かめお編4

清四郎くんのためになるウンチク講座 ~阪神優勝記念編~

 


 

「金本、取った〜」

TVでアナウンサーが絶叫したとき、清四郎と悠理は応援バットを叩き絶叫した。

「清四郎〜〜〜まさか、2年で優勝するなんてなあ」

悠理は涙を浮かべている。

「ほんとですよ。僕らは1985年に日本一になったときには、まだ生まれてすぐでしたからね。物心付いての優勝は、一昨年を待たなくてはなりませんでした」

清四郎の目元が、うっすらと涙ぐんでいる。

「2003年の監督は星野さんでしたから…彼には感謝していますが、やはり中日ドラゴンズのイメージが強いですからね。生え抜きの岡田監督で優勝できて、僕は、もう…」

後は言葉にならない。

「よかったなあ、清四郎…ほんと、よかった」

「悠理も、僕に付き合って阪神ファンになってくれて…一緒に応援できた今年は、本当に楽しかったですよ」

「あたいも楽しかったよ。六甲おろしも覚えたし」

「ヒッティングマーチも完璧でしたね」

「清四郎が一生懸命教えてくれたからだよ。あんがと」

「いや、悠理の努力のたまものですよ」

清四郎と悠理はがっちりと手を握り合った。

寝間でそれこそ口移しのように六甲おろしやら、ヒッティングマーチやらを教えられたことは、仲間にも秘密である。

「六甲おろしに、颯爽と、蒼天駆ける、日輪の、青春の…あれ?」

「覇気麗しく…ですよ。まだ、おぼえないんですね。そんな子は、こうですよ」

「あ、いやん。あふっ…」

…馬鹿である。

 

画面では岡田監督のインタビューが流れている。

いつ見ても、藤山寛美に似ているおもろい顔だが、今日は凛々しく見える。

ぽんっ!と勢いよくシャンパンの栓を抜き、清四郎と悠理はグラスを合わせた。

「ああ、美味い」

「勝利の美酒とは、よく言ったものです」

「なあ、清四郎。タイガースってこのところ強いけど、その前は弱かったの」

悠理の問いに、清四郎ははあと溜め息をつき、

「ええ。弱いなんてもんじゃなかったですよ…創立は70年前、ジャイアンツといっしょにプロ野球草創期からあるチームですよ。それも、阪神が優勝すれば、次は巨人、そしてまた阪神と…優勝を分け合ったような強豪だったんですよ。それが…」

清四郎は眉間に皺を寄せ、

「セパ、2リーグに分裂したのが1950年。それ以降、今回を含めて優勝はたったの5回ですよ。ヤクルトなんか弱小球団と言われていたのに、90年代だけで4回も優勝しているのに…」

清四郎は、時折言葉を詰まらせながら、

「殊に、1985年、バース・掛布・岡田の強力打線で日本一になった後が悲惨でした。翌年から、3・6・6・5・6・6・2・4・5・6・6・5・6・6・6・6位ですよ。ヤクルトを常勝チームにした野村監督ですら3年連続最下位でした」

「…清四郎、苦労したんだな」

「ファンをやめようと、何度思ったことか…でもね、悠理、星野監督になり初年度4位。久しぶりに最下位を脱出した時は嬉しかったなあ」

「翌年優勝したしな。お前、あの日、学校で浮かれてたもんなあ。びっくりしたよ、あたい。いきなり六甲颪とかハミングしちゃうし…美童と魅録、引いてたもんな」

「…それは忘れてください…18年ぶりだったので、ちょっとタガが外れてしまったんですよ」

「で、岡田のおっちゃんいなって4位になって、また優勝…あれ?優勝の前の年って同じ4位だな」

清四郎の目がきらりんと輝き、

「いいところに気がつきましたね!悠理。優勝した年は1962年、64年、85年、2003年、2005年ですね。そのうち64年だけは前年3位でしたが、後の年はみな前年4位なんですよ!」

「おおお〜不思議だなあ〜」

「でしょ〜」

TV画面ではいつの間にかビールかけが始まっている。

シャンパンを飲みながら語るうち、ずいぶんと時間が経ったようだ。

みな、嬉しそうに大量のビールを浴びせあってる。

「面白そうだなあ〜。気持ちいいのかな、これ」

「そりゃあ気分は最高でしょうよ。たとえ、後がビール臭くても…」

清四郎ははたと何かを思いつき、部屋を出ていった。

しばらく後で、ケースに入ったビール瓶を持って戻ってきた。

「せ、清四郎ちゃん。もしかして、ここでビールかけやんの?」

「嫌…ですか?悠理」

がっかりしたような清四郎の顔を見て、悠理はつい、

「いいよ、やっても…お祝いだしな」

と微笑んだ。

「ありがとう、悠理」

そう言うと清四郎はビールケースを風呂場に運んだ。

「そっか、風呂場なら気兼ねないもんな」

悠理は清四郎に手を引かれ、風呂場に入った。

「さて…」

清四郎はにこにこしながら悠理の着ていたユニフォームのボタンを外しにかかる。

「ちょ、ちょ、お前、なんで脱がすんだよ」

「ビールは後まで臭いが残るんです。せっかっくのユニフォームが臭くなるのは嫌でしょ」

「そりゃあ、そうだけど…って、なんで下着まで…あ、あは…あふん…」

清四郎はビールかけと称して、夜のホームラン合戦に突入した。

あまりの快打の連発に、悠理の目の前にトラッキーのバク転姿がフラッシュバックした。

その日、何本のビールが勢いよく抜かれたか、ラッキーちゃんにもわからない…




 

チャンチャン♪




さて、日本シリーズの結果は・・・↓

次、行ってみよー!

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こりゃダメだ、脱出!