ホワイトデーのお返しには・・・?

 

 BY りかん様

 

 

朝、目が覚めると悠理は寝汗を相当かいていた。

「夢か。」

恐ろしい夢を見た。

 

・・

 

悠理の部屋に清四郎がいた。黒のニットを着ていた。

『悠理、今日はホワイトデーですね。』

『うん。』

『僕からプレゼントがあるんです。』

『何!?』

勿論食べ物に違いない。と夢の中でも思っていた。

『何?』

わくわく顔で清四郎を見る。

と・こ・ろ・が。

『うぎゃあ!!!』

安田大サーカスの団長さながらの早業で清四郎は服を脱いだ。

『僕自身をプレゼントです。』

真っ裸に着物の帯のような太さのピカピカつるつるした青いリボンを胸に巻き付け(勿論胸のところでリボン結び)ていた。

悠理は駆け出した。

(恐すぎる)

『どうしました?僕のプレゼント、気に入らないんですか!!!。』

追い駆けてくる。

部屋を飛び出し、屋敷の外へ出て、何故か生徒会室へ。窓を開けようとするが開かない。

逃げ場が無くなった。

『悠理、観念しなさい。』

清四郎がにじり寄ってくる。

『ギャーッ!!!変態!!!』

 

・・

 

そこで目が覚めた。

 

「怖かった…。」

(前みたいに正夢にならなければいいけど…。)

今日は3月14日。一応付き合い始めたのでデートの約束はしていた。卒業旅行から戻ってきて、最初のデートである。今日は清四郎の予約した店で夕飯を食べようということになっていた。

バレンタインデーはムカついた腹いせに”嫌い”と言って悠理はマシュマロをあげた。大体そんなのにお返しがくるかどうかさえ、微妙だったけれど、何かくれるんじゃないかなぁと悠理は期待していた。

 

夕方、清四郎が悠理を迎えにきた。コートを着ているからどんな服を着ているのかわからない。が、着ているコートがベージュ系だったことに悠理はちょっとホッとする。しかし、手には何も持っていない。一抹の不安を覚える。

「少し早く着きすぎてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫。」

屋敷をてくてくと歩いて出る。付き合い始めて間もないがキスまで済んだ二人は堂々と公道を手を繋いで歩いて向かう。正確にいえば、”手を繋いで”ではなく、”清四郎が悠理の手を掴んで”であるが。悠理は付き合う前までは手を繋ぐことは、全く平気だったのだが、何故か今は手を繋いで歩くのが恥ずかしかった。

今回、剣菱家の車でレストランに向かってもよかったのだが、清四郎はデートの行程を楽しみたかったので、電車で目的地に向かうことにした。

目的地の駅の近くのビルに二人は入った。店は地下1Fにあった。

ヌーベルシノワだった。窓際の席に通される。長細い中庭のようなところがあって、外の光が取り込まれるような構造になっていた。水が上から緩やかな滝のように流れて落ちていて、夜は青いライトでライトアップされている。満月というわけではないが、月の光も取り込まれていて幻想的な明るさがあった。

「たまにはこんな店もいいでしょう。」

清四郎はコートを脱いで、ウェイターに渡した。(清四郎のニットは黒じゃない、チャコールグレーだ)。内心ホッとしながら悠理も真似してジャケットを渡す。

向かい合って座る。

あらかじめ清四郎が予約していたコース料理の前菜が運ばれてきた。

白いプレートの上に食べやすい薄さに切られたあわびが乗っていて、その上に水菜とキャビアが添えてある。

「本当は、ワインがいいけど。」

「そうですね。まあ、一応、日本ですし。ここは普通のレストランですから。」

苦笑する。

日本じゃなかったら飲んでいただろうし、旅館なら飲んでいたことだろう。

一応、今回は気を使って凍頂烏龍茶を飲みながら、食事をする。

相変わらず噛み合っているような噛み合っていないような会話をしていたが、それはそれで二人は楽しんでいた。

 

食事を終え、店を出て、もうすぐ駅に着くというところで清四郎は「悠理、今日はもう帰ります?」と尋ねた。

「まだ帰らなくともいいけど。」

「じゃあ、あそこの噴水のそばに座りませんか?」

「いいよ。」

ライトアップされた噴水が見えるベンチに腰掛ける。清四郎に手を引かれたまま座る。従って密着状態だった。

(なんか居心地悪いな…。)

甘い雰囲気とは無関係な生活を送る悠理はこそばゆい気がしてならなかった。

「バレンタインも貰ったので、悠理にお返しをしようと思いまして。」

(まさか…!)

悪夢再来か!?
手には何も持っていなかった。

ということは、まさか、こんなところで…。
ひきつり気味に清四郎に微笑みかける。

清四郎は一瞬不思議そうな顔をしながらも、悠理ににっこりと微笑み掛けるとポケットから小さな箱を出した。赤い小さな箱に白いりぼんが掛けてある。

(アクセサリー?)

「開けてみて下さい。」

促されて箱を開けた。

(おっ!!)

中にはタマフクらしき猫を象った小さいペンダントトップのついたシルバーのペンダントが入っていた。

「わっ!!!」

悠理は嬉しくて思わず清四郎に抱きつきそうになった。抱きつく代わりに、笑顔を向ける。

「何にしようか迷ったんですけど、あのブローチと同じモチーフのタマフクのペンダントにしたんです。可憐に聞いたら、これが一番いいだろうって。」

清四郎は照れてうっすら頬を赤くしながら、言った。

「嬉しい!ありがとう!!!大事にする!」

飛びつきそうな勢いで悠理は言った。

「喜んで貰えて、よかった。」

「うん。早速、つけてもいいか?」

「ええ、勿論です。」

悠理はペンダントを持つと、首の後ろに手を回した。

なかなか嵌らない。少しいらつき気味の悠理を見かねて、「僕が留めてあげましょうか。」と清四郎は立ち上り、悠理の後ろに立って、チェーンを掴んだ。

そのときだった。

ドンッ

 

酔っ払いが、清四郎の背中を押すような形でぶつかってきた。

 

「あっ!」二人同時に声をあげる。

 

ポチャン…。

 

ペンダントが宙を舞い、そして、噴水の水の溜まっているところへ、…落ちた。

「ペンダント〜っ!!!」悠理が噴水を見渡し、靴を脱いで中に入って探し始める。

清四郎もあとを追う。

二人でペンダントを探す。

水の流れがあったため、なかなか見つからなかった。

結局、見つかったのは、午前0時を少し回ったころだった。2時間近く、二人は探していた。

終電に乗って帰るのも面倒になり、悠理の家の車を迎えにきてもらって、二人は別々に帰った。

清四郎は、ホワイトデーなのにキスすらも出来ず、悶々としながら家に帰ってきた。

一度部屋に戻って着替えを取りに行き、濡れた服を脱ぐために、脱衣所へ向かった。

「せっかくのホワイトデーが、あの酔っ払いのせいで、台無しですよ…。」

独りごちながら、服を脱ぐ。

「僕をプレゼントしようと思っていたのに…。」

清四郎の体には青いリボンが体に巻きつけられていた。

 

 

 

 

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2006.3.14)放置

2006.4.22)完

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