5.

 

 

 「まったく、たいがい不器用な奴らだよな」

魅録が、ノートパソコンを開きながら苦笑を漏らした。

「あんなに好きあってるのに、お互いの心がわかんないなんてねえ」

美童も困ったような顔で笑いを浮かべる。

「ほんとに、手間がかかるんだから」

可憐は、珈琲とケーキをテーブルに並べながら、顔をしかめた。

「馬鹿な子ほど可愛いというじゃありませんの。乗りかかった船ですわ。どうにかしてあげませんと、ね」

野梨子は、しらっとそう言うと、読みかけの本を閉じた。

「で、どうするの?悠理の行方、わかりそう?」

可憐の問いに魅録はにやりと笑うと、

「お前さんがた、俺を何だと思ってんの?まあ、見てろって」

そう言うや、かちゃかちゃとキーボードを打ち込む。

ネットに繋げているのはわかるのだが、何をしているのかはさっぱりだ。

三人は、魅録の手元を眺めつつ、お茶を楽しんでいた。

「いた、いた…」

「見つかりまして?」

「悠理は、いま、ローマにいる」

「ローマか…それは、好都合」

美童は、携帯をとりだすと、

「Ciao, Margarita. Sono Bido.」

と、流暢なイタリア語で話しだした。

「うまく、先回りできればいいけど…」

「どこへかけたのよ」

「ローマのガールフレンド。お父さんが旅行代理店を経営してるんだ」

「悠理がチケットの予約をいれているか、調べてもらうのですね」

「そう。ところで、魅録はどこから悠理の場所を突き止めたのさ」

「ん?剣菱系列のホテルのサーバーに、ちょっと、な」

「それって、ハッキング?犯罪じゃないの」

「仕方ないだろ。まあ、背に腹は代えられないってことで」

「剣菱系列なら訴えられることはありませんわよ。大丈夫ですわ、可憐」

「そりゃあ、そうだけど…」

可憐が、眉を顰めて呟いた時、美童の携帯が鳴った。

「Ciao…」

美童が話の途中、三人に指を立ててにっと笑った。

「魅録、すぐにチケットの手配して」

「OK。で、どこまで?」

「ニューヨーク」

「明日、成田発11時ってのがあるが…それでいいかな」

「悠理は明日、ローマからニューヨークへの便を予約しているそうだ。むこうで会えるだろ」

「了解…って、支払いはどうするよ。ファーストしか空いてないから、俺のカードじゃ限度額オーバーだな」

「いいよ。僕のカード使って。あとで、清四郎から利息つけて取り立てるからさ」

美童が笑いながらゴールドカードを財布から出し、魅録に渡した。

「よっしゃ、予約完了」

魅録がエンターキーを押し、にっと笑った。

「これから、にぶちん男に引導を渡しに行かなくてはいけませんわね」

「ほんと、手間がかかること」

野梨子と可憐は顔を見合わせて、肩をすくめた。

 

 

 

「みんな…どうしたんです?こんな時間に…」

真夜中に近い時間、四人は剣菱邸に赴いた。

清四郎は着替えもせず、家でも仕事をしていたのだろう。

ワイシャツにパンツ姿で、ネクタイだけをはずしていた。

「清四郎、パスポートはありますわね」

「は?」

「鞄、鞄は…っと。ちょっと旅行用の鞄はどこ?」

「クローゼットにありますが…って、可憐、何してるんです」

キャリーバッグを引っ張り出してきて、チェストやらクローゼットから着替えを詰め込む可憐を見て、清四郎は訝しげに眉を顰めた。

「準備が出来たら出発だぞ」

「どういうことですか?魅録」

「清四郎はこれからニューヨークに飛ぶんだよ」

「ニューヨーク…」

清四郎の目が見開かれ、

「悠理が見つかったんですね」

「明日、ローマからニューヨークへ行くはずだ。ただし、悠理が急に予定を変えなければだけどね」

美童が、意地悪げに清四郎に言った。

「清四郎」

野梨子が清四郎の前に歩み寄った。

「わたくしたちが手を貸すのはここまでですわ。あとは、あなたと悠理の問題ですもの。二人で解決しなくてはいけないのですわよ」

「…僕と、悠理の…」

「悠理がニューヨークに行くとしかわかんないのよ。もしかしたら、行っても逢えないかもしれない。それでも、あんたは行かなきゃいけないの。帰ってくるのを待っているなんてナンセンスよ。追いかけなくっちゃ、自分から」

「神様が、君たちを結びつけてくれるなら、きっと逢える。ちがうかい?」

「それとも、清四郎さんよ。自信ないか?悠理をつかまえられる自信がさ」

四人の目に見据えられた清四郎は、大きく息を飲んだ後、

「つかまえてみせますよ…必ず」

と、いつもの彼らしい不敵な笑を浮かべた。

「それでこそ、清四郎ですわ」

野梨子が清四郎の腕をつかむ。

「じゃあ、深夜のドライブよ」

可憐が清四郎にウィンクをする。

「成田まで付き合うよ。そのかわり、朝ご飯はおごりだよ」

美童が清四郎に笑いかける。

「よし、行こうぜ」

魅録が、清四郎の背中を押すようにぽんと叩く。

仲間の心がじんわりと沁みてきて、清四郎は柄にもなく目頭が熱くなってきた。

この心に応えるために、必ず悠理と二人で戻ってこなくてはならない。

清四郎は、揺らいでいた心が、ぴんと張りつめていくのを感じていた。

 

魅録の運転する車で、成田へと向かう。

途中、朝日を眺めながら、皆で朝ご飯を食べた。

食事とともにみなのパワーを飲み込むように、清四郎の表情は憔悴から力強いものへと変わっていった。

「必ず二人で戻ってきますよ」

そう言ってゲートに向かった清四郎は、いつも通りの嫌みなほどの自信に満ちた顔をしていた。

「約束ですわよ、清四郎」

野梨子の言葉に、清四郎は右手を挙げて応えた。

 

 



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