清四郎くんのためになるウンチク講座 ~阪神優勝記念編~
「金本、取った〜」 TVでアナウンサーが絶叫したとき、清四郎と悠理は応援バットを叩き絶叫した。 「清四郎〜〜〜まさか、2年で優勝するなんてなあ」 悠理は涙を浮かべている。 「ほんとですよ。僕らは1985年に日本一になったときには、まだ生まれてすぐでしたからね。物心付いての優勝は、一昨年を待たなくてはなりませんでした」 清四郎の目元が、うっすらと涙ぐんでいる。 「2003年の監督は星野さんでしたから…彼には感謝していますが、やはり中日ドラゴンズのイメージが強いですからね。生え抜きの岡田監督で優勝できて、僕は、もう…」 後は言葉にならない。 「よかったなあ、清四郎…ほんと、よかった」 「悠理も、僕に付き合って阪神ファンになってくれて…一緒に応援できた今年は、本当に楽しかったですよ」 「あたいも楽しかったよ。六甲おろしも覚えたし」 「ヒッティングマーチも完璧でしたね」 「清四郎が一生懸命教えてくれたからだよ。あんがと」 「いや、悠理の努力のたまものですよ」 清四郎と悠理はがっちりと手を握り合った。 寝間でそれこそ口移しのように六甲おろしやら、ヒッティングマーチやらを教えられたことは、仲間にも秘密である。 「六甲おろしに、颯爽と、蒼天駆ける、日輪の、青春の…あれ?」 「覇気麗しく…ですよ。まだ、おぼえないんですね。そんな子は、こうですよ」 「あ、いやん。あふっ…」 …馬鹿である。
画面では岡田監督のインタビューが流れている。 いつ見ても、藤山寛美に似ているおもろい顔だが、今日は凛々しく見える。 ぽんっ!と勢いよくシャンパンの栓を抜き、清四郎と悠理はグラスを合わせた。 「ああ、美味い」 「勝利の美酒とは、よく言ったものです」 「なあ、清四郎。タイガースってこのところ強いけど、その前は弱かったの」 悠理の問いに、清四郎ははあと溜め息をつき、 「ええ。弱いなんてもんじゃなかったですよ…創立は70年前、ジャイアンツといっしょにプロ野球草創期からあるチームですよ。それも、阪神が優勝すれば、次は巨人、そしてまた阪神と…優勝を分け合ったような強豪だったんですよ。それが…」 清四郎は眉間に皺を寄せ、 「セパ、2リーグに分裂したのが1950年。それ以降、今回を含めて優勝はたったの5回ですよ。ヤクルトなんか弱小球団と言われていたのに、90年代だけで4回も優勝しているのに…」 清四郎は、時折言葉を詰まらせながら、 「殊に、1985年、バース・掛布・岡田の強力打線で日本一になった後が悲惨でした。翌年から、3・6・6・5・6・6・2・4・5・6・6・5・6・6・6・6位ですよ。ヤクルトを常勝チームにした野村監督ですら3年連続最下位でした」 「…清四郎、苦労したんだな」 「ファンをやめようと、何度思ったことか…でもね、悠理、星野監督になり初年度4位。久しぶりに最下位を脱出した時は嬉しかったなあ」 「翌年優勝したしな。お前、あの日、学校で浮かれてたもんなあ。びっくりしたよ、あたい。いきなり六甲颪とかハミングしちゃうし…美童と魅録、引いてたもんな」 「…それは忘れてください…18年ぶりだったので、ちょっとタガが外れてしまったんですよ」 「で、岡田のおっちゃんいなって4位になって、また優勝…あれ?優勝の前の年って同じ4位だな」 清四郎の目がきらりんと輝き、 「いいところに気がつきましたね!悠理。優勝した年は1962年、64年、85年、2003年、2005年ですね。そのうち64年だけは前年3位でしたが、後の年はみな前年4位なんですよ!」 「おおお〜不思議だなあ〜」 「でしょ〜」 TV画面ではいつの間にかビールかけが始まっている。 シャンパンを飲みながら語るうち、ずいぶんと時間が経ったようだ。 みな、嬉しそうに大量のビールを浴びせあってる。 「面白そうだなあ〜。気持ちいいのかな、これ」 「そりゃあ気分は最高でしょうよ。たとえ、後がビール臭くても…」 清四郎ははたと何かを思いつき、部屋を出ていった。 しばらく後で、ケースに入ったビール瓶を持って戻ってきた。 「せ、清四郎ちゃん。もしかして、ここでビールかけやんの?」 「嫌…ですか?悠理」 がっかりしたような清四郎の顔を見て、悠理はつい、 「いいよ、やっても…お祝いだしな」 と微笑んだ。 「ありがとう、悠理」 そう言うと清四郎はビールケースを風呂場に運んだ。 「そっか、風呂場なら気兼ねないもんな」 悠理は清四郎に手を引かれ、風呂場に入った。 「さて…」 清四郎はにこにこしながら悠理の着ていたユニフォームのボタンを外しにかかる。 「ちょ、ちょ、お前、なんで脱がすんだよ」 「ビールは後まで臭いが残るんです。せっかっくのユニフォームが臭くなるのは嫌でしょ」 「そりゃあ、そうだけど…って、なんで下着まで…あ、あは…あふん…」 清四郎はビールかけと称して、夜のホームラン合戦に突入した。 あまりの快打の連発に、悠理の目の前にトラッキーのバク転姿がフラッシュバックした。 その日、何本のビールが勢いよく抜かれたか、ラッキーちゃんにもわからない…
チャンチャン♪
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さて、日本シリーズの結果は・・・↓