リレー小説

真夏の夜の夢 第六回


  BY フロ





 


初めて男の侵入を許した悠理の内部は、狭く熱かった。
「い・・・っ」
悠理は苦しげに息をつめる。
十分潤っていたはずなのに、動けないほどきつく締め付けられ、清四郎も 唇を噛んだ。
「悠理、悠理・・・」
何度も名を呼ぶが、閉じられた目は開かない。
清四郎は体を動かさないように注意しながら、悠理の瞼の上に唇を寄せた。
長い睫毛を唇でくすぐり、目尻の涙を吸い上げる。
悠理の瞳が見たかった。

ずっと好きだったと、言ってくれたあの目を。

今こうしていることが、信じられなかった。
無邪気で馬鹿騒ぎばかり一緒にしていた友人の、もう一つの顔。
そして、それに翻弄され溺れている自分。

清四郎は悠理の中に自分を埋め込んだまま、そっと唇を頬から首筋に這わせた。
指を絡めていた手を外し、胸から脇へ悠理の体の線を辿る。
やわらかな愛撫。
繋がった部分から、悠理の痛みが伝わる。
少しでもそれをほぐそうと、悠理の体の弱い部分を探した。
指先で胸の先端の周りを何度もなぞる。
堅さをもち立ち上がる薄紅色の果実を指の腹でこすりあわせた。
「悠理・・・まだ痛いか?」
耳たぶを甘く噛み、名を呼んだ。
繋がっている部分を指で探り、敏感な部分をほぐそうと弄った。
「あ、せ、清四郎・・・ああ・・んああっ」
悠理を苦しみから解放するためのその行為は、だが反対により甘い責め苦を 悠理にあたえてしまったようだ。
びくびくと華奢な体が震える。
指先にふたたび潤いを感じ、清四郎はわずかに身を引いた。
そして、ゆっくり体を押し進める。
より深く、奥へと。
「・・・・!」
悠理が声にならない悲鳴をあげた。
やっと、目が見開かれる。
涙で潤んだ瞳に、清四郎の顔が映っていた。

最奥を突き上げたとき、悠理は甲高い声を発した。
それは確かに、痛みのためではなく、甘い嬌声だった。
「ここか?」
もう一度、清四郎は悠理の中を探る。
悠理の内部が反応し、清四郎に絡みつき締めつけてきた。
「あ・・・やぁぁぁっ」
何度も首を打ち振り、悠理は怯えた目を清四郎に向ける。
それは、未知の感覚に戸惑う顔だ。
悠理の目に涙がふたたび浮かんだ。

「あ、あたい変だよ・・・清四郎」
「大丈夫だ。おまえの体が言っているだけだ。僕を好きだってね」

笑みを浮かべた清四郎に、悠理は口元を引き結んだ。
涙が零れ落ちる。
悔しげに、切なげに、悠理は目を閉じた。
頬を流れる涙を、清四郎はすべて唇で吸い取る。
何度も腰を突き上げ追い上げると、引き結ばれていた悠理の唇もほころんだ。
甘い吐息を漏らすその口を、清四郎は自分の口でふさぐ。
ふたりの息が交じる。
体だけでなく、心までひとつになろうと、舌を絡める。
そうしながらも、悠理を責める律動を早めた。

唇を解放し、清四郎は悠理に囁いた。
「僕の体も叫んでませんか?おまえを・・・・愛してると」

悠理は驚いたように、目を見開いた。
本当に、一夜だけの夢だと、清四郎は流されただけだと、悠理は思っていたのか。

「おまえを欲しいと言ったのは、僕だ」
悠理の最初で最後の男になりたい。
こんな彼女は、他の誰にも見せはしない。
「おまえも、僕だけを欲しがるんだ」
心も体も。繋ぎ止め、二度と放さない。

悠理は潤んだ瞳で清四郎をにらみあげた。
「・・・言っただ・・ろ。あたいは、ずっと・・・」
だけど、それ以上言葉を続けることはできなかった。
激しく突き上げる清四郎に、悠理の声は甘い悲鳴に変わる。

湿った淫猥な音と嬌声だけが部屋に響いた。
初めての女には、酷な仕打ちかもしれない。
悠理が意識を飛ばすまで、清四郎は彼女の体を責めたてた。
もう、ブレーキは利かなかった。

窓の外から月だけが冴え冴えと冷たく照らしている。
それでも、ふたりの熱は冷めなかった。



************





「こちらに全部運び込んでも?」
「うん、頼むよ。あ、静かにしろよ。まだひとり寝てんだじょ。」
近くに聞こえる聞きなれた声で目を覚ました。
ゆっくりと開いたその目にはやわらかな月の光ではく、眩しすぎるほどの光が飛び込んできた。
「あ、清四郎。起こしちゃったか?」
「・・・・悠理?」
眩しいはずだ。
時計の針はもうすぐ11時になる所だった。
目覚めたばかりの清四郎の頭の中を昨日からの記憶が駆け巡る。
清四郎はベッドの上に身を起こした。
一糸まとわぬ上半身に、直射日光が窓から差していた。
真っ先に飛び込んできたのは、鼻をくすぐる甘い香り。
その次に、視界に入る、花、花、花。

「おはよう」
花に囲まれた悠理が、大輪の笑顔を見せた。
服装は、昨日着ていた外出着。だけど、少しはにかんだ笑顔は、 夢ではなかったのだと清四郎に教えた。
ふたりの関係が、昨夜決定的に変わってしまったことが。

花の中でやわらかな笑みを浮かべる恋人。
清四郎は自分の頭を疑った。
まさか、この花は、夢か幻か。
そこまで、恋に浮かれてしまったのか。
「・・・・。」
呆然自失状態のまま、清四郎は室内を見渡した。
そして、白昼夢ではないことを確信する。
花の大群は現実の存在だった。

そこら中に、花があふれている。
床といわず、チェストといわず。
花が乗っていないのは、テーブルの上くらいだ。
そこには、ずらりと湯気の立つ料理が並んでいた。
これは理解できる。悠理がルームサービスで朝食をとったのだろう。
「この花、ホテルからのプレゼントなんだってさ。すっげーよなー、懸賞って。今度も 一等狙おうな!」
悠理は無邪気に喜んでいる。
それで、納得。
「懸賞パワーならぬ、剣菱パワーですな」
宿泊カードに彼らは本名を書いた。
ここは万作ランドだ。ここでは悠理はどんな国の女王陛下よりも尊重される。
まちがいなく、この王国のプリンセス。

その姫君は、机に並べた食物に突入していた。
「おまえも食えよ。冷めちゃうぞ」
あまりにも見慣れた、いつも通りの悠理。
清四郎の口元に、笑みが浮かんだ。
悠理の変わらなさが、嬉しい。
彼の欲望を煽ったあの魅惑的な女も、幼い無邪気な顔も、両方とも悠理の中に棲んでいる。
悠理はきらきらした目を机上に向けていた。
湯気の立つトースト、ワッフル、卵料理にハムベーコン。クラムチャウダーに海の幸サラダ。
それどころか、パスタにグラタン、なぜか中華粥と小龍包まで並んでいる。
果物の満載した大皿は、ホテルのサービスだろう。
清四郎は枕元のガウンを羽織って、ベッドから降りた。
床に座り込んで机に顔を突っ込んでいる悠理の頭上から手を伸ばし、ホットコーヒーを手に取った。
喉を焼く熱さを楽しむ。
「シャワー浴びてきます」
「むぅん」
口一杯にパンを頬張った悠理が肯く。
その頬に、身をかがめキスを落とした。
「むはっ」
口中のものを吹きだされる前に、清四郎はシャワールームに逃走した。



************





チェックアウトしたフロントは、最高にプロフェッショナル。
そこまでは、清四郎もなんの違和感を抱くこともなかった。
しかし、フロントからロビーに体を向けたとき、思わず息を飲んだ。
広い吹き抜けのロビーに、従業員がずらりと並んで見送り体勢をとっていた。
「ゆ・・・悠理」
「ん?なに?」
悠理はケロッとした顔で、蒼ざめた清四郎を不思議そうに見上げている。
そういえば、剣菱邸でもいつもこんな調子だ。悠理は慣れてしまっていて、異様に 思わないらしい。
清四郎はのけぞりそうになる体を立て直した。
こんなことでメゲていては、悠理と付き合ってなどいられない。
「じゃあ、帰りますか」
清四郎はなんとか笑顔を恋人に向けた。
そして、悠理の目の前に腕を出す。
「へ?」
「お手をどうぞ」
ポカンとしている悠理に、そっと囁く。
「・・・僕らは恋人同士なんだ。腕くらいくんでもいいでしょう。それとも、 昨夜の言葉は嘘だとでも?一夜だけの気まぐれか?」
からかうような口調に、悠理は頬を染めた。
照れたというより、負けん気を出したらしい。
「お、おう!」
悠理はガシッと清四郎の腕をつかんだ。

あまり色気のない寄り添い方だったが、ふたりはそのままロビーを大股で突っ切る。
床に敷いてある赤い絨毯は昨夜はなかったようにも思うが、この際、気にしない。
一般の客は、なにごとかと清四郎たちを注目している。
頭を下げる臣下を従えた王族のように、衆人環視のもと、エントランスへ向かった。
赤い絨毯の先には、剣菱家のリムジンが待っていた。
万作ご愛用の、天守閣バージョン。

清四郎は大きく息を吸い込み、しばし足を止めた。
悠理がつんのめるが、気にせず目を閉じる。

「清四郎?」
悠理の怪訝そうな声に、目を開けた。
もう、腹は据わっていた。

「・・・僕も昨夜の言葉は、本気です」
清四郎は、悠理に顔を向けた。
その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。

「おまえの、最初で最後の男になるってね」

そう言って、清四郎はふたたび足を踏み出した。
バージンロードに似た赤い絨毯の上、恋人の腕をとって。


 

 

 

後日談

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アモレアモ〜レでカラビアンナ〜イトなユーミンの歌をイメージして
書きだしたのりりん様のお作が、なぜにギャグオチに?
我ながら、おそるべし、おまぬけ魂!(←ヤケ)
勝手に続き書いてリレー小説にしたあげく、コレかよ!ってなオチで
まことにすみません・・・ワシにロマンチックは無理でした・・・
これではあんまりなんで、フォローしてくんないかなー?

背景: 柚莉湖♪風と樹と空と♪