キミに繋がるキセキ

1.

 

 

――― ずっと求め続けて

    いつまでも求め続けて ―――

 

 

 

*****

 

 

 

凍てついた空気が、黄昏時の空に張り詰めていた。

まるで、何かがやってくる事を待ち望むかのような静寂が、静かに世界を包み込んでいく。

 

夕闇の空の色に染まり色をなくした木々が微かに揺れて、音もなく、冴え渡った空気を震わせた。

 

「だああっ!? 一体何なんだよ! これ……」

 

剣菱家の自室のドアを開けて、悠理は深くため息をついた。

綺麗なラッピングを施された大小さまざまな箱によって、部屋の一隅が占領されていたのだ。

室内のサイドテーブルからテーブル下のカーペット、更にはベッドの上へと、その箱の山脈は続いている。

 

「ああ、この箱の山ですか。さっきメイドさんが、『贈り物をお預かり致しましたので、お部屋にお運びしておきました』って言ってたのって」

苦笑したい気持ちを押さえ込むようにして、清四郎は開け放たれたドアに寄り掛かる。

 

「…しかし、見事な景色ですな」

「お前、絶対あきれてるだろ? そうやって誤魔化しても、お前の顔に出てるからわかるぞ」

 

悠理が、隣にいる清四郎の顔を、一瞬、軽くにらみつける。

そうしてすぐ、悠理は清四郎に背を向け、室内へと入っていったのだが。

悠理は何かを思い出したかのように、一旦部屋の中央で立ち止まり、顔だけを斜め後ろに振り返らせた。

 

「…なあ、清四郎。これ開けるの、手伝ってくれる?」

 

一つ息を吐いて、清四郎が姿勢を正す。

「わかりました。これをどうにかしないと、何も出来ませんしね」

「…って! えっ? ちょっ…!! なっ?!」

 

清四郎は、ゆっくりとドアを離れると室内へと入り、箱の山脈を指差し立ち止まっている悠理を抱き上げ、悠々と歩き始めた。

そうしてそのままテーブルの前まで歩いていくと、清四郎は、彼女を自らの膝の上に下ろしながら、テーブルの脇にある椅子に座る。

 

抱き上げられた時に、つい握り締めた清四郎の右袖から手を放すことなく、悠理は清四郎をにらむように仰ぎ見た。

 

「―…清四郎。あたいは、箱開けるの手伝って、って言ったんだけど」

そんなことはわかっていると言わんばかりに、清四郎が笑う。

「だから、こうして一緒に座ったんです。箱の中身が何であれ、別々に箱を開けるより、ひとつずつ二人で見たほうが楽しいに決まってるじゃないですか。…そうでしょう?」

「それは、わかるけどさ。あたいが、ここに座る意味はあんのか? 別に膝の上じゃなくても、一緒に見れるじゃん」

「そんな真っ赤な顔してそんな事を言っても、説得力なんてまるでないですよ。それに…」

耳元で低く囁くように、清四郎が言葉を繋ぐ。

 

「ここに座る意味ならいくらでもあるでしょう?」

 

悠理の耳朶に軽く舌を這わせるように、清四郎が口付ける。

 

「いっ、いい。意味なんてなくていいっ!! せっ、せーしろー。早く箱開けて見ようぜ」

清四郎から目を逸らし、赤かった頬を更に紅色に染めて、悠理が箱の山へと手を伸ばしたその時。

小刻みな振動が身体に伝わってくるのを悠理は感じ取った。

身体を少し後ろに傾けるようにして、清四郎の顔を覗き込んでみる。

 

「なっ―…! からかったのかよ! お前!!」

「からかってなんか、いませんよ」

小声をたてて笑うことを必死で堪えながら、清四郎が言った。

「じゃ、なんでそんな笑い方してんだよ、お前。一人だけおかしくてたまらないって感じでさ。そんなの、あたいをからかってるのと同じじゃんか」

「―…ちがいますよ」

「って、まだ笑ってるじゃんか!」

 

何がおかしいのかがわからない、といった顔で悠理は清四郎に詰め寄っていく。

「からかってるんじゃないんならさ、何で笑ってるのかくらい教えてよ! ねえっ!」

 

もう限界だったのだろう、清四郎が声を立てて笑った。

「ホントにわかりませんか? ―…ホントに?」

「うん。わかんない。だからさ、教えてってば!!」

 

清四郎の両手を左右それぞれの手で覆うように掴んで、悠理は清四郎を見詰めた。

一つ咳払いをして、清四郎が微笑する。

 

「―…教えません」

 

「え?」

 

「―…もったいないですから、内緒です」

 

「ケチ〜! 教えてくれたっていいじゃん。別に減るもんじゃないんだろ、それって?」

「ある意味ボクにとっては、減るものですから嫌です。…悠理。人に訊くばかりじゃ能がないですよ。たまには、自分で考えたらどうです」

「考えろって、無茶言うな〜」

「何言ってるんですか。…じゃあ、仕方ないんでヒントあげます。あとは自分で考えてくださいね」

「おう!」

「ヒント。僕は悠理をからかったわけじゃない。あとは、会話の流れを思い出して考えろ」

「何だよ、それ〜! ヒントじゃないよ、全然」

「これ以上はないヒントですよ。考えてもわからなかったら、忘れてください。たいしたことじゃないですから。仮に、もしわかった時も、僕に言わなくていいですよ。それくらい他愛のないことです」

「清四郎。お前ホントに言う気ないんだな…。いいよ。わかったよ」

 

清四郎の膝の上を降りることなく、悠理はそのまま何事かを一生懸命考え始めた。

一方の清四郎は、いつしか自由になっていた両手を悠理の身体に回す。

 

腕の中にいる悠理の髪に顔を寄せながら、清四郎はゆっくりと瞼を閉じた。

 

 



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