リレー小説

真夏の夜の夢 第五回


  BY のりりん様





 

清四郎の腕の中で悠理は真っ赤に顔を染めていた。
そんな彼女を地上の星たちが照らしている。
その顔でさえいつまでも見ていたいと思うのは気付いてしまったこの感情のせいだろうか。
「愛しい」、恋愛不適格者といわれた彼が初めてのその感情を味わっていた。
まだそれを言葉にはしていなくても。
立ち止まったままの二人に突然大きな音と共に空からの光が降ってきた。
「うわぁー、花火だー!」
万作ランドでは毎夜どこかのドームの近くの海上から花火が打ち上げられているのだ。時間もどこから打ち上げられるかも一切公表されていないそれは、観客達へ万作ランドからのサプライズプレゼントなのだというのだ。
空に広がる幾色もの光に悠理は次々と表情を変えた。
「きれーだなー。」
「えぇ。」
清四郎は素直にそう答えた。
もちろんそう思ったのは花火にではなくそれをじっと見上げている彼女にだ。
彼は降りそそぐような光を見ている悠理に目を奪われていた。
何度も見ているような、はじめてみるような彼女の横顔に。
夜空を彩った光たちが姿を消し、再び2人を静かな時間が包む。
花火を見上げていた悠理の視線が清四郎へと移った。
やわらかい笑みを浮かべた彼女が彼の黒い瞳を見つめている。
不意に吹く風が悠理の髪を揺らす。
艶やかな桜色の唇ががゆっくりと動いた。
「じゃぁ、先にあたいの食べたいものにつきあえよ。な」


豪華お食事券を悠理は思う存分使い果たした。
見ていて気持ちの良いくらいのその食べっぷりはとてもさっきまでの魅惑的な女とは思えない、清四郎のよく知る悠理だった。
「うぅ〜ん、うまかった。」
そういって御機嫌の悠理は、グッとグラスのワインを飲みほすとカバンの中からもう一枚のチケットを取り出した。
それはお食事券と一緒にもらったもう一つの景品、スイートルームの宿泊券だった。
「次はお前のに付き合う番だけどどーする?」
そういって彼女は彼をまっすぐに見ていた。その瞳には彼のよく知る彼女と魅惑的な女の両方が住んでいる。
そのどちらからも目を離せない自分がいる。
気付かされた想いを押さえ込むつもりはない、そう決めたばかりだ。
彼の大きな手がチケットを掴んだ。
「今度は僕の食べたいものに付き合ってくれるんでしょ?」
清四郎もまっすぐ見つめ返してそういった。その言葉に悠理の頬がほんのりと染まった。
彼女が視線をそらした。
「・・・腹痛になっても知んないかんな。」



************





スイートルームはところどころに百合子の趣味が見えるものの上品にまとめられていた。
窓からは万作ランドが一望できる。
清四郎はゆったりとしたソファに背を預けていた。
今は一人。
部屋に着いた2人が沈黙に襲われる前に清四郎が口を開いたのだった。
「汗もかきましたし、シャワーでも浴びますか?」
からかいと意地悪に乗せた彼の言葉。
さっきのように真っ赤になるかと思っていた悠理からはいつもどおりの声が帰ってきた。
「そうだな、あたいはこっちではいるよ。お前はあっちでもいいか?」
そういった彼女の視線は2つのバスルームを指していた。
彼の気持ちには気付かないでいるような彼女の声。
視線を合わせることなくつげられた言葉。
瞳の色さえみることができないまま、清四郎の返事を待たずに彼女はその扉へと消えたのだ。
彼女の背中がみえなくなってようやく彼もシャワーを浴びてバスローブに着替えここにいる。
彼女を待ちながら。
静かな部屋の中でワインを口に含む。
口の中に広がる香りが、昨夜を思い出させる。

彼女からの溶けるようなキス
離したくなかったぬくもり

その彼女と今は同じ部屋にいる、二人きりで。
だが、昨日までとは違う二人だ。
彼の黒い瞳がゆっくりと閉じた。
悠理の顔が瞼に浮かぶ。
清四郎の鼓動が早くなる。
彼女はこの部屋にきた意味をわかっている。
分かっているからこそ、あの時彼女の顔が鮮やかに真っ赤に染まったのだろう。
だが、おそらく悠理は初めてだ。
なのに彼女は自分にそれを許そうというのだ。
清四郎に生まれて初めて「愛しい」という感情を抱かせた、その想いに気付かせたこの世にたった一人の女が。
彼女の気持ちを思うだけで自分の中の想いがあふれてしまいそうになる。
理性なんて、言葉ごと消えてしまいそうになるのを何とか耐える。
静かな部屋の中でこの胸の鼓動だけが大きく聞こえる。
今まで感じたことのないような緊張感と焦燥感に自分ではないような感覚にさえ襲われる。
彼は目の前のグラスを一気に飲み干した。
バスルームのドアに開く音がする。
「あぁー、気持ちよかった。」
髪から雫を落としながらバスローブ姿の悠理が清四郎のとなりに座った。ふわりといい香りがした。

「あ、あたいもほしー。」
そういって肌をほんのりピンクに染めた彼女はグラスに手を伸ばした。
清四郎はとなりでそんな彼女を見ていた。
それは清四郎のよく知る悠理の姿に思えた。
彼女は自分のような胸の高鳴りを感じてはいないのだろうか。
清四郎にそんな不安がよぎった。
彼は気付いていなかったのだ。
彼女が見せた笑顔の後ろに隠した想いに。
あるいは、初めて触れた自分の想いで忘れていたのかもしれない。
魅惑的な女ではなく泣き虫で甘えん坊の彼女の顔を。
いつもどおりの、いつもと変わらない悠理だと思っていた彼女の指先が震えているのを清四郎の瞳が捉えた。
おもわず彼の手がそれを包む。
悠理の動きが止まった。
俯いてしまって顔も見えない彼女を腕の中へと抱き寄せる。
彼はゆっくりと愛しい人へと問い掛けた。
「悠理、ほんとにいいんですか?」
そういって覗き込もうとした清四郎にかすかに震えた彼女の声が返ってきた。
「・・・おまえこそ。」
「お前が食べたい。その言葉は本心です。しかし、お前は僕で良いのか?」
その言葉に悠理が顔をあげた。

視線が絡む。
鼓動が聞こえそうな距離で。

「・・・あたいは・・・初めての男はお前がいい。でも迷惑なら・・」
そういいかけた彼女を清四郎が抱き締めた。
「迷惑なんかじゃないです。でも、・・・お前には2番目の男も3番目の男もいませんよ。」
「えっ、それって・・・」
慌ててそう聞き返す悠理を清四郎は軽々と抱き上げた。
ふわりと宙に浮かんだ体は広いベットへと下ろされる。
ゆっくりと見上げると熱を帯びた彼の瞳に見つめ返された。
大きな手に悠理の白い指が絡んだ。
見つめ合ったままの二人を窓からの月明かりがほんのりと照らす。
清四郎のもう片方の手が悠理の頬を包んだ。
彼女の瞳が僅かに揺れたかとおもうと、艶やかな唇がゆっくりとゆっくりと動いた。

「ずっと、・・・ずっと好きだったんだぞ。」

清四郎の目が大きく見開かれた。
彼女がとても綺麗な微笑を向けている。
「今度は聞こえたか?」
そういった彼女の唇はキスでふさがれた。
初めはついばむように。
そしてそれは徐々に深くなる。
唇の中を彼が這い回り、絡みつき、混ざり合う。
悠理の腕が清四郎に首に絡みつく。
大きな手は体のラインをなぞり始める。うなじ、肩、背中・・・そしてその手はバスローブへと掛かる。
彼女の上気した肌がシーツの海へと投げ出される。
恥ずかしさに身をよじる彼女を清四郎が捕らえた。力を入れれば折れてしまうのではないかと思う程華奢な体を抱き締める。
「綺麗だ。悠理。」
耳元でそう囁いた清四郎の声に彼女は一層頬を赤く染めた。
彼の唇は彼女の耳を甘噛みするとそのまま下へと降りていった。首筋、鎖骨、そして彼女のささやかな胸へと。
清四郎が柔らかなふくらみの先端を口に含むと彼女は大きく体をしならせた。
転がし、吸い上げる。
「あっ・・・ぃやっ・・・」
その間も彼の手は体中を這いまわり、足の内側をなで上げ敏感な部分を刺激した。
「ぅん・・・あっ・・・・」
仰け反る体。
悠理から漏れる吐息に、その声に彼は狂わされていく。
彼女の中心へと彼の指が滑り込む。あふれ出る液体の中をゆっくりと動く。

浅く、深く。

悠理の手がシーツをきつく握った。眉間に皺を寄せ唇をきつくかみ締めている。
だが、初めて与えられる体の中心からの甘い感覚に襲われて彼女がひときわ大きな声をあげた。
「あぁ・・・せ・・し・・ろ・・・・・」
切なげな声で名を呼ばれて体中の欲望が抑えきれなくなる。
こんな悠理を誰にも見せたくない。
誰にも渡さない。
気付かされた感情が止められない。
気持ちが溢れ出し声になる。
「・・・愛しくてたまらない」
そういって口付けをかわすと、清四郎は彼女の中へ彼自身を押し入れた。
「いたっ・・・」
そういって逃げそうになる悠理の腰を抱き寄せる。
「少し我慢してくれ。」
小さくうなづいた悠理の瞳から雫が零れ落ちた。
二人の初めての夜が更けていく。




 

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やったぁ!ついにのりりんさんから初エッチを奪い取りました〜!
にゃはは〜〜♪甘い夜をありがとう〜!
・・・しかし、なんか思いっきり続いてません?ま、まさか私に書けと?
一気にムードぶち壊しっすよ?このままチュンチュンチュンと聞えてくる
鳥の声とモーニングコーヒー・・・なんて、私自身が嫌だが。(笑)

背景: 柚莉湖♪風と樹と空と♪