胸騒ぎの午後
前編
毎度お騒がせの有閑倶楽部。 三連休を利用して、清四郎くんは東村寺に二泊三日合宿修行中です。 最終日の今日は、剣菱さんちのご令嬢も参入し、朝からまことに内容の濃い一日となりました。
悠理の持参した豪華な昼食がもたらす満腹感に、清四郎は屈した。
東村寺の境内で、あおむけに寝ころがる。 短期のためかいつもよりハードに感じた合宿も終わり、あとは昼寝でもして帰るだけだ。 さきほど水浴びしたままの裸の上半身に、木陰の風は涼しすぎるが、風邪をひく季節でもない。
「清四郎は裸で昼寝かよー。いいじゃんか。あたいもこのままで」 水遊び後の濡れ鼠のまま、清四郎の隣に寝転がろうとした悠理は、無理やり着替えに行かせた。 ナントカだから風邪はひかないだろうが、本人が気にしなくとも清四郎は気にする。 洗濯板と勝負できるレベルとはいえブラまで透けて見える姿は、他の合宿参加者がいる今はまずいだろう。 悠理不在がもたらす静けさに、清四郎は心地よく眠りの世界にひき込まれた。
清四郎が居眠っていたのは、ほんの数分だった。 やわらかい感触を唇に感じ、清四郎はゆっくりと覚醒した。 近くにあったなにかの気配が遠のく。 バタバタと足音が聞こえ、本格的に目が覚めた。
「ん・・・む」 目を開けて身を起こした清四郎は、十歩ほど離れたところに立つ悠理に気づいた。 新しいTシャツを身にまとった悠理は、凍りついたような顔で、清四郎を凝視していた。
「悠理?」 まるで幽霊でも見たような悠理の表情。 まさか、また―――と清四郎はいぶかしむ。
「どうしたんだ」 「せっ清四郎・・・!」
悠理は幽霊が出れば、いつも清四郎にしがみつく。 しかしこのとき悠理は、立ち上がって近づく清四郎から、はじかれたようにぴょんと距離をとった。 同時に、青ざめていた顔が、音の聞こえそうなほど急激に赤く変化する。 悠理は自分の口を両手でおおった。 まるで、叫びだしそうな衝動を抑えるように。 そのまま踵をかえす。 あっけにとられた清四郎を残し、悠理は逃げるように駆け去っていった。
(うあー!どうしよう、どうしよう、清四郎の顔が見れないよー!) 悠理はパニックに陥っていた。 ドドドドと東村寺の山門に向かって駆けてゆく。 目的あって走っていたわけではない。 文字通り、脱兎のごとく清四郎の前から逃げだしただけだった。
「嬢ちゃん、どうしたんじゃ?」 「じ、じっちゃん!」 あやうく、雲海和尚とぶつかりかけて、悠理は急ブレーキをかけた。
「はぁい、悠理、来ちゃったわよー」 「悠理?どうしたんだよ、顔。真っ赤だぜ」 「うあああ、可憐!魅録!」 山門では、ライダースーツ姿の魅録とポニーテールの可憐が雲海和尚と談笑していた。 「あんたん家と清四郎んとこに電話したら、ここだっていうから。これから、時間空いてんでしょ。久しぶりに夜遊び誘いに来たんだけど」 「か、可憐ー!」 悠理は自分より小柄な可憐の胸に飛びこんだ。 「よ、よしよし、どうしたのよ?」 「セーシローがっ」 「清四郎が?」 「うぐ」 思わずしゃべりかけた悠理は、すんでのところで言葉を飲みこんだ。 「・・・い、言えないぃぃ」 「なんだ、それ」 魅録のあきれたような声に、悠理は首をふった。
さきほどの一件は、とても気軽に友人たちに話せる内容ではなかった。 (とんでもないもの、見ちゃったよー!)
さきほどの光景。 忘れてしまいたいのに、それは悠理の脳裏から、去ってくれない。
清四郎は、めずらしくも無防備に体をなげだしていた。 いつもはきっちり隙のない男が、下ろされた前髪のせいか、ひどく幼く見えた。 遠目にも、清四郎が眠ってしまっていることはわかる。 いつも口うるさい男の無邪気な姿に、悠理の口元がゆるんだ。
心誘われる。 やわらかな木漏れ日。心地よさそうな芝生のベッド。 ――――清四郎の隣で、ごろごろ昼寝をしよう。 悠理は、そっと近づくことにした。 しかし、清四郎にそっと近づいていたのは、悠理だけではなかったのだ。
悠理はその人物の顔はよく見ていない。 見たのは、大柄な体を道着でつつんだその男が、清四郎に覆い被さり、すばやく唇を奪った瞬間だけ。 男はすぐに立ち去った。 悠理に見られていることに気づいたというよりも、清四郎が目覚めかけたせいだろう。
清四郎が男にモテることは、悠理だって知っていたが。 直接、現場を見るのはまた格別。 当の清四郎が気づいてないのだから、不用意に話すわけにはいかなかった。 だけど、こんなことを自分ひとりの胸にしまいこめる悠理ではない。
ヨシヨシしてくれる可憐の顔。 心配そうな魅録の顔。 そして、雲海和尚の、のほほんとした顔。
三人の顔を見比べ、悠理は瞬時に選択した。
「じっちゃん、ちょっと来て!」 悠理は和尚の作務衣のすそをつかみ、本堂へとずるずる引き戻した。 「?ちょっと、悠理、どこ行くのよ!」 「ごめん!ちょっと、あたい、じっちゃんに人生相談!」 可憐の呼び声に、悠理はふりかえりもせず、怒鳴った。
「・・・人生相談って・・・あの子が?」 「清四郎のことだろうな、さっきの様子じゃ」 残された可憐と魅録は、顔を見あわせた。
「それで、清四郎がどうしたんじゃ」 「あたい、とんでもないとこ見ちゃったんだよー!」 和尚の部屋の障子を閉めるなり、悠理は泣き声をあげた。 「清四郎がさ、さっき裸で」 「うん、裸?嬢ちゃんに迫ったのかの」 「まさか!んなわけないじゃん。ちゃんと聞いてよ」 悠理は和尚には隠さず話すことにした。 あのキス強奪魔だって、和尚の門人なのだ。
「お、男が、清四郎に、その・・・覆い被さって・・・」 「覆い被さって・・・?」 悠理は言葉をにごした。 「せ、清四郎がかわいそうだよ、あんなん・・・」 「かわいそう?」 和尚は目をまるくしている。 「ぶ、ぶちゅっと・・・」 「は?」 「や、やっちゃってたんだよ!無理やり!」 「ほえぇっ!?」
和尚が裏返った声をあげたのは、いきなり襖がバッタンと倒れてきたからだった。 「ああっ、おまえら、盗み聞きしてたなー!」 さすがの身のこなしで襖をよけた和尚と悠理の前に、可憐と魅録が倒れこむ。 「そ、それよか、悠理!その話・・・」 可憐はあわあわ動揺していた。魅録も顔面蒼白状態だ。 ふたりとも、さきほどの悠理よりも動揺が激しい。
「や・・・やっちゃってた、なんて・・・う、嘘でしょー!」 「嘘じゃないやい」 悠理はあきらめ、ため息をついた。
「そんな馬鹿な。そりゃ、清四郎は男に異常にモテっけど・・・あいつが、襲われて黙ってるかよ!」 「いきなりだったからな・・・今日はハードだったし」 だから無防備に昼寝しちゃったんだよな、と悠理は思う。 「ハード!」 可憐の顔がひきつった。 「ま、まさか組んずほぐれず、やってたわけじゃ・・・」 「そりゃ、してただろ。あたいは見てないけど」 道場では、あの強奪魔とも清四郎は組み手をしたはずだ。 敵の思惑など、なにも知らず。
「!!!!」
蒼白だった魅録の顔が、どす黒く変わった。 可憐は反対に、だんだん顔が赤らんでくる。
「・・・そ、それで、清四郎はやっぱり、下だったの?」 可憐の声は、蚊が鳴くような小声だ。 「下って・・・うん。寝てるとこ襲われたんだから」 「そ、そう・・・」 「だいたい、清四郎も悪いんだぞ。あたいには、ブラ見せるな、ちょっとは男を警戒しろ、とか言って、自分は裸で寝ちゃうんだから」 「た、たしかに・・・あんたよか、清四郎のほうが危険だったわけね」
少女たちの会話が交わされる間、魅録は完全に生ける屍と化していた。 さすがの和尚も口をはさめず、顎をポリポリ掻いている。
「なに、じっちゃん、涼しい顔してんだよー!」 「たって、嬢ちゃん、わしになにができるかのぉ」 「和尚様、いろいろできるじゃないですか!清四郎の心と体の傷を癒す方法を、みんなで考えましょうよ!」 なにやら興奮のあまり、可憐はトンチンカンなことを握りこぶしで力説している。 「あのゴーダツ魔、じっちゃんとこの弟子だと思うぞ」 「強奪じゃなくって、強姦魔よ、悠理!」 「どっちでもいーけど」 「良かーないけどな、嬢ちゃん」 和尚はとりとめのない悠理の話から、かなり正確なところを読み取ったようだ。 困った顔をして、あさってのほうを向いている。 「ようするに、嬢ちゃんは、清四郎と顔をあわせられないって言っとるんじゃろ。見てはいけない場面を見たせいで」 そーゆーレベルの事態じゃないでしょーに!と可憐は叫んだが、悠理はこっくりうなずいた。 「まあ、神聖なるこの寺で不とどきなコトをした奴はけしからんが・・・ことは個人の嗜好の問題じゃから。わしはプライバシー尊重派じゃからな」 「でも!」 「清四郎が気に病んでいれば別じゃが、そうではないんじゃな?」 「うん」 即答した悠理に、ぎょっとする可憐。 「じゃあ、放っておくことじゃな。正直、わしも清四郎はコワイんじゃ。つつきとーない」 「あ、あたいはどーすんだよ!」 「忘れてやるこったな。それができないんじゃ、正直に話してしまえばいい。あいつだってちっとは落ち込むだろうが、その程度じゃろうて」 そ、そんな程度でいいのー!と、可憐は愕然と清四郎の師を見つめた。
「清四郎・・・新たな世界のドアを開けてしまったのね・・・」
思わず洩れた可憐のつぶやきは、即身成仏一歩手前の魅録だけが聞いていた。
そおっと障子を開けた悠理を、清四郎が待ち受けていた。 「・・・げっ」 「逃げるな、悠理」 回れ右しかけた悠理に、叱責がとんだ。
清四郎はすっかり身支度をととのえ、悠理の荷物の横で正座している。 「濡れた服を一緒に詰め込むんじゃない」 清四郎は悠理の鞄を指差した。 悠理持参の弁当箱、折り畳み式八段お重も、きちんと洗って解体してある。 几帳面な清四郎らしい。
障子をあけたまま立ちすくんでいる悠理に、清四郎は鞄のなかから悠理の汚れ物を出し、投げよこす。 几帳面だが、平気で女性の下着を引っぱりだすデリカシー欠損症の男だ。清四郎のそれは、悠理限定の無頓着さだったが。
悠理は濡れた服をにぎりしめ、じりじりと後ずさった。 「悠理、用意をしないのか。そろそろ帰りましょう」 「あ、あたい・・・」 悠理の顔は真っ赤なままだ。 いや、清四郎を見て、ふたたび頬を染めたのだ。 「魅録と可憐が来てんだ。あたい、魅録のバイクで送ってもらうから!」 バイバイ、と手をふり、悠理はパッと身をひるがえした。
「悠理!」 荷物を放ったまま駆けだした悠理に、清四郎は立ち上がって叫ぶ。 「魅録が来てるって、可憐と一緒なら、バイクに乗せてもらうのは無理でしょうが!」 あっという間に、廊下の向こうに消える悠理の背中。 舌打ちして、清四郎も走りだした。 「やっぱり、さっき何かあったな!」 あまりに不審な悠理の態度に、清四郎は追求を決意した。
清四郎が追いかけてきたことに気づき、悠理は縁側から飛びおりた。 裸足のまま、疾走する。 ショートパンツにTシャツ姿の悠理は、少年のようだ。 みごとなストライドで走る悠理に、清四郎は思わず見惚れていた。 短距離走において、悠理はプレジデント学園記録保持者だ。 なにがすごいかというと、それが男子もふくめた記録だという事実だ。お坊ちゃま学園に、本格的スプリンターがいないとはいえ。 授業では本気で走ったことはない清四郎も、
正直、追いつける自信がない。 長距離走では捕らえられるだろうが、そのまえに山の中に逃げこまれれば、完全にお手上げだ。 清四郎は悠理の進路をふせぐべく、走りながら策を練った。
玉砂利をものともせず走る悠理にならい、清四郎も大きく弧を描きながら境内を駆けた。 その分、悠理との距離はひらくが、清四郎の思惑通り、悠理は清四郎からもっとも離れた方向に進路をかえた。 無意識のうち、獲物は清四郎の誘導する方角に向かっている。 いつしか、悠理を追いかけること自体を、清四郎は楽しみはじめた。
門弟たちが、ものすごいスピードで走り抜ける悠理と清四郎を唖然と見おくる。 ニワトリが逃げまどう。
目の端で、可憐に引きずられたライダースーツのゾンビを見た気がしたが、清四郎は悠理を追うことに夢中で気にとめない。 計算どおり、悠理は鐘つき堂の方に向かっている。庫裏を突っきれば、先回りできる。 清四郎もだてに幼稚園児のころからこの寺に通ってはいない。地の利は圧倒的にある。
「おう、清四郎、また、あのじゃじゃ馬お嬢か?」 庫裏の台所に入ると師範代に声をかけられた。 「お察しの通り」 失礼、と軽く頭をさげながらも建物を駆け抜ける清四郎を、師範代は笑顔で見おくる。 才能と実力となによりその性格ゆえに、日頃年相応の少年らしさをみせることのない清四郎のこんな姿は、和尚のみならず師範代も愉快がる。 さしもの清四郎も、悠理がからむと、どうしてもなにをしても、クールなままではおさまらない。
庫裏の外は、鐘つき堂だ。悠理の姿はまだない。 清四郎は思惑があたったことにほくそ笑んだ。 壁にもたれ、あがった息を整える。 いきなり立ちふさがっても、悠理の常人離れした反射神経では、かわされるかもしれない。
角の向こうから悠理の足音が近づいた。タイミングをはかり、清四郎は庫裏の影から飛びだす。 ドンピシャ。 走ってくる悠理の腰に、横からタックルをかけた。
「あわっ」 さしもの悠理も、避けきれない。 そのまま二人して、地面に転がり倒れた。
「降参しろ、悠理!」 しばしもみ合ったが、さすがに格闘では悠理は清四郎の敵ではない。 逃げられないよう馬乗りになった清四郎は、暴れる悠理の両手を地面におさえつけた。 「痛っ、はなせって!」 往生際悪く足をバタつかせる悠理だったが、清四郎は手加減しない。 「さ、話してもらいましょうか」 悠理の抵抗が止まった。 どうして追いかけっこをすることになったのか、悠理も逃げるのに夢中で忘れていたのだ。 「ええと・・・」 まだ手にしたままの濡れたTシャツと下着に目をやって、清四郎の顔と見くらべる。 ボッと音を立てて、悠理は赤面した。 なにもブラジャーをふりまわして走っていた己の所業を恥じたわけではない。例のシーンを思いだしたからだ。
「な、な、な、なにも・・・」 「さっきから、おまえの態度は『何かありました』って大声で叫んでいるようなもんだぞ」 「あう・・・」 「さあ、さっさと吐いて楽になってしまえ」 清四郎は口の端を上げて微笑する。
見下ろしてくる悪魔の笑みに、悠理はうめいた。 「くそ・・・こんな奴、ちょっとでもカワイイと思ったあたいがどーかしてた」 「は?」 悠理の言葉に、清四郎は虚をつかれる。 真っ赤な顔で目を上下左右に動かし清四郎の視線を避ける悠理を、まじまじ見つめる。 「ああもう、わかったよ!言うってば!」 悠理は、ヤケクソのように叫んだ。
「ちゅ・・・チューしてたんだよっ!おまえが寝てるとき!」 「!」
清四郎は、一瞬、頭が真っ白になる。 悠理は赤面したまま顔を思いきりそむけ、口をひきむすんでいる。
「チュー・・・って」
(キス、接吻、くちづけ、だろう・・・やっぱり)
先ほど、唇に感じたやわらかい感触。 ――――では、あれは夢ではなかったのだ。
その言葉は理解できても、いまひとつ状況がつかめないまま、清四郎は悠理を見下ろしていた。 「おまえ、気づいてなかったんだから、あたいだって言いたくなかったんだけど」 おまえが言わせたんだからな、と言いつつも、悠理は清四郎に告白したことで、少し気が楽になったようだ。 そらされていた視線が、はじめて清四郎のほうに向けられた。 乱れた髪の下で、悠理の目は潤んでいる。 全力疾走であがった息は回復していたが、唇は、紅をひいたように染まっていた。
「・・・おい」 いまだ呆然と固まっている清四郎に、悠理は頬をふくらませた。 「いつまで、乗っかってる。この体勢、ヤなんだけど」 言われてはじめて、清四郎は自分たちの体勢のあやうさに気がついた。
押し倒した、悠理のやわらかな体を意識する。 なにも考えず体重をかけていた、細い腰。 息をするたび上下する、小さな、だけど男とは違う隆起した胸。 思いもかけず白く細い首。
今度は、清四郎が赤面してしまった。 心拍数が跳ね上がり、胸が騒ぎだす。 あろうことか、悠理相手に。
「・・・!す、すみません」 清四郎が腰を浮かせると、悠理はするりと逃れた。 「なんか魅録の前の男山みたいで、ヤだって」 悠理の連想は、清四郎のものとは少し違うようだったが。 腹を見せて尻尾をふるコリー犬の姿は、それでも清四郎の胸を落ちつかせてはくれなかった。
「まぁ、その、なんだ。そう落ち込むなって」 混乱し、呆然と座り込んでいる清四郎を、立ち上がった悠理は見下ろした。 「嫌だろうけど、済んだことは仕方ないって。悪い犬にかまれたと思って、あきらめろよ」 「悪い犬・・・ですか」 悠理はポンポンと清四郎の肩を叩いて、じゃあな、と去っていった。
なにやら清々しくも男らしい、悠理の態度。 逆に、清四郎は困惑のなかに取り残される。 済んだことは仕方がない、と言われても、知ってしまったら、忘れられない。
(キス・・・ですか。悠理が僕に)
「嫌・・・では、ないな」 思わず口をついて出た自分の言葉に、驚かされる。
(なんなんですか、僕らしくもなくうろたえて)
清四郎は息を整え、自分の手首の脈拍を数えだした。 悠理の背が視界から消えても、上がったままの心拍数は、なかなかもとに戻らなかった。
その夜、清四郎くんは眠れぬ長い夜を過ごすことになりました。 胸のドギマギは、翌日、昼休みに友情溢れる可憐さんの同情の言葉を聞くまで、続いたそうでございます。 当の悠理くんよりも、清四郎くんの視線をさけて逃げ回る魅録くんが、ことの真相を清四郎くんに教えることになりました。 連休明けのその日。のんびりムードの校内に、生徒会長の怒声が響き渡りました。
「悠理っ!まぎらわしい言い方すんじゃないっっバカヤロー!」
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