春爛漫

 

   文:お馬鹿シスターズ  絵:そのペット

 

 

 

悩み多き春である。
菊正宗清四郎もまた、悩んでいた。

「明日はホワイトディですねぇ。悠理へのお返しは、何にしましょうかねぇ?」

一月前のバレンタインディ、清四郎はずっと思い続けていた愛しい少女から、夢にまで見たマジチョコをゲットした。
たとえ「清四郎、これやるよ!」と、放ってよこされたものであろうと、清四郎にとっては感激モノ。
もったいなくて手もつけられず、今も彼の机の上に花を横において飾ってある。(ちなみに、花は彼がしょっちゅう変えている)

「ホワイトディと言えばマシュマロと決まっていますけど、悠理はこの間マシュマロを、「あたいこんな、屁のカスみたいなもんキライ」と言っていましたし…」

ブツブツと独り言を言いながら歩く端正な顔の男を、周囲の人は皆、いぶかしげな視線を投げながら避けていく。
しかし、考えに没頭している彼はそんなことは気付きもしない。

「他に何か悠理の好きなものねぇ…ええと…」

そのとき、
「ヨロシクお願いしまーす!」と言いながら、道端に立っていた男が彼に何かを差し出した。
いつもなら、ティッシュ以外は受け取らない彼であるが、今日は上の空でなんとなくそれを受け取ってしまい、歩きながら何気なく手に持った桃色のそれに視線を落とした。

それは―――ファッションホテルの優待券。
「平日朝10時〜5時までは半額!この券をご持参いただいた方には、平日8時、休日も3時までのご入場なら半額に致します♪」と、でかでかと書かれている。

それを見た瞬間、彼の頭の中に一条の光が射した。

「悠理が好きなもの、それは僕。この僕自身!」

ああ神様、御啓示をありがとう。真に神は偉大なり、信じるものは救われる…
喜びと恍惚に、流れ落ちる鼻血を拭おうともせず、彼は天を仰いで感謝を捧げた。

 




翌日、綺麗にラッピングしたホテルの優待券を差し出した彼が、悠理から平手打ちを食らったのは言うまでもない。

 


続く!