悠理には秘密に…

BY りかん様

 

 

 

 

悠理は美童と清四郎のキスを見て、ムッとして美童の家を出て行った。

一応、杏樹があとを追ったが、相当怒っていたようで、「災難だね。…それ以外の言葉は見つからないよ。」と言って苦笑しながら帰ってきた。

「清四郎さん、二度目はまずいよね、さすがに。」

ガツンと頭を殴るような杏樹の言葉に、顔に細かい縦線が入る清四郎。

そこへ美童が口を洗って戻ってきた。

「悠理、かんかんだったね。」

「言わないでください。」

普通なら、あっさり誤解だとわかってもらえそうことでも、杏樹の言ったとおり、前回の件に引き続きだったので、今回はなかなか誤解を解くのは大変そうである。

どうみても、誤解であるのに、二度も目撃されると・・・。

「飲みにでもいこっか。」

あまりの落ち込みように、美童は清四郎の肩をポンと叩き、声を掛けた。

「そうですね。」

この時、清四郎は自分に降りかかる災難が更に待ち受けていることを知らなかった。

やけ酒なんて飲みに行かなければ…と、あとで死ぬほど?後悔することになる。

 

美童は1人で清四郎の相手もしづらく、途中、魅録に電話をするが、魅録は野梨子とデート中であっさり断られた。

最初はどんよりと美童に語り始める清四郎。

やっとのことで両思いになれて、しかも、お泊りまで計画したのに、2度も、ポシャッている。

「僕は天から見放されているんでしょうか。」

「そんなことないよ。きっと、そのうち、大丈夫さ。」

酷い落ち込みように、美童も少々もてあまし気味だった。

「ちょっとトイレに行ってくるね。」

そう言って、席を外すたびに悠理に電話を掛けるが、悠理には無視されっぱなし。

電話を切ってるのかも。

そんな風に考えて、家にも電話をしてみたが、「どなたからの電話も繋がないように言われております。」とメイドに言われて、繋いでももらえなかった。

ぐちぐちと愚痴を言う清四郎は、どんどん、ただの酔っ払いになっていく。

美童は人知れず、溜息をついた。

(誰でもいいから、僕を助けてよ…。)

 

「そろそろ帰ろうか、清四郎。」

1軒目を2時間半で出て、美童は即、帰宅しようと思っていた。

「いや、まだです。次、行きましょう。」

腕を引っ張られる。

清四郎の腕力に敵うはずもなく、ずるずると引きずられるように、2軒目のバーに連れて行かれる。

 

ドアを開けると、カウンター席に悠理が座っていた。

「悠理!」

清四郎は嬉しくて、近くのテーブルに体をぶつけながら、悠理の元へ駆けていく。

美童はその様子を見て、唖然。

(あんなキャラだったっけ?)

清四郎のほうを振り返る悠理。

「違うよ。悠理さんじゃないよ。」

(あ!!!)

美童が口をあんぐりと開けた。

そこにいたのは雅央だったのだ。

 

3人でテーブル席に移る。少し狭かったので、美童が椅子に、雅央と清四郎が並んでソファに掛けた。

「雅央くん、どうして日本に?アメリカにいたんじゃなかったの?」

美童がそう問うと、「母を日本に送ってきた帰りなんです。明後日には、また成田から向かいます。」と答えた。

「彼氏も一緒なの?」

「ええ。今日は昔の店に挨拶しに行ってます。1人でホテルの部屋にいるのも、暇だったから、ここに飲みにきたんです。」

「そうなんだ。」

(やっぱり、男同士のカップルなんだよなぁ。)

そう考えると、美童はちょっと寒気がする。

「あ、もう僕たち、向こうで結婚したんですよ。」

笑顔で雅顔は言った。

「よかったね。」といいつつ、美童の顔は微妙に引きつっていた。

二人の話をじっと聞いていた清四郎は。

ずっと雅央の横顔を見ながら、悠理のことを考えていた。

いま頃何しているんだろう、僕と別れるつもりではないだろうか…など。

一方、美童は雅央と話していて、少しほっとしていた。

愚痴からは解放されたし、清四郎がずっとぼんやりとしていたから。

適当に雅央と時間潰して1時間くらいここにいたら、さっさと帰ろう、そう企んでもいた。

 

その1時間が段々、近づいてきた。

清四郎は雅央の顔を眺めながら、ずっと1人で酒を飲んでいた。

雅央は清四郎の視線に戸惑いつつ、美童と話している。すっかり清四郎の目が据わっていたので、雅央はちょっと怖かった。

そして、清四郎の目が余りにも怖かったので、つい、清四郎に微笑みかけてしまった。

「@×△ξπ!!!」

清四郎は突然、雅央を抱きしめるとキスをした。

突然起こったこの出来事に、美童は口を開けて唖然とする。

雅央も驚いて目をぱちくりとし、声にならない叫びをあげ、次の瞬間突き飛ばそうとするが腕力では敵うはずもない。美童に手を伸ばして、助けを求める。

「この人は悠理じゃないんだってば…!」

美童はそういいながら、雅央から引き離そうとした。清四郎の腕力はやはり凄くて、1人では引き離せない。雅央は泣きそうな顔をしている。

(困ったな、どうしよう…)

そう思っていると背後から女性に声を掛けられた。

「私も手伝うわ。」

「!」

苦笑しながら、「お願いします。」というと、美童は女性に手伝ってもらう。なんとか引き離すと、清四郎はそのままソファで眠りこんでしまった。

「一体、何があったの?」

そう問われて、女性に事情を説明する。

美童の話を聞きながら、女性は大笑いした。

が、美童が話を終えると。

バシッ!

呆れて、女性は清四郎の頭を叩いた。

しかし、清四郎は起きない。

「悪いけど、タクシーまで一緒に運んでくれない?迷惑かけて申し訳ないわね。」

女性は2軒目の美童達のお金を支払い、一緒にきていた同僚に「バカな弟を連れて帰るわ。」というと、清四郎を連れて帰って行った。

 

翌朝、清四郎は二日酔いで、頭痛が酷かった。

けれど、夢の中では、悠理とキスが出来て、とても満足していた。すっかり、仲直りした気分で朝を迎えていた。

(二日酔いの薬でも、のみましょうか。)

とりあえず、薬を飲もうと階下へ降り、キッチンへと向かう。

「おはよう。清四郎。」

母が清四郎に声を掛けた。

「おはようございます。」

「昨日はかなり飲んだのね。和子が連れて帰ってきたのよ。聞けば、美童くんたちに相当迷惑を掛けたようじゃないの。」

「美童たちに?」

(美童以外誰かいましたかね・・・)

1軒目は2人で飲んで、2軒目は・・・と考える。

(あ、雅央くんがいましたね)

まさか…。

と思う。

何か、嫌な予感がする。

(夢じゃ、ない…?)

夢にしては唇の感触が生々しい、とは、ちょっと思っていた。

(そんなはずは…。)

「あら、おはよう。清四郎。」

出かけようと準備をしていた姉が清四郎のそばに寄ってきた。顔が笑っている。

「ちょっと、話しがあるんだけど…。」

そういいながら、清四郎をキッチンから廊下に連れ出した。

「あんた、昨日、悠理ちゃんみたいな子とキスしていたわよ。」

耳元で、囁く。

「えっ!なんですって…!!!。」

「美童くんに聞いてみるといいわ。」

和子は意地悪そうな笑みを浮かべると、仕事に行った。

(嫌な予感が…。)

 

清四郎はすぐに美童に電話を掛け、事の詳細を聞いた。

清四郎がキスをしたと思っていたのは、悠理ではなく雅央だった。

あまりのショックに、その日、一日立ち直れなかった。

やけ酒なんて、飲みにいかなければよかったと、悔やんでも悔やみきれない・・・。

 

 

 

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(2006.9.10)

夏がもう秋ですね・・・。

とうとう、自分から男とキスしちゃいました。清四郎。

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