ああ、お前は知らないのだ、その苦しみがどんなものか
BY りかん様
もうじき学期末試験。 有閑倶楽部のメンバーは清四郎の家に集まって、試験対策をしていた。 途中、成績のよい野梨子と魅録は、清四郎の家で食事を食べると「お先に〜。」と午後7時くらいに帰ってしまった。 「いい気なもんよね〜。」 可憐がため息をつく。 「まぁね。でも、僕は君たちと違って、あと1時間もしないうちにノルマは終わるよ。終わらせないと、マリアちゃんと食事できないからね。」 「さっき、食べたじゃん。」 悠理が美童に突っ込む。 「いいんだよ。僕はマリアちゃんの食べている姿を見ながら、お茶をするだけだから。」 美童はフフンと鼻をならした。 「そこ!うるさいですよ!」 清四郎が鞭でぴしゃりとテーブルの上を叩く。 「はいはい。」 おとなしく美童は正座しなおして、試験対策問題を解き始めた。 夜の10時近く。 「もう…駄目だ〜。」 可憐がテーブルの上に突っ伏す。 美童もへとへとという顔をしている。 あと1教科、80点以上とれば帰っていいといわれていた美童は、76点以上とれなくて、マリアちゃんとのデートを断念していた。 可憐はあと2教科残っている。 悠理はまだまだだった。 悠理の目標はとりあえず、60点以上。 他より目標が低い。留年や追試にならない最低ラインの点数を取れるようにというのが目標だった。 体育推薦で大学入学することは決まっていたので。 そして、あと3教科、60点以上取らなければならない。 「清四郎、今日中は無理だよ。」 悠理も可憐の隣で突っ伏した。 清四郎は鞭でまたテーブルを叩いた。 3人とも気を引き締めなおして、問題を解き始める。 黙々と問題を解き始めること、30分。 「できた。」 悠理が清四郎に持っていく。 78点。 「世界史は合格ですよ。あと、数学と英語ですね。」 清四郎はにっこりと優しく微笑んだ。 「うん♪」 78点に気をよくした悠理はやる気を出した。 さて、そんな様子を窺っていた美童。出来て持ってくと、やっとのことで80点をクリアした。 「やっと帰れる〜。」 心底喜んでいた。清四郎に80点に届かないと、厭味ったらしく微笑まれる。 その笑顔から解放されて、ほっとしていた。 そして、もう1つの懸念。悠理と清四郎と3人になりたくなかったのだ。 清四郎に恨まれそうで。 「あ、美童、帰るの?!待ってよ。わたしももうちょっとなんだから。」 可憐が急にやる気を出して、問題を解き始めた。 可憐もまた、悠理と清四郎と3人で、この場にいたくなかったのだ。悠理にだけ、異様に優しい清四郎。 その場に自分がいたとしたら、とても邪魔だということを身に染みて感じてしまう。 なので、火事場の馬鹿力ではないけれど、頭の隅々まで働かせて、30分もしないうちに可憐は2教科クリアした。 「じゃ、お先にね〜。」 2人はそういって、帰っていった。 悠理と2人きり。清四郎は天にも昇る心地がした。 でも、今は勉強中。あと2教科残っている。 (もし、今日中に終わったら、今日告白、しようか…。きっと、無理でしょうけど。) 清四郎は悠理の望みの薄い試験対策問題に賭けようと思った。 そう思っているうちに、問題パターンになれたのか、数学をクリアした。 (あと1教科…) 一番苦手な英語だった。 そして。 0時5分前にクリアする。 「悠理、75点ですよ。」 清四郎は満面の笑みを浮かべた。 (これで、勉強は終わりですね…) ほっとしたのもつかの間だった。 「えっ!75点!やった〜!」 そういって、悠理は清四郎に勢いよく抱きついた。 柔らかい頬が清四郎の頬に触れる。 清四郎の首に回した細い腕。 清四郎は、鼓動が急速に速まっていくのを感じていた。 清四郎は悠理の体に腕を回す。 「悠理…。」 清四郎は悠理の体を少し引き離す。 悠理が、清四郎を見つめる。 清四郎は悠理に口付けをしようとするが、勢い余って、そのまま、畳に押し倒す格好となった。 悠理は身動きのとれない状況に、少し、不安げな表情を浮かべた。 「清四郎…。」小さい声で悠理が呟いた。 「悠理…。実は、僕は…。」 清四郎は押し倒したまま、悠理を見つめ、深呼吸をした。 「ちょっとぉ!あんた!何やってんのよ!!!」 ガラッと襖が開いた。お茶を持ってきた和子はテーブルにゆのみをガンッと置くと、清四郎の首根っこをひっ捕まえて、引き起こした。 「勉強やってるんじゃなかったの?バカッ!!」 清四郎は和子にパコッと頭を殴られた。 その後、和子の監視のもと、少し勉強をし、悠理は迎えにきてもらって帰宅した。 またもや告白の機会を逃した清四郎は、悶々とした夜を過ごした。 −−−ああ、お前は知らないのだ、その苦しみがどんなものか。
--- (2006.1.26)ああ、お前は知らないのだ、その苦しみがどんなものか。とはモーツァルトのアリアのタイトル。でも、きいたことないです。 |
背景:kotobukiya様