秋の夜長、剣菱邸ではいつものように、いつものメンバーで暇つぶし代わりの酒盛りが行われていた。
途中、豊作に呼ばれた清四郎が部屋を出て行った。
そんな彼が次にその部屋に戻ったときには中はとても静かになっていた。
無理もない。
清四郎が出て行ったときは、可憐や野梨子はもちろん美童までもが呂律の回らない状態となっていたのだ。
だが、魅録や悠理が簡単につぶれるとは思えない。
薄明かりの中もう一度部屋を見渡した。
少し照明の落とされた部屋のテラスのイスに座りこちらの背を向けひざを抱える姿が目に入った。
「一人なんですか。」
「魅録もさ、ここんとこ徹夜でバイクいじってたとかで珍しくつぶれちゃったんだ。」
首だけこっちに向けて悠理がそう答えた。
そんな彼女の前のテーブルには数本のワインとグラスが・・・2つ。
「もしかして待っててくれたんですか?」
その言葉に口の端をニヤリと上げた悠理が
「ペットがご主人様を待ってんのはあたりまえだろ?」
思わず困ったように眉を下げる清四郎に悠理がワインを差し出した。
「いつも人のことそういってるくせに」
そういって笑い声と一緒にグラスの中にワインが注がれた。
************
「寒くないですか?」
何杯目かのワインを口にした時清四郎が悠理に尋ねた。
テラスにいる二人を秋の夜風が時折なぜていた。
「あたいは大丈夫だじょ。お前は?」
「大丈夫ですよ。」
清四郎はともかく、さすがの悠理も酔いがまわってきたようでその頬をピンクに染めていた。
それがアルコールの所為だということはわかっている。
わかっていても、いつもと違う彼女に見蕩れてしまった。
月明かりのしたその白い肌は色づき、上目使いの目元とつややかな口元。
普段の彼女からは想像もつかない姿。
見てる分には十分美人である。
そんなことを考えていた清四郎の頬に悠理に細い指が触れた。
「お前ほんとに寒くないのか?つめたいじょ」
そういって覗き込む悠理を月の光が照らした。
(こんなに綺麗でしたっけ・・)
思わず清四郎がそう思ってその目を見つめ返したとき彼の唇にやわらかいものが触れた。
(えっ・・・・)
軽く触れただけで離れていった唇は清四郎が言葉をつむぐ前に再びそれでふさがれた。
今度は情熱的に。
唇の隙間から入り込み、這いまわり、絡みつく。
本能のままのような
想いを注ぎ込むような
溶けるようなキス。
悠理がこんなことをするなんて
悠理にこんなことができるなんて
力で振りほどく事など、簡単なはずなのにそうしようとさえ思わなかった。
頬に触れている指と、唇の感覚だけで溶けてしまいそうだった。
名残惜しそうに離れた彼女は清四郎の胸に顔をうずめた。
無意識に受け止める。
すると2度、3度と頬擦りをする悠理にさすがに清四郎が声を出した。
「ちょっ、ちょっと、悠理。」
そういって細い肩をゆすると
「 」
「何ですか?聞こえませんよ!」
そういったものの、次に清四郎の耳に届いたのは腕の中で眠る悠理の寝息だけでした。
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