入した悠理は無邪気に喜んでいる。それを見た可憐と野梨子はげんなりしてしまった。清四郎と魅録は苦笑するばかりである。ちなみに美童は到着した空港で知り合った女の子たちと2日間デートをしていた。

福岡を出て、翌日は由布院。

可憐と野梨子は前日までが前日までだったため、浮き立つ思いだった。

由布院ではのんびりするつもりで、温泉・美術館巡りをしたり、ステンドグラス作成などを行った。

でも、悠理は清四郎と視線を合わせないばかりか、避けるようになっていた。

他の4人はあまりにもひどい悠理の態度に、ちゃんと話し合いをさせないといけないと思っていた。

 

夜。

食事処で会席風の料理を食べ終えると、男性陣の部屋に皆向かった。

「今日、僕たち4人で話し合ったんだけどさ。」と美童が言った。

悠理と清四郎は虚をつかれたような表情をした。

「二人とも、せっかくの卒業旅行だというのに、話しもしない。この部屋でちゃんとふたりで話し合いなよ。」

「ええ。そうですわ。このままでは清四郎のどんよりした顔の写真ばかりが増えていきますもの。」

野梨子は溜息をついた。

「そうよ。30分くらい経ったら戻ってくるから、ちゃんと二人で話し合うのよ。」

可憐は立ち上がり、「行きましょう。」と他の3人を誘って、室外に出て行った。

「話し合えって言われても…。」

ぶつぶつと悠理は呟いた。

清四郎のほうを見ずに、部屋の隅のほうに向かっていって座り込んだ。

すっかり、避けられている。

清四郎はそう思った。

ここは思い切って、聞くしかない。

「悠理、どうして僕を避けるんですか。」

悠理は暫く黙ったのち、口を開いた。

「…だって、照れくさいじゃん。」

「だからって、何も避けることは…。」

清四郎がそういうと、悠理は「うるさいな。」と話しを打ち切り苛ついた表情をした。

それから、10分くらい、また沈黙してしまう。

清四郎は本当にどうしたらよいのかわからなかった。

これが美童だったら、近くに寄って行って、優しく愛の言葉を囁いて、抱きしめて、とするんだろうなと清四郎は思う。でも、そんなことはできない。清四郎がやったら余計に悠理を不機嫌にさせるだけ。

だけと、ちゃんと確認しないといけない。

清四郎は意を決して言った。

「僕のことを、好きだといいましたよね…。」

「なっ…!何を!!!」

悠理は真っ赤な顔をして清四郎を見た。いまにも火を噴きそうである。

「いいましたよね?」

清四郎はにじりよった。悠理はあとずさろうにも、隅にいるので、あとずされない。

「悠理は僕のことが好きですよね?」

あと10cmほどの距離に顔がある。

清四郎は真っ直ぐに悠理を見詰めた。

鼓動が速まる…。

「…うん。」

悠理は頷こうと思ったが、清四郎の顔があまりに近すぎて、頷いたら頭をぶつけそうだった。

「じゃあ、言葉で言ってみてください。」

相変わらず、悠理に顔を近づけたまま、清四郎は言った。吐息が悠理の顔にかかる。

あまりに清四郎の真剣な眼差しに、悠理は熱くなる顔を手で被いながら言った。

「あたしは、清四郎のことが、…好き。」

(いっちゃったよー!!!恥ずかしい…。)

悠理はそのまま、視線を下に移した。

清四郎は悠理の頬から、悠理の手を外し、自分の手で、悠理の頬を被った。

「僕も、悠理のことを好きです。」

清四郎はにっこりと悠理に微笑むと、顔を近づけてきた。

(…まさか!)

そう思った瞬間、清四郎の唇が悠理の唇に触れた。

清四郎はほんの1,2秒唇をつけただけで、一度、口付けるのをやめた。

悠理は内心ほっとする。これ以上口付けをされたら、ショート寸前だった。

これは、きっと卒業式の鼻水事件の逆襲に違いない、悠理はそう思った。こんなにどきどきさせられて、一体、どうしたらいいんだろうと。

一方、清四郎は天にも昇る気持ちだった。

やっと、悠理と思いが通じたのだ。

(もう、このまま、いくしかない…。)

清四郎はもう一度、悠理に口付けた。

そして、今度は濃厚に口付ける。

悠理は初めての口付けに目が点になった。

でも、しているうちにとても気持ちがいいなと思った。先ほどの羞恥心なんて、どこへ飛んでいったのやら…。

(このまま、押し倒してしまいましょう。)

悠理の背と壁の間に手を入れ、ゆっくりと悠理を横にしようかと清四郎は考える。理性は既にどこかに飛んでいってしまっていた。

いま、誰とここに来ていて、そしてどういう状況なのか、というのを清四郎はすっかり忘れていた…。

「ちょっと…、あんたたち。」

頭の上のほうから声がして、二人はギョッとした。

可憐が仁王立ちになって鬼の形相で二人を見下ろしていた。

その後ろに他の3人が苦笑いしつつ、見ている。

清四郎と悠理は慌てて離れた。

清四郎は悠理の衣類に手をかけなくてよかったとちょっとほっとする。だが、そういう問題ではないということに、清四郎は気づいていない。

「話し合いはするようにいったけど、だれも、ここでそこまでしていいって言ってないわよ。」

「はしたないですわ。人前で…。」

「ほんとだよ。全く、見せ付けてくれちゃって…。」

「こういうところでは、健全にな!」

 

その後、散々2人はからかわれ、翌日の帰路では清四郎が他のメンバーに見せつけるように悠理に張り付いていた。

 

 

 

 

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2006.3.10

 

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