運命
BY りかん様
清四郎は自分が悠理に恋をしたと意識した日からなんだか悠理とまともに目を合わせることができなかった。 (これは、一大事です) 心の中で呟く。 学校でも、清四郎の最近の不審な様子に皆、遠目でこそこそと噂をしていた。 「菊正宗くん、なんだか様子がおかしいですわよね。」 「どうしちゃったのかしら。何かよくないことでも起きなければいいけど。」 学校の皆が噂していることは清四郎自身、勿論知らない。 「清四郎〜!」 帰宅しようと校門を出かかったところで、悠理が声をかけてきた。 キラキラした笑顔を振り撒いて悠理がやってきた。 これはあくまでも清四郎の主観だが。 「今日も1人か?」 「今日も?」 清四郎は恋の病で全然気づいていなかったが。 「ああ、最近、お前達、全然一緒に帰ってないじゃないか。」 (そうでしたっけ。) 清四郎はそういわれてみればそうかも、と思う。 でも、自分の中では、それどころじゃない。 もっと大事な問題があった。 この菊正宗清四郎が、気が遠くなるほどのバカの悠理に恋をしてしまったという、前代未聞の大問題。 「でさ、一緒に帰ろうよ!」 腕を掴んでぴょんと悠理は飛び跳ねた。 (あぁ〜、もう、かわいい!) 赤面してしまう。 悟られないように、気を取り直して清四郎はコホンと咳払いをした。 「いいでしょう。一緒に帰りましょう。」 「うちの車で帰る?」 「歩いて帰りましょうか。」 (そのほうがデートっぽいじゃないですか。) 「うん!」 悠理は清四郎の腕に自分の腕を絡めた。 傍からみたら、明らかにカップルに見えるが、この二人のことを知っている学園中の人々は、“いつものことだ”くらいにしか思っていなかった。 悠理の家までは結構遠い。 「清四郎。今日は何を食べて帰る?」 「何が食べたいんですか?」 「ええと、今日はクレープが食べたいな♪」 「いいですよ。」 そんな会話をしながら、二人は歩く。 勿論、悠理をまじまじと見ることはしない。 こうして一緒に帰れるのは嬉しいけど、照れくさい。 二人は電車に乗って、おいしいと評判のクレープやさんに寄った。 「わーい♪」 30分ほど並んで買ったクレープをおいしそうに食べる。 嬉しそうな悠理を見て、清四郎も心が浮き立つようだった。 食べ終わると、特にすることもないので、「じゃあ、そろそろ帰りますか。」といって、帰ろうとした。 すると、近くの大学から、オーケストラの演奏の音が聞こえてきた。 「あ、なんかこの曲、聴いたことある。」 悠理にしては珍しくクラッシックに反応する。 「ちょっと行ってみましょうか。」 そういって、大学の構内に二人は入った。 オーケストラは講堂で練習をしていた。 どうやら、クリスマスコンサートのリハーサルのようだった。 近くにいたオケの人に、「練習を見学させてください。」といって中に入る。 後ろの方の席に座る。 ステージだけが明るい。 指揮者が何かを言って、指揮棒を振り始めた。 「なぁ、清四郎。この曲、なんていうの?」 こっそり、悠理が聞いた。 「この曲ですか。」 清四郎も聞いたことがあるのだが、曲名が思い出せない。 「きっと聞いてれば、わかりますよ。」 そういって、ごまかした。 木管楽器と弦楽器の静かな展開のところで、隣で悠理が寝息をたて始める。 (やっぱり、クラッシックは駄目でしたか) 思わず苦笑する。 下の方のステージで、”じゃあ、最初から、全部通そうか。”という声が聞こえてきた。 ジャジャジャジャ〜ン ジャジャジャジャ〜ン 悠理が突然、目を覚ます。 「運命…。」 悠理が目をキラキラさせた。 数少ない知っているクラッシックの一つだった。 キラキラさせた瞳のまま、清四郎を見た。 清四郎はドキッとした。 そのまま悠理の目に吸い込まれそうだった。 清四郎はつばを飲み込む。 「悠…理…。」 危うく、キスしそうだった。 ジャ ジャ ジャ ジャ〜ン ジャ ジャ ジャ ジャ〜ン 度重なるオケの音に、理性が戻ってきた。 ”ここは学校…。” (運命か…。まるで、僕たちのことのようだ) と、ちょっと検討違いのことも思っていた。 その後、二人はラーメンを食べて帰宅した。
--- (2005.12.11)運命はベートーベン。 |
背景:kotobukiya様