だいく
BY りかん様
街に第九の音楽が流れる。 デートというわけじゃないけれど、清四郎は悠理を誘って、街に出た。 今日は月島までもんじゃを食べに行った。 悠理はもんじゃを1人で2つ平らげ、その他にお好み焼きも食べて、相当満足そうだった。 清四郎はそんな悠理をみて満足していた。 帰り道、時間があるからとあちこち適当に電車を下りてぶらぶらしていた。 「もう、年末ですね。悠理。」 この曲を聴くと年末だなぁって、感じがする。 そう思って、清四郎は言った。 「そだな。正月の準備しないとな。」 二人はてくてくと手をつなぎながら道を歩く。いまいち微妙な会話をしつつ。 でも、二人とも気にしない。 「たまには、第九のコンサートでも、いきますか。」 悠理を誘う。 「だいくのコンサート?」 「ええ。」 「そうですよ。いま、街中に流れているでしょう。あれを聴きに行くんです。」 「ふぅん。まぁ、いいよ。いつだ?」 「調べて、あとで連絡しますね。」 清四郎が家に帰って調べたところによると、明後日にコンサートがあるようだった。 有名な指揮者のコンサートで、チケットがないかな?と思ったが、いい席ではなかったが空いていた。 ”悠理、明日ですけど、いいですか?”とメールすると、”いいよ。”と二つ返事が返ってくる。 ”じゃあ、学校帰りにそのまま行きましょう。” ”学校帰りにそのまま?着替えなくていいのか?” ”着替えますか?” ”そのほうがいいだろう?” ”じゃあ、時間もないですし、着替え、学校に持ってきたらどうです?” ”そうする。” 着替え? 悠理がコンサートに行くのに着替えを気にするとは思わなかった。 でも、悠理のドレスアップ姿がみれるのか〜…。 そう思うと、涎ものだった。 いかんいかん。 清四郎は口元を引き締めた。 生徒会室で待ち合わせた。 悠理は着替えるからみるなと陰のほうに袋を持って入っていった。 清四郎は紅茶を飲みながら、悠理を待つ。 どんなドレスを着るんだろう…。 真っ赤な胸元の開いたドレスだろうか。ブルーなんかもいいですね。 そう思うとちょっとわくわくした。 「おまたせ〜。」 出てきた悠理は…。 清四郎は目が点になった。 「その格好で行くつもりですか?」 「そだよ。悪い?」 「制服にしましょう。やっぱり。」 これじゃ、恥ずかしくて一緒に歩けない。 清四郎は無理やり悠理を制服に着替えさせた。 悠理はかなり不満そうだったが、諦めて着替えた。 コンサートホールに着いた。 ドレスアップしてきている人もいれば、普通の人もいる。 制服で着てもそんなに目立たない。 後ろの方のあまりいい席ではなかったが、悠理とこうして一緒にいられることで、満足だった。 「悠理、第九はね、世界中の人たちに対して人類愛のメッセージを伝えるためにシラーの詩“歓喜に寄す”に合唱と独唱を導入したんですよ。」 一応、薀蓄?を悠理に言うが、全く、無反応だった。 演奏が始まると、…即死。 やれやれ。 清四郎はため息をついた。 こんなことだろうと思ったけれど。 終楽章に入り、合唱の部分になった。 悠理が目を覚ます。 「あ、これ、知ってる!。」 そこからはずっと起きていた。 知っているフレーズが出てくると、とりあえず聴くらしいということが清四郎はわかった。 コンサートが終わって、悠理は清四郎に聞いた。 「だいくのコンサートって。大工、全然、出て来ないじゃん。あたし、てっきり、カンナとかトンカチとかで演奏するのかと思ってたよ。」 その言葉を聞いて、清四郎はめまいがした。 だから、つなぎだったのか…。
--- (2005.12.18)大工ではなくて第九です |
背景:kotobukiya様