6.

 

 

仲間たちが見守る中、清四郎は予定通りに飛び立った。

 

 

NYにさえ行けば、何とかなる。

NYにさえ行けば、悠理に逢える。

今度こそ、正直な自分の気持ちを伝えなくては。

 

心の底から、君を愛していると・・・・

 

 

悠理に逢える安堵感からか、機内での清四郎は泥のように眠り続けた。

着陸準備の始まった頃、チーフアテンダントから清四郎へメッセージが伝えられる。

着陸後、真っ先に案内するので、すぐに降りられるよう準備しておくようにと。

 

メッセージどおりに真っ先に飛行機から降ろされる。そこには空港職員が待ち構えていて、清四郎は入国手続きもそこそこにVIPルームへと案内された。

 

VIPルームでは、4人の男たちが神妙な面持ちで清四郎を待っていた。

1人は、剣菱・アメリカ支社長。

1人は、悠理が宿泊する剣菱系ホテルの総支配人。

残る2人は、日本総領事館の職員。

 

そして、清四郎に伝えられたのは『剣菱会長令嬢の誘拐』だった。

 

危機感というものが無かったのか、清四郎に見つからない為の隠密行動だったからか、なまじ英会話の出来るようになってしまった悠理は1人で行動していた。

おそらくは、ヨーロッパ滞在中に目をつけられたのだろう。空港からホテルに向かう為に乗り込んだタクシーごと姿を消した。その後、タクシーはダウンタウンの片隅で発見。車内に残されていたのは、悠理の荷物と、運転手の射殺死体だった。

そして、『剣菱・アメリカ支社』と『滞在予定のホテル』と『東京本社の剣菱会長宛』に犯行声明が悠理の写真と共にメールで送りつけられた。

剣菱への恨みなのか金目当てなのか、動機についても要求についても何もかかれてはいなかった。

ただ、悠理を誘拐したという事実のみが記されているだけだった。

 

何を説明されているのか頭では分かっても、清四郎の心が付いていかなかった。

日本を発つ時の充実感と、機内での安堵感が、音を立てて萎んでいく。

 

 

なぜ、僕はもっと早くに悠理を追わなかったのだろう・・・

なぜ、僕は素直な気持ちを悠理にぶつけなかったのだろう・・・

自分自身が傷つくことを恐れたツケが、こんな形で返ってくるなんて・・・

 

 

アメリカ支社長の声が、遠くに響く。

「剣菱会長は、この件に関しての全権を、お嬢様の婚約者である貴方に委ねると仰っておられます。」

「分かりました。」

清四郎が、力なく呟いた。

 

姿の見えない敵を相手に、清四郎の想像を絶する苦悩の日々が始まった。

 

 

 



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