気づかせないで
友達のはずだったのに。
「どうして、こんなことするんだよ!」
悔しさに、涙がにじんだ。
力じゃ勝てないのはわかってたけど、こんなに簡単に、組み伏せられて。
自分が非力な女に過ぎないなんて、思ったことはなかった。
自分が、女であることなんて、意識したことがなかった。
あたいたちは、男女を越えた仲間だったはず。友達だったはず。
「本当に、わからないんですか?」
清四郎が顔を歪めた。
身動きを封じられているのはあたいなのに、どうして清四郎がつらそうな顔をするのか。
パチン。
外された制服のボタンの下で、ブラの留め金が音を立てた。
「い、いやっ」
「悠理・・・もう、我慢できない」
あたいは、何もわかっていなかった。この瞬間まで。
清四郎が、何をもとめているのか。
むき出しにされた肌が震えた。
彼の視線を感じて。
熱い目。
いつも穏やかに微笑んでいる、愉快気に細められている、黒い瞳。いまは、知らない熱を宿している。
――――違う。
あたいは、とうに知っていたのかも知れない。
知らないふりをしていた。
気づかないふりをしていた。
清四郎が男であることも、自分が女であることも。
むき出しになった胸に、彼の吐息が触れる。
胸の先に口付けられ、全身に痺れが走った。
「もう・・・逃しません」
かすれた声。熱い吐息。目をそらすことを赦さない、強い瞳。
――――むき出しにされた心が震える。
いつだって、頼りにして、甘えて。
長い付き合いの友人のひとり。
だけど、彼といると落ち着かなかった。
どこかで、怯えていた。
いつもは優しい目の奥に見える、熱情が。
無意識で、逃げていた。目をそらし続けてきた。
怖かった。
清四郎が。彼の中の男が、ずっと。
だけど。
それでも、そばにいたかったのは――――本当は、自分の方だって、あたいは知ってる。
逃げたかったのは、自分の心から。
自分の中の、女から。
悔しさに、涙がにじんだ。
もう、逃げられないから。
友達で、いたかったのに。
もっと綺麗で女らしくって、素直な娘を、何人も知ってる。
彼のことを好きな娘も、何人も。
男友達みたいなものだから。ただの幼馴染だから。
無関心でいたかった。
嫉妬も劣等感も抱くこともなく、笑いあって。
無邪気なままで、いたかった。
醜くてちっぽけで弱い自分なんて、知りたくなかったのに。
女になんて、なりたくなかったのに。
――――愛してるなんて、気づきたくはなかったのに。
SIDE:S
|