翌日も清四郎は意味もなく悠理の周りをウロウロし、色々と粉をかけて情報を引き出そうとするが、コンクールを間近に控え、ますます熱のこもった作業をするパティシエの様子に心打たれている悠理は口を割らない。
「なんだよ!清四郎!あたいが美童と遊んでちゃいけないのかよ!!」
しまいにはうるさがられ、思いっきり睨みあげられたところへ再び美童が登場し、にこやかに悠理の髪を後ろから撫で撫でしてみせた。 表面上はさわやかでにこやかな笑みを浮かべている。
(清四郎の奴、だいぶんいらいら始めてるな〜♪) 「どうしたの?悠理」 すましてそう聞く。
「ん?いや何でもないぞ。清四郎の奴がちょっとな」
(−−−−−−!!!!!!)
ここ数日、美童と行動する時間が増え、「完全なるレディーファースト」に含めて、さりげない美童のスキンシップに悠理は慣れてしまっていた。
最初はドアを開けて、室内へ進めてくれる際に背中に添えられる手だった。
その後、食器を手渡してくれたり、美童の私物を見せてくれたり、悠理が興味を持つ事を教えてくれるたび、悠理の手を取ったり、近くへ引き寄せたりして、彼はその距離を縮めていった。
最初のうちはさりげなくかけてくる美童の手が気になって仕方なかったが、悪意のない笑みとあくまで紳士的な扱いに
(−−−他の男だときざったらしくてイライラすんだろうけど……美童だもんぁ。あたいが相手でも無意識にレディーファーストが出るんだろうな。でもすっげーな。…美童って近くで見ると、まつげ長くて女の子みてー。)
金髪碧眼、学園中の女性の大半を釘付けにする美童の魅力はこういうとこにあるんだろうか??
今まで単純に「綺麗な奴だ」くらいにしか思っていなかった美童を悠理はまじまじとみつめて感心した。 「美童って、近くで見るとすっげー綺麗な肌してるな。可憐と張るっつーか。睫毛長くて、まるで、お姫様みたいだな」
さしもの悠理にもこの台詞をはかせるようになっていた。 美童は驚いて目を丸くした。
「悠理にそんなこと言ってもらえるとは思わなかったよ!!。でもありがとう。嬉しいよ!!」
美童は悠理の肩を抱き、ついで、唇にちゅっと軽いキスを落としていた。 一瞬の事で悠理もぽかんとしたが、我に返って赤くなり怒鳴る。
「ば!!!お前!なにすんだ!///」
「−−あ、ご・ごめん!悠理!!あんまり嬉しくてつい!!」
(わーー!!!悠理にキスしちゃったよぉ!!)
殴られる!!と思い、思わず顔と頭をかばいかけたが、以外にも悠理はそれ以上美童を責めなかった。
いつまで待っても痛みがやってこないので、そっと目をあけて、悠理をみると、ふんっと鼻息をふいた悠理が呆れたように美童をねめつけていた。
「…お前の国では挨拶なんだろうけど、あたいは日本人なんだ。今のは忘れてやる。だけど、次はぶっとばすぞ」
それが昨日のことだ。
*******
ここ数日、美童は”自分に免疫をつけさせなければ!!”とスキンシップを怠らなかった。 ただし、悠理が怒り出すような、いやらしい触り方にならないように細心の注意を払っていた。 彼女にへそを曲げられては清四郎への意趣返しができないし、身の危険がある。
やると決めたときは男・美童だってそんなへまはしない。
昨日の出来事は自分でも予想外の行動だった。
悠理の様子もいつもとまったく変わりがない。
(…もしかして、悠理ってキスの経験くらいあったのかなあ…??んー??ありえないような…わからないなー。) 美童は改めて悠理に興味を持った。
清四郎の目の前で悠理の髪を撫で、その頭部に当然のように自分の手を置いた美童は授業の予鈴がなったので
「放課後、迎えに来るよ」
と、悠理の耳元で声をかけ、自分の教室へ戻っていった。 その姿をふんっと鼻息をふいて見送ると、悠理はうーんと伸びをした。
「さて…あたいらも教室もどんないと授業おくれっぞ清四郎。−−清四郎??」
悠理が声をかけながら振り返ると清四郎は傍目にも分かるほど固まっていた。
(それは…それは…悠理の頭をポンポンは……僕の特権だったんじゃないんですか??−−−−(誰が決めたんだ清四郎よ:金魚))
********
清四郎の挙動不審は最高潮に達していた。
ここ5日間のあまりにも異様な雰囲気に仲間達は清四郎の気持ちを察してしまった。 (察するも何も、あからさまにフラフラになっているこの様子で分からない方が変だろう)
そのことに気付いていないのは、本人と悠理くらいである。
「……もしかしたらとは思ってたけど、清四郎ってめんどくさいタイプなのね」 「それは言い過ぎですわよ、可憐。……でも確かに、嫉妬深いのは嫉妬深いみたいですわね…」 「その辺はよくわかんねーけど、あいつが悠理のことを…てのだけは事実みたいだな…」
(なんにしても…) (((ひぇーーー!!だぜ!)だわ!)ですわ!)
昼休み、差入れ豪華弁当を幸せ一杯で食べる悠理と、鼻歌交じりにわざと悠理の隣の席をぶんどっている美童。 その二人を見ながら石化している清四郎…という光景に、残りの3人はため息をついた。
「…美童はあれ絶対わざとやってるよな」 「当たり前でしょ!−−どうせこの間のやつあたりの仕返しよ。−−でもまあ、清四郎の気持ちに気付いてたってことなのよね。その辺はさすがよね〜」 「なんでもいいですけれど、あの光景が後何日続くのですかしら…。」
(((まあ、めったに見れない清四郎の人間らしい部分で、面白いといえば面白いんだけど)))
3人の意見はほぼ一致していた。
********
コンクールを明日に控え、そろそろ次の手を考えなくては…と案を巡らしている美童は、悠理がボロを出さないようにぴったりと悠理をマークしていた。当の悠理は、パティシエの追い込みにより、毎日・毎日、よりハイレベルな、より美味しいCAKEが登場する生活が続いているわけなので、幸せ一杯である。
美童に声をかけられると、いつも多種多様なCAKEの姿が目に浮かび、満面の笑顔で笑うような反射がおこってきている。
野梨子達の目にも何となく状況は見て取れているが、清四郎には「美童になついて微笑んでいる悠理」は見たくなくても見てしまう、知りたくないのに近づいてしまうどうしようもない光景だった。
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コンテストの前日。
つまり、美童宅に悠理が訪問する理由がなくなってしまう前日、一日中美童は考え込んでいた。
最初は清四郎に意趣返しをしてやろうと思って悠理を自宅へ招いた。
折良くCAKEコンテストの準備もあったし、家中の甘い匂いに弟がいいかげん辟易して毎日遅くまで出歩いているのも都合がよかった。
昨日のキスは……自分でも予定外だったけど、丸5日間、二人っきりの時間を持ってみて、以外にも清四郎が悠理のどこに惹かれるのか分かる気がした。
…クルクルと変わる表情、裏表のない性格、大財閥のお嬢様なんだけど、物や食べ物、人に対する愛情をきちんと持っている素直さ。 さんざん一緒に遊んでいたはずだけど、至近距離で見つめる悠理は美童をドキドキさせていた。
(ついこないだまで”野生のサル”だと思ってたけどな…)
美童はため息をついた。
世界の恋人、愛の貴公子を自他共に認める自分。 果たしてこのまま、悠理を引き寄せられるだろうか?
−−清四郎が何か仕掛けてくるのもそろそろのはず。
6日目、最後の放課後、
「じゃあ、悠理。…行こうか」 悠理を教室まで迎えに来た美童についていこうとする悠理の手を走って廊下までやってきた清四郎は思い切り掴んでいた。
「−−清四郎??」
突然現れた、あまりに真剣な目の色に悠理の腰がひける。 傍らで、美童が青い瞳の色を深い色に変える。
暗い瞳で悠理を見つめ、何かいいたそうなのに、何も言わない清四郎に悠理の方が質問した。
「痛いよ。清四郎。なんだよ!?放せよ!。−−お前ここんとこ、ほんとに機嫌悪いな??あたい、なんかしたか?お前に」
悠理の当然の問いには清四郎は答えない。 というか、口を開けばとんでもない事を口走りそうで、自分でもどう切り出していいか困っていた。
(−−考えるよりも先に手の方が動いてしまったな) 清四郎はらしくない自分に苦笑する。
−−−聞きたいことは山ほどある。
しかし、悠理にとって自分のはただの友達。今、口に出きる質問は非常に少ない。 口を滑らすのが怖い彼の胸中は渦を巻き続けている。
結果、必死で言葉を探し、出てきたのは自分でも情けないような台詞だけだった。
「悠理…もうすぐ試験でしょう?毎日美童と遊んでばかりでいいと思ってるんですか?!」 まるで小学生の母親のような理由である。悠理の側にいた魅録は思わず目をつぶった。
「−−試験前になったらまたお前に頼むよ」
放課後のCAKEも今日で最終日だ。一体どのCAKEが最終選考に残ったのか知りたい悠理は話しを短く終わらせようとあっさりそう言った。
悠理の返事が”自分に頼む”、というものだったので、清四郎は安堵しつつも悠理を引き留めたい一心でつづけた。
「…お前の理解能力とスピードを考慮したら、もうそろそろ始めないと間に合わないと思うんですがね」 悲しいかな。清四郎が毒をはく。
(そこで毒はいてどうする!清四郎さんよ!) 魅録は清四郎に同情する。
悠理が一瞬言葉に詰まったとき、美童が悠理の手を清四郎から奪い返した。 予想外に強い力を加えられ、清四郎も思わず手を放す。
「ーそんなことないよ。毎日僕も勉強見てあげてるもん。ね、悠理?」 美童が悠理を見てにっこり微笑む。
「…ほぉ。そーなんですか」 (僕が相手だと、引きずって来なきゃ、勉強なんてしないくせに!!なんだその態度の差は!!!) 清四郎はむっとする。
美童のいう勉強…の話は全くの嘘ではなかった。
一日30分程度だが、美童は悠理に古典ではなく、英会話のレクチャーを続けていた。 お陰で悠理も簡単な挨拶や質問の聞き取りは理解できるようになってきている。
これは美童の考えたスキンシップの一つだった。 日本語で普通にやりとりするよりも慣れない英会話で時間を過ごす方が、オーバーアクションや身振り手振りが増え、悠理に触れやすくなるのだ。
<悠理相手だけでなく、美童は時々、入れ替わる恋人達相手に小技として使っていた>
「うん♪美童、さんきゅーな♪それにな」
「…それに…なんですか?」 むすっと清四郎が問う。
「万が一、赤点で母ちゃんに追い出されたら美童が嫁にもらってくれるっていうし、大丈夫だじょ♪」
悠理は、がははと万作式に笑った。
(悠理よ…お前、冗談でもそういうこというなよ〜(TT)清四郎があわれ過ぎるぞ〜) 清四郎が石になっているのを見かねた魅録が突っ込んだ。
「なんだよそれー」 魅録は清四郎に同情しつつ、呆れている。
「あら〜よかったじゃない悠理、嫁ぎ先が決まって♪」 高い声がした。
いつの間にか、HRが終わるなり教室を飛び出していった清四郎が気になった女二人がすぐ後ろへやって来ていた。
「でしたら、剣菱の後継者は美童になるんですのね。…でも結構、お似合いかも知れませんわね。少なくとも、おばさまは大喜びだと思いますし」 野梨子も笑いながらそういう。
−−悠理としては全くの冗談のつもりだった。 −−美童は、剣菱の名前を聞いて、少しだけ引きつった。
周囲も悠理の口調から冗談としか受けとれなかった。
が、1人だけ、煮詰まり返っていたこの男は飛び上がってしまった。
清四郎は観念の声をあげた。 もう、周囲にばれようが、悠理に驚かれようが、これ以上は黙っていられなかった。
「だめです!!悠理は美童には譲れません!!!!」
心からの叫びだった。
(((どぇええええ????)))
周囲があっけにとられているとき、もう一人の男が叫んだ。
「譲ってもらうもなにも、悠理はお前のもんじゃないだろ?!」
ぽかんとする悠理の頭上で、二人の男が火花を散らし始めた。
********
廊下の一角で始まった学園の人気者、清四郎と美童の争う声と、さらに有閑倶楽部の6名がすべて揃っている状況に周囲の生徒達が色めかないはずがなかった。
もれ知ることができるかぎり、もめ事の中心はあの剣菱悠理なのだから。 どちらかというと女生徒ばかりが卒倒しそうになって、聞き耳をたてていた。
魅録がため息をつき、二人の間に割ってはいる。低い静かな声で告げた。
「場所、変えろ」
言われてはっとした清四郎と美童が周りを見渡すと自分たちを囲んで黒山の人だかりができていた。 清四郎はさっと口元を引き結び、美童は……次の瞬間、悠理に目線で合図を送り、その腕をとった。
再度・清四郎に向き合い、言い放つ。
「清四郎、悪いけど、この話は”また明日”だ!!今日は”どうしても”抜けられない用事があるんだ!何言われても悪いけど、悠理は連れてくよ!!−−行くぞ!悠理!!」
いつにないきっぱりした美童の宣言の理由が分かっている悠理はちらっと清四郎に視線を走らせたものの、
「−−ああ」
それだけ短い返事をして、急ぐよう促す美童に腕をとられたまま、走り出した。
顔面蒼白になっている菊正宗清四郎&固まっている仲間達を残して。
********
「美童さん、悠理さん、本当にありがとうございました!」
神田率いるパティシエ・チームが完成した出品作品を悠理と美童、そして、スポンサーに披露するための集まりが終了した後、神田自ら挨拶にやってきた。
「優勝はいただきだね!」 悠理は満面の笑みで笑う。
「僕もそう思います」 美童はにこやかに神田の握手に答えてから、彼を送り出した。
美童宅から悠理を残してすべての招待客が帰っていった後、美童は悠理にシャンパンを手渡した。
「悠理、悠理!本当にお疲れさま!そしてありがとう。本当にいい作品ができあがったって思うよ!」
「ん。そうだな。あたいもそう思う。すっごい意気込みだったしな−−−優勝できるといいな!!」
グラスを軽く触れ合わせ、二人は乾杯した。
時刻は8時半を少し回ったところだ。 窓の外はすっかり暗くなっている。
CAKEの試食会の後、会場で軽食が出された。
その中にはアルコールも含まれていたため、制服姿はあんまりだろうということで、美童の服の中からシンプルなオフホワイトのカットソーにブラックの細身のスパッツを選び、悠理に着させていた。
伸縮性のある生地で、細身の物を選んだにもかかわらず身長差のある美童の服は悠理には大きかった。
袖を幾重にも折り、いつもよりもずっと小さく見える。
窓ガラスに映った自分の姿にぷっと吹きだした悠理が美童を振り返る。 「お前、細いけどやっぱでかいな!!。袖伸ばしたら格好悪くて、あたい全然着れないぞ」
両手をブンブン振って、折り曲げていた袖を伸ばしてみせ、悠理は笑う。
「−そりゃそうだよ。僕は…男だもん」 美童の表情が少しだけ引き締まって見え、悠理はあれ?と首を傾げた。
(−−美童の瞳の色って…こんなに濃かったっけ?)
じっと自分をみつめてくる美童の視線を正面から受けとめてしまったとき、男がゆっくりと近づいてきた。
「−−美童?」 初めてみる美童の視線に悠理の声がほんの少しかすれる。
その声を聞きながら、美童は悠理が伸ばした袖ぐちの上から両手首をそっととらえ、自分の方へ引き寄せた。
(無理矢理は僕の本意じゃない。どんな状況であろうと絶対に) (女性は大切に…敬われるために生まれてきた存在であって、それ以外のものでは絶対にない)
美童は壊れ物を扱うように悠理の身体を引き寄せ、正面からそっと抱きしめた。
「び…どう??」
悠理は、サラサラと自分の身体にかかってくる美童の金髪に我知らず見とれていた。 (…う…わぁ−−。なんて綺麗な髪なんだろ…。男なのに、いい香がする。…なんかあたいなんかよりずっと女らしいよな。美童って…)
ここ数日で初めて、−−本当に初めて、美童が女生徒にもてる理由が理解できた。悠理は、自分の背中にそっと触れる美童の指の動きに放心し、そっと目を閉じた。 (…あったかくて、気持ちいいな。なんて甘い香りがするんだろ…。今まで感じた事なかったな) (美童には…友達としてしか興味なんてなかったのに…) (あたいより弱い男なんて、あたいには絶対に向かないのに…)
(−暴れん坊で、大食いで、いつも大騒ぎして、トラブルメーカーの悠理) (クルクルと変わる表情の下と友情に厚い、温かい心を持っている悠理)
殴られる事も覚悟で引き寄せてしまったが、悠理は腕の中で目を閉じ、じっとしている。
「悠理…」 美童は、悠理の顎にそっと手を添えると彼女との2度目のキスをその唇へ乗せていった。
(−−絶対に悠理を傷つけない)
軽く、羽のような口づけを繰り返し、悠理に何度目かの吐息をつかせると、片方の手のひらで彼女の背中の中心を支えた。 頬に触れていた指は首の後ろへ回し、しっかりと悠理を支えると、口づけを深いものへと変えていった。
「んっ……!」
口内へ進入し、自分の舌をとらえた熱いいきものに、悠理の目が見開かれ、身体は緊張する。 首を振って、逃れようとするが、いつのまにか首の動きを、崩れ落ちそうな身体を優しい、しかし的確な動きで封じられてしまっていた。
美童が悠理を絡め取り、初めて知る感覚へといざない、さらに刺激する。
生まれて初めて経験する深いキス。
(−−美童くらい、突き飛ばして逃げようと思えばいつだってできる!)
そう思っていたのに、美童のキスと愛撫の前に頭の芯がしびれて身体が動かない。 (キスって、みんなこんな風に感じるものなんだろうか…それとも…び…どうが特別なのかな?)
ぼんやりとなされるがまま美童の胸に身体をあずけていると、背中を支えていた腕の力を緩められ、悠理はストン、とベットの上へ横たえられてしまった。
「悠理…」 今度は身体の上に金色の髪が降り注いでくる。
「−−−!!!!」
もう綺麗だなんて悠長なことを言っている場合ではない。悠理ははっとした。
背中を支えられていた手が外れ、両腕をそっと辿られたとき、真っ赤になった悠理は跳ね上がった。 「ちょ…ちょっとタンマーーー!!!!」
ベッドの上にちょこんと座り、右手でパーを作って美童の目の前に広げる。
「どうしたの?悠理」 美童は悠理の上に乗り上げていた身体を素早く後ろへずらして悠理を解放する。
「−−って、ダメだよ。美童!−こんなの−−−(あたい、思いっきり流されるとこだった!)」
初めての感覚に翻弄されてしまった事実にかっと全身が熱くなる。
全身を真っ赤に染める悠理を前に美童の身体には火がついてしまっている。 しかし、経験のない悠理を誘惑で丸め込む事は本意ではない。
美童は意識してゆっくりした口調で声をかけた。 「悠理が嫌がることは絶対にしないよ。だから、心配しないで」 にっこりと微笑んでみせる。
「美童…」 悠理の瞳がほんの少し揺れた。
「僕は…(どうやら悠理に惹かれてしまっているらしい)」
そう告げようとした素敵な瞬間に、美童の部屋のドアが勢いよく開けられた。
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