ため息

 

 BY りかん様

 

 

清四郎は部屋のPCの前で考え込んでいた。

 

初詣計画は、まんまと失敗した。

そのため、清四郎は、今度はどういう口実で悠理を誘おうかと考えていた。

悠理に会いたいと思っていたから。

と、そのとき、閃いた。

(そうだ。きっと宿題をやってないに違いない。)

浅はかである…。

そういうことでしか、口実を作れないなんて。

善は急げとばかりに清四郎は悠理に電話した。

コール2回で悠理は出た。

『はい。』

「悠理、冬休みの宿題は、終わったんですか?」

唐突に清四郎は切り出した。

悠理が唖然としている。しばし、間があってから、『何、突然、言い出すんだよ。』と言った。

「だから、宿題ですよ。もう、冬休みも残りわずかでしょう。」

『…心配されなくとも、終わっているよ。』

明らかに不機嫌な声で悠理が答えた。

(悠理が、宿題を終わらせている…。)

清四郎はその事実にショックを受ける。

『家庭教師つけられて、まず、宿題から片付けさせられたんだ。誰が好き好んで宿題なんて、やるか!』

悠理は家庭教師をつけられて、勉強をさせられていたことに怒っていた。

『お前が帰ってから、すぐだよ。すぐ。3日で片付けさせられたよ。しかも睡眠時間が1日3時間だぞ。人間のやることじゃないよ。そして、今日まで予習だよ…。やっと、解放されたんだ。』

悠理はうんざりしていた。

(やっぱり、自分の力でやったわけではなかったんだ。)

変なところで、清四郎は安堵する。

『でさ。あと2日しかないし、遊びにいかない?』

逆に悠理に誘われてしまった。

せっかく、自分から誘おうと思ったのに…。

勉強という手を使ってだったが。

「ええ。いいですよ。」

『じゃあ、明日、動物園に行こうよ。9時に迎えにいくから。』

(えっ!寒いのに。元気ですね…。)

清四郎はちょっと引いた。

「はいはい。」と一応、返事はしたが。

 

 

翌朝、9時ぴったりに悠理が家の車で迎えにきて、そのまま動物園に向かった。

悠理は寒いのに、動物を見れるというだけで、うきうきしていた。

清四郎は悠理とデート?だということで、うきうきしていた。

車の中で、二人は楽しげだった。

動物園に着き、車を降りる。

悠理は相変わらず奇抜な服装をしており、清四郎は…おっさんっぽい。

二人とも美形なだけに、傍からみたら、なかなか不思議なカップルである。

ちょっと人目を惹いていたが、二人とも、全く気づいてない。

二人は、広い動物園の敷地をあちらこちらへと楽しげに歩いていたが、この日は特に寒くて、悠理は段々、顔を強張らせ、鼻水を垂らし始めた。

清四郎がティッシュを渡し、鼻をかむ。

「悠理、寒いんじゃないですか?帰りましょうか?」

「やだ。まだ、トラ見てないし、オランウータンも見てない。」

「オランウータンって…。今日は冬ですから、スカイウォークとかもないですよ。」

「でも、みたいんだもん。」

「はいはい。」

仕方なしに、清四郎は悠理の言うことを聞くことにした。

寒そうにしている悠理に、マフラーをぐるぐる巻きにする。

「お前、寒いんじゃないか。」

「悠理の寒さに比べたら、大丈夫ですよ。僕は。」

そういって、以前やったように、清四郎は悠理の手を自分のコートのポケットに入れる。

「少しは、あったかいでしょ。」

「うん…。」

悠理は少し、照れ気味に頷いた。

(かわいい…。)

またまた色ボケする清四郎であった。

 

トラとオランウータンを見て、レッサーパンダを見た。

雪が、ちらほらと降り始めた。

「そろそろ、帰りませんか、悠理。」

「うん。」

さすがに目的のものを見終え、そしてちらつく雪を見て、悠理も帰る気になった。

動物園の入り口の案内所兼軽食が出来るところに入って、2人で動物クイズをしながら、たこやきを食べながら、コーヒーを飲んだ。

それだけでは、なかなか、体もあったまらない。

その後、オランウータンのぬいぐるみを悠理は購入した。

迎えに来てもらうのも面倒なので、そのまま、動物園の駅から電車に乗る。

たまたま、席が空いていて、2人、並んで座る。

車内は暖かくて、ほっとする。

そして、心地よい揺れと暖かさで、二人はそのまま、手はつないだまま、よりそうように寝入ってしまった。

傍から見ると仲良さげな変なカップルである。

全く、自覚はないが。

新宿に着き、近くのデパートの上で、食事をする。

少し遅い昼だった。

窓際に座り、外を眺めていると、大きめの雪が、ちらついている。

「積もるかなぁ。」

「どうでしょうね。東京は、そんなに雪が積もらないですから。」

「そうだよね。」

つまらなさそうに悠理は答えた。

清四郎は悠理を雪の降るところに連れて行きたいと思った。

でも、冬休みももう終わりで、そして、まさか2人きりで行く訳にもいかず、何も言えなかった。

(2人きりで、雪の降るところに泊まりにいきましょうって訳にもいかないですよね、やっぱり。そういう関係でもないですし。まだ。)

清四郎は、ため息が出た。

恋人だったら、そういう風に誘えるのに…。

やっぱり、ここは告白しないと、駄目なのか。

清四郎は意を決した。

食事が終わって、新宿駅新南口の上のほうにあるテラスのベンチに悠理を座らせた。

なんで、こんなところなのか?と思うかもしれないが、とりあえず、店の中で告白するわけにもいかなかったので、外に出た。

「清四郎、寒いよ。」

「ええ。」

行き交う人々。誰も二人がそこにいても、見向きもしない。

人がたくさんいるけれど、無関心だから、誰もいないようなものだった。

でも、二人は変な服装のカップルだということをすっかり年頭にない。

なので、ちらりちらりと振り返られる。

「実は、悠理に話があるんです。」

「何?」

悠理が清四郎を見つめ返す。

清四郎の鼓動が早くなった。

(落ち着け…。落ち着け…。)

すると、その時。

「あら〜、二人とも、デートぉ?」

聞き覚えのある声。

見れば、清四郎の姉、和子だった…。

「いや、デートじゃないよ。」と悠理が即行答えた。

「ふ〜ん。そうなの?清四郎。」

「そうですよ。もちろん。」

清四郎は焦り気味に答える。

和子がにやりと笑った。

「へぇ、あっそう。」

何か気づいたかもしれない、と清四郎は思った。

(家に帰ってから、なんて言われるか…。)

先が思いやられる。

「ね、悠理ちゃん。いまから、うちに来ない?さっき、そこでケーキ買ったのよ。」

そういって、和子はケーキをちらつかせた。

悠理は目を輝かせる。

さっき、昼を食べたばかりだというのに…。

二人はそのまま、清四郎の家に向かうことになった。

(また、邪魔が…。)

清四郎は暗くなる。

(いつになったら、悠理に告白できるのか。)

長いため息が出た。

 

 

 

 

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(2006.1.3)ため息はリストからです

(2006.4.23)新宿駅東口から新南口へ変更。

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