「悠理、どうかしましたの?」 昼休みの、木陰、昼食中。 口数少なく、食も進まない悠理に、野梨子がついに質問した。 「・・・・え?そ、そうか?あたい、どっか変?」
「そうだよ。まだ弁当3つ目だろ。悠理らしくないなぁ」 「体調でもおかしいの?さっきから顔色も変だわよ」 「変って・・・」 「赤くなったり、青くなったり」 仲間たち皆も悠理のようすがおかしいと不審に思っていたのだ。 「ねぇ、清四郎。悠理ってば変よねぇ?」 木に背を預け、早々に弁当を片付け読書をしている清四郎に、可憐が話を振った。 「そうですか?」 清四郎は本から顔も上げず、気のない返答。 「〜〜〜〜・・・」 その清四郎を、悠理は上目遣いにちろんと睨んだ。 だが、悠理はすぐに清四郎から視線を逸らす。 心なしか蒼ざめて。
仲間たちが、悠理の行動でもっとも異常を感じているのは、この清四郎に対する態度だった。 いつも仔犬のように清四郎にじゃれついている悠理が、今日は意識的に彼を避けているように見える。
悠理と清四郎が恋人同士となって数ヶ月。 ちょっとは傍目を気にして欲しいくらいのタガの外れたいちゃつきっぷりで、仲間たちを心底呆れさせること日常茶飯事のふたりが、今日は視線も合わさず、近づきもしないのだ。
「あんたたち、まさか喧嘩してるの?」 喧嘩をしている、というムードでもないのだが。可憐の言葉に、清四郎はクッと微笑み、悠理は首をぶんぶん横に振る。 しかし、清四郎の微笑みは歪んでいる。ぞっとするような、悪魔の笑み。 悠理は、というと、清四郎の方を見てもいないのに、察したように蒼ざめている。 「あ、わかった。昨日のアレだろ」 美童が清四郎と悠理に箸の先を向けた。 「昨日、悠理に告白してきた勇気ある下級生がいたじゃないか。それで、清四郎が拗ねてるんだろ」 「え?!悠理にですの?!だって、清四郎と悠理が付き合ってることは・・・」 「それが、なんでだか、俺ら以外はほとんど気づいちゃいねーのな」 魅録は心底呆れたような溜息をついた。 限度を越えたいちゃつきっぷりを見せ付けられている仲間たちからすると、信じがたいことではあるのだが。 学園のほとんどの人間たちは、清四郎が悠理を小脇に抱えて歩いていようと、悠理が清四郎にまとわりついていようと、ふたりが恋人同士なのだとは思わないらしい。 以前の婚約破棄の一件が知れ渡っている上、その後も有閑倶楽部として変わらずつるんでいる姿を見てきたせいもあるだろう。 清四郎が連日剣菱家の車で悠理と一緒に登下校しようと、何かまた事件でも起こったのかと思われているだけのようだ。 「でも、悠理がモテるのって、今に始まったことじゃないじゃない」 「それがさー、昨日の勇気ある下級生はさ。なんと・・・」
「男だったんですよ」 ニッコリ。
微笑んだ清四郎に、一同の背筋が寒くなる。
「そ、そんな・・・悠理にだって、男から告白されるくらい・・・」 「初めてですよ」 清四郎の言葉に、美童が苦笑する。 「それで拗ねてんの?そんなの、清四郎と付き合いだして悠理が綺麗になったからじゃないか。男としては喜ぶべきことだろ」 「別に拗ねてませんよ」
清四郎は本をパタンと閉じた。 「まぁ、でも、皆に心配おかけするのもなんですからね。話し合うとしますか」 すっくと立ち上がった清四郎は、後ろ向きの悠理に近づき、腰に腕を回しひょいと抱え上げる。 「んぎゃっ」 「じゃ、皆さん。部室をお借りしますよ。話し合いに」
清四郎は悠理を片手で小脇に抱え、仲間たちに手を振った。 くるりと背を向けた清四郎に、あぜんとする仲間たちに。 後ろ前に抱えられている悠理が、バイバイ、と手を振った。 そうとわかる諦め顔を、紅く染めたまま。
「話し合い・・・・ね」
もちろん一同、部室には近寄るまいと、決意を固める。 野梨子、可憐、魅録はもちろん、美童でさえ、悠理と同じように顔を染めて。
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しかし、おそらくは仲間たちの予想を超えた事態が、部室では展開していた。 「お願い・・・もう許してよ」 部室のソファの上に下ろされた悠理は、涙目で恋人を見上げた。 眉は顰められているが、まだ顔は紅い。 「初めて、僕を見ましたね」 清四郎はソファの前に立ち、ニヤリと唇の端を引き上げる。 「今日一日、無視し続けるのかと思いましたよ」 悠理はプイと顔をそらせ、唇を噛み締める。 「・・・・・取ってよ」 清四郎は意外そうに片眉を上げる。 「おや、休み時間にでも早々に取ってしまったと思ってたんですが。まだだったんですか?」 「だって・・・・勝手に取ったら、おまえもっと怒るじゃんか!」 悠理はソファの上にペタンと座り込んだまま、俯いた。 「別に、怒ってませんよ。おまえが男に告白されたくらい。しかも渡されたケーキを喜んで僕の前でむしゃむしゃ食べたからといって」 「そのケーキ、途中で取り上げたじゃん。ケーキには罪がないのにさ」 「ちゃんと返してあげたでしょう」 「〜〜〜・・・・・・・。」 たしかに、返してくれた。悠理の体に、クリームを塗りたくって。 「食べたの、ほとんどおまえじゃん・・・・」 「ちゃんと悠理にも、食べさせてあげたでしょう?」 清四郎の目が、愉快気に細められる。 意地悪な笑み。 口付けで、そして自分の体にもクリームを塗って、悠理に舐めさせ咥えさせた、昨夜と同じ淫靡な笑みだった。 思えば、いつにも増した変態プレイはあのときから始まっていたのだ。そして、まだ続いている。
「・・・取ってよぉ・・・」 悠理はソファの上で、もぞもぞ足を磨り合わせた。 「おや。いつでも僕と一緒に居たいといったのは、おまえの方ですよ、悠理」 「そ、そうだけど、だからって・・・こんなん・・・」 「僕がおまえの中に居ると思うと、落ち着きませんか?」 「全然違うよ!それに・・・落ち着くわけないじゃん・・・」 清四郎は組んだ腕をほどき、左手の二本の指で親指大の形を示す。 「大きさが違います?でも僕のサイズそのままじゃ、苦しいでしょう?」 右手はポケットに入れ、中からリモコンを取り出した。 「それとも、動かすとまた違いますかね?」 「あっ!いやっ」 悠理は清四郎の動作を止めようと、思わず腰を浮かせ手を伸ばした。 しかし、清四郎は容赦なくリモコンのスイッチを入れる。
ヴィィィン・・・・耳には聴こえないはずの振動。
「ひゃああっ」 悠理は後ろに転ぶように、ふたたびソファに腰を落とした。 「やぁっ!」 悠理は落とした腰を跳ね上げて身悶える。 びくびく体が痙攣する。体内に差し込まれている淫靡な器具の、バイブレーションに合わせて。 「やめて、やめて・・・・やめてよぉぉ」 哀願は悲鳴。 清四郎は、すぐにスイッチを切った。 悠理は、ガクリとソファに崩れ落ちる。 しかし、安堵もつかの間。 「まだ昼休みが終わってませんからね。声が周囲に響いてしまいますよ。次の授業はこのすぐ下で音楽の合唱があるはずです。そうすれば、いくら声を上げても聞かれる心配はない」 恋人の容赦のない声音に、悠理は体を怖れに震わせた。 それは、痛みではなく快感を伴う行為だとわかっていても。
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「取って欲しかったら――――ここで足を開きなさい」
楽しそうにさえ聞こえる男の声。 悠理はソファに深く腰掛けたまま、俯いて身を硬くしていた。 「おや。気に入ったんですか?放課後までそのままでも僕はいいんですよ?」 動こうとしない悠理に焦れたのか。 「授業中に作動したりはさせませんよ。電波も届かないでしょうしね。・・・だけど」 清四郎は掌に収めたままのリモコンを指先で弾いた。 「他の男と楽しそうに話している悠理を見たら、つい作動させたくなってしまうかもしれませんねぇ。なにしろ、僕は拗ねているらしいですから」 「・・・・・・・変態」 蚊の鳴くような悠理の声に、清四郎はクスクス笑った。 同時に、スイッチが押される。 「あ、ああああ・・・・・」 「ほら、そんな可愛くないことを言うと、つい苛めたくなりますよ」 「い、いやぁ、やだぁっ・・・はぅ・・・」
階下から聴こえてくるのは、皮肉なことに、”歓喜の歌”。 悠理の悲鳴はかき消される。
ソファの上で身じろぎ体を震わせる悠理に、清四郎は身を乗り上げた。 合唱に消えぬよう、耳元で命令する。 「さぁ、下着を脱いで、足を開くんだ。それとも、脱がしてやろうか?」
結局。 タイツも下着も、清四郎が脱がした。 悠理は弛緩した足を投げ出していただけ。唇を悔しさに、噛み締めて。
「ぐしょぐしょだな。こんなに濡れていたら、気持ち悪いでしょう。・・・いや、気持ち良かったのかな?」 清四郎は笑いながら、悠理の足を押し開く。 もともと優しい恋人とは言い難かったが、昨夜からの彼は、常軌を逸している。 それは、悠理がひどく彼を怒らせてしまったから。
ケーキと花を持って校門で待ちぶせしていた崇拝者に、嫉妬しているわけではない。 まさか、悠理はその下級生が、勘違いするなんて思わなかったのだ。 『わーい、ありがとー!あたいも、大好きだったんだ、最高!』 大好物のケーキを抱えて言った、悠理の言葉を。
いつものようにふたりで帰宅後。悠理の携帯が鳴った。くだんの下級生からだった。 なんで携帯ナンバーを知っているのかと、清四郎はその段階ですでに不機嫌。 彼が生徒会の体育部副部長であったからなのだが。
下級生が悠理の言葉を誤解し舞い上がっていることに気づいた悠理は、訂正しようとしたのだ。 「あたい、好きな奴、いるから!」 いつの間にか、好きで。大好きで。 恋は、悠理から仕掛けた。なかば無理やり、清四郎を嵌めて、やっと付き合いだしたふたり。
清四郎は携帯で話す悠理の背後から、彼女を抱きしめ服の間に手を忍び込ませる。 耳を噛まれ、下着のはざまから侵入した指に胸をいじられ。 電話を切るわけにもいかず、悠理は身じろいだ。 目に飛び込んできた、恋人の拗ねたような顔。 この頃、こんなふうに甘えた表情を見せてくれるようになった。 なんとなく、彼らしくないけれど、可愛い。 もっとも、悠理の大好物のケーキの生クリームを指で掬い、あらわになった肌に塗りつける行為は、まったく可愛げがなかった。
清四郎は無言で、クリームを悠理の首筋に、胸に塗りこめてゆく。 指のあとを、唇が辿る。 愛しくてたまらなかった。 エッチで強引な恋人だけど、それさえ嬉しかった。 誰よりも、悠理自身がこの関係を大切に思っていた。 清四郎が悠理をこんなに愛してくれていることが、今でも信じられないほど。
『・・・わかりました。すみません、ご迷惑でしたね。とてもかないません。魅録さんには』 「はぁ、魅録?!」
意気消沈した下級生が電話を切ったとき。悠理を抱きしめる清四郎の体温が、わずかに下がった気がした。 ヤバイ、と反対に悠理の体温は上がる。 清四郎は、ひどく嫉妬深い恋人なのだ。
意地悪な舌と指先が、クリームだらけの悠理の体を弄んだ。 「・・・誤解されても、仕方ないですよね。魅録の方が一緒にいることが多いですからね」 「同じクラスだから、しょうがないじゃないかぁっ」 彼の怒りが、悠理の奥の奥まで暴く。甘い痛み。 「ほんとは、あたいも、清四郎と一緒にいたいよ?ずっと・・・」 意地悪も嫉妬も、彼に愛されていると実感させてくれる。 口付けとともに与えられたクリームよりも、甘くとろける心。
だけど、まさか――――こんなことまでされるとは。
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・・・あれ、顔が蒼ざめてますよ?まだまだ飛ばしますゆえ、ここら辺で引き返されることを、強くオススメします!
まさか、心もしくは体が18歳未満の方、ここを覗いてませんよね?くれぐれも、くれぐれも、立ち入り禁止!