アフタヌーンティのあまい罠
BY りかん様
ホワイトデーから何度かのデートを重ねるが、なかなか先が続かなかった。和子の「健全なお付き合いをしなくちゃね。」という一言から、菊正宗家では常に誰かが二人の行動をおよそ30分おきに監視するようになった。悠理の家でも同様に、と言っても菊正宗家とは異なり、百合子が興味津々そうに用もないのに頻繁にお茶を運んできたりする。 今もメイドではなく百合子がにやにやしながらお茶を運んで来た。 もうすぐ大学に入学する。その前にあま〜いひとときを持ちたいと清四郎は考えていたのになかなかうまくいかない。 キスもあの卒業旅行以来、やってない。 というか、しようとしても、必ず邪魔が入る。 「悠理、たまには二人で出掛けませんか?」 「二人で?いつも出掛けてんじゃん。」 「そうではなく、泊まりがけです。」 「泊まりがけなら皆でがいいんじゃないか?」 清四郎は心の中で涙した。 ですからそうじゃなく! 「僕達は恋人同士なんですよ。」 「だから?別になんの関係もないじゃん。」 悠理には恋人同士のあまいひとときを持ちたいという男心?が全くわからないようだった。 こういう場合は餌に限る。 「じゃあ、おいしいものを食べに行きましょう。」 「おいしいものってなんだよ。」 清四郎はしばし考え込む。 (どこかに泊まりに行かなければ意味がないですよね。となると、ホテルの…。ランチじゃ夜まで間が開きすぎですね。夜だけじゃ…。あ!) 「こういうのはどうです?××ホテルのアフタヌーンティーに明日二人で行くというのは。」 「明日か〜。まあいいけど。」 清四郎の策略なんて知らない悠理はにんまりした。既に食べ物のことしか考えていないと見える。ちょっと良心が痛んだが、それはそれでいいことにした。 翌日、清四郎は昼食を食べ終えると悠理の家に向かった。悠理は身支度を整えて待っていた。 悠理じゃないので、おやつなんて食べる必要はないのだが、動物を釣るためには仕方が無い、そう思っていた。 「早く行こうぜ。」 「ええ。行きましょう。」 今回は17時まで、ホテルに入ればいいのである。そんなに急いで行かなくともよかった。そのため、悠理の家の車で向かう。 平日の昼間のせいか道路も思ったほど混んではいなかった。 15時過ぎにホテルに到着する。アフタヌーンティをおこなっているラウンジへ向かった。中に入ると大きな庭園のよく見える席に案内された。 二人はイングリッシュティーを注文した。ティースタンドが運ばれてきて、そこにはスコーン、ペストリー(タルトやケーキ)、サンドイッチが一段ずつ乗っていた。紅茶は、清四郎はダージリン、悠理はオレンジペコを注文していた。悠理ははちみつを入れて紅茶を飲む。その上、スコーンにはたっぷりのクロテッドクリームとジャムを添えて食べていた。 (胸焼けがしそうですね。) 清四郎は苦笑しながら、自分の悠理にスコーンを分けた。なるべく、長く、この場にいてもらいたかったからというのもあったが、おなかいっぱいにさせて、眠気を誘う作戦もなきにしもあらず・・・。 そんな訳で、サンドイッチも半分やって、悠理の満足げな表情を眺めては、ほくそ笑んだ。 17時近くなって、ほどよく紅茶もおなかに入り、悠理は少し眠くなったようだった。 眠そうにあくびをかみ殺している。 「悠理、少し、ここで休みませんか。昼寝、しましょう。」 「ここで?」 「そう、せっかくですから、ここで夕食も食べましょう。おいしいですよ。」 「うん、そうだな。そうしようか。」 清四郎の策略なんてわかっていない悠理は、清四郎の言うことに同意した。清四郎は悠理の気が変わらぬうちにと、早速、部屋を取りにいった。 悠理は、一人、置いていかれて暇だった。 (暇だなぁ〜。) ふと周りを見渡すとある人物がめんどくさそうに男性と話していた。 どうやら、振っている最中らしい。 (もてるんだぁ。) 相手も悠理の様子に気づいた。驚いたように目を見開いた。 「悠理ちゃん!」 相手の男性を放って、近寄ってくる。 「こんなところで会うなんて、奇遇ね。」 「そだね。」 「今、誰と?」 「清四郎と一緒なんだけど、夕飯まで暇だからって、部屋をとりにいったよ。昼寝をするんだって。」 「そう。」 女性は少し考え込むしぐさをすると「私も取り込んでいるから、また、あとでね。」と言って、席に戻っていった。 清四郎が戻ってきて、二人は部屋に行く。 中に入ると手前がバスルームやトイレなどで、その次に寝室、そして一番奥が庭園の見えるリビングルームになっていた。もちろんベッドはダブルベッドである。悠理はさほど気にせず、ベッドの上に横になる。 「ほんとに、眠いなあ。少し寝てから、食事にいこうぜ。」 「ええ。」 清四郎も隣で横になった。 悠理はすぐに寝息を立てはじめる。 (嘘でしょ?) 清四郎は今の今に寝てしまった悠理が信じられなくて、悠理の頬を軽くつねってみた。 …起きない。 そっと、唇を指で触れてみる。 全く無反応。 清四郎は悠理の唇に唇を重ねた。邪魔そうに顔を顰める。 なんだか、憎らしくなって、清四郎は強く唇を押し付けた。そして悠理の上に覆い被さる。 「んっ…。」 悠理が眠そうな顔をして目を開けた。 清四郎は深く口付ける。 眠そうな悠理は相当邪魔そうに払いのけようとしたが、既に清四郎は欲望を抑えられない。強引にキスを続けていると、悠理はおとなしく、清四郎のキスを受け止めて始めていた。 はちみつの味がする、甘い口付けである。 清四郎も悠理もあまいひとときに酔い始めていた。 コンコンッ ドアをノックする音がする。 清四郎は無視をして、悠理の衣類に手をかけた。小さいが、形のよい胸のふくらみに手をかける。触れる体から、悠理の心音が伝わってくる。清四郎も高まる鼓動を抑えきれない。今すぐにでも、全てを解放したい気分だった。 すると、その気分を遮るようにもう一度、ドンドンドンドンとドアを叩くような音がした。 清四郎は仕方なく、悠理の上からおりて、チェーンをしたままドアを開けた。 姉貴…!!! どうして、ここに! 「ちょっと、清四郎!部屋なんかとって、何してるのよ!!!」 蹴破りそうな勢いである。 清四郎は仕方なく、部屋のドアを開けた。そして、和子に引っ張られて部屋の外に出る。鍵が閉まらないようにスリッパをドアの間に挟みながら。 「あんたさあ、魂胆が見え見えなのよ!でも、そうね。」 にやりと微笑む。 「ここのスウィートルーム、スパ付で私の分も払ってくれるなら、黙認してあげるわ。」 清四郎は目の前がくらくらした。 また邪魔されるかもしれないと一瞬頭を掠めたが、もう清四郎の欲望はとどまらないので、仕方なく、言うとおりにすることにした。 諦めて、清四郎は夕食まで、悠理とプールに入ることにした。 プールに入ると水を得た魚のように何往復も泳ぎだす。清四郎のことなんてお構いなしだった。 呆れて悠理の泳ぎを眺めていた。 泳ぎ疲れたので、レストランで食事をしようと思っていたのだが、ルームサービスで食事をとることにした。スパークリングワインを注文し、ほろ酔い加減になる。 食事を片付けてもらうと、遮光カーテンをしめて、清四郎はリビングルームのソファに悠理を誘った。そして悠理の左側に腰掛ける。 清四郎が悠理を引き寄せて、見つめると、少し頬を赤らめた悠理も清四郎を見つめ返した。口付ける。 さすがに3回目ともなると、悠理はおとなしく、清四郎の唇を受けていた。 清四郎の右手が、悠理の服の下から、胸の上に置かれた。 悠理は恥ずかしくて、手を退けようとした。 それを遮るように、口付けが深くなる。じん…と体がとろけるな感覚を受ける。官能の世界へ飲み込まれる、という感じだった。 清四郎は悠理をあお向けに寝かせると、上だけ脱がせようとした。 「やだ…。」 目元を潤ませながら恥ずかしそうに言う。 「駄目です。」 清四郎は、悠理の下着に手をかけた。 ドンドンドンッ やっぱり、邪魔が入るのは、お約束。 (絶対、あいつだ。) 清四郎はげんなりした。 正直、周りの部屋にも迷惑である。 ありえない。 清四郎は悠理の上から避けた。悠理は服を整えて、ドアを開ける。 酔っ払った和子が入り込んでくる。 「悠理ちゃん!処女は奪われてない!?」 悠理が赤くなりながら、頷く。内心苦笑する。 (邪魔されなかったら、どうだろう?) 悠理は和子と少し話しをすると、ベッドルームの清四郎を見た。すると、清四郎はムッとした様子で、和子を見ていた。 結局。 この日はお預け。 そして、ダブルベッドには3人で寝た。 更にありえないことに、悶々とする清四郎と処女を奪われなかった悠理の間には和子が寝ていた。 (絶対、姉のいないところで、必ず。) 清四郎は心に誓った。
--- (2006.4.23)ダブルデボンクリームを乗せたスコーンが食べたい・・・。 |
背景:kotobukiya様