ハロウィンの奇跡

  BY フロ

 

 

 

「付き合ってもらいますよ」

という、清四郎の有無を言わさぬ宣言により。

夏休みに入る寸前、付き合いだした清四郎と悠理。

しかし、その事実はまだ、魅録しか知らない。

別にふたりは隠しているわけでもなんでもないのだが(特に清四郎)、

相変わらずの日常に、まだ『付き合っている』という実感がないのも事実(特に悠理)。

 

夏休み中、皆で行った南の島で恋のレッスンの最初の一歩(チュー)は果したものの、六人での行動時はいつもの通り。

清四郎は登下校を相変わらず野梨子としていたので、悠理とはふたりきりになることも少ない。

悠理の方も、あれよあれよと言う間に清四郎の掌で転がされていたが、相変わらずの日常が続くうちに、ま、いっか、と思うようになり。

なんとなく近づいた心の距離はそのままに、平穏な日常を満喫していた。

暇だ暇だと騒いだりしながらも。

 

 

秋の高い空、快晴の月曜日。

生徒会室にはキャンディやらチョコレートやら、お菓子が持ち込まれた。

生徒会室だけではない。

他の部室、各種文化部のみならず運動部のクラブハウスにいたっても、御同様。

弱小聖プレジデント学園の運動部では、スポーツの天才である食欲魔人の体育部長を餌で釣ろうと、お菓子を準備することもあるのだが。

今日ばかりは、悠理のためではなかった。生徒会室のお菓子も、もちろん。

 

「悠理、食べないでよ!」

まだ手も出していないのに、可憐から叱責が飛んだ。理不尽に、悠理は口を尖らせる。

「わーってるよ!」

 

今日は、10月31日。ハロウィン。

帰国子女も多いプレジデント学園では、毎年、校内にかぼちゃが飾られ、ハロウィンのお祭り気分を盛り上げる。

放課後には、小学部の生徒による、ハロウィン扮装の中高等部クラブ訪問が行われるのが、伝統だった。

 

「もうしばらくしたら、可愛いお客さんが来るよ」

窓の外を見下ろし、美童がにこやかに告げた。

階下の校庭に、シーツをかぶったりマスクを被った小さな集団がそろそろ現われたようだ。

「あれは結構、緊張しますのよ」

野梨子は微笑しながらお茶を啜った。

野梨子や清四郎、悠理たち小学部からの持ち上がり組もかつては、それぞれオバケに変装して、日頃縁遠いお姉さんお兄さんの校舎にドキドキ足を踏み入れた経験がある。

「野梨子は何をやったの?」

「さぁ・・・覚えてませんわ。赤ずきんちゃんのような格好をさせられたような・・・」

「それ、オバケ?」

「完全に、誰かロリコン教師の趣味だな」

「清四郎は?」

「吸血鬼でしたね、なぜか毎年」

「うわ・・・・納得」

「悠理は?」

話を振られても、悠理は無言。

いきなり、ガタリと席を立つ。

 

『とりっく、おあ、とりーと!』

 

元気な甲高い声には、悠理も毎年楽しげに、お菓子を振舞っていたはずだった。自分の口にもしっかりゲットしながらも。

 

「・・・・・・・・・・あたい、今日はもう帰るよ・・・」

しかし、今年の悠理は様子が変だった。不機嫌そうに顔をゆがめて鞄を取った。

「悠理?」

皆は、お祭り大好き人間悠理の沈んだ様子に、首を傾げた。

「もしかして、悠理・・・・」

清四郎が立ち去ろうとする悠理の手をつかんだ。

「怖いんですか?オバケが」

 

悠理は清四郎に手をつかまれたまま、ビクリと凝固した。

図星の表情。

 

「こ、怖いって、あのチビちゃんたちがぁ?!」

仲間たちは呆れ顔で、思わず吹き出す。

 

「お、おまえら、笑うけどなっ!」

悠理は蒼ざめてわめきだした。

「あたいだって、去年までは楽しかったさ!だけど、もしほんとのオバケがあいつらの中に混じってやってきたらって思うと、我慢できないんだよっ」

 

「そうですねぇ。去年までと今年では、悠理の霊感は段違いに強くなってしまいましたからね」

清四郎は同情顔でふむふむと頷いた。

「確かに、妙なモノが混じってやってきても、おかしくありませんな」

なにしろ、お盆は国外逃亡を強いられる交霊体質の悠理だ。

 

「そーだろ?だから、あたいは悪いけど、今年はパス!」

悠理はつかまれたままの清四郎の手を振りほどこうと、身を捩った。

しかし、清四郎は悠理の手を握ってまだ離さない。

「帰って、どうする気です?」

「どうするって・・・家で布団被って寝ちゃうよ」

「おまえ一人の部屋の扉がノックされたら、どうする気ですか?」

 

――――トリック オア トリート。お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ!

それが、本当の霊からの言葉であったなら?見返りに、何を与えなければならないのだろうか?

 

悠理は怖気立ちながらぶんぶん首を振った。

「こ、ここは日本だじょ!西洋のオバケが出るかい!」

「おまえの家では去年までハロウィンのお祭りをしてたでしょう?毎年繰り返せば、立派な招霊行為ですな」

 

悠理は真っ青になり、総毛立った。

 

「せ、清四郎〜〜!!!」

 

とうとう、悠理の目尻には涙。へなへな、腰を抜かす。

清四郎は両腕で悠理の体を支えた。

「おやおや。大丈夫ですか?」

清四郎の腕にすがりつきながら、悠理は懇願した。

「頼む〜お願い〜、今夜は一緒に居てくれ〜〜」

 

それは、いつも霊騒動のときは清四郎の背中に張り付く、悠理らしい言葉ではあったのだが。

 

清四郎の目が細められ、口元に笑みが浮かんだ。

「・・・さて。どうしましょうかね」

 

意地悪な言葉に、悠理はひしりと清四郎にすがりついた。

「この薄情者〜〜!あたいを一人にすんな〜〜!お願いだから、あたいと付き合って!

 

清四郎は悠理の背に手を回し、ポンポン安心させるように叩いた。

「そうまで言われたら、仕方ありませんな。おまえと付き合いましょう。ええ、夜通しでもなんでも

 

 

 

 

眼前で繰り広げられたこの一幕を、仲間たちはポカンと見守っていた。

まぁ、いつも通りのふたり・・・・に、見えないこともない。

清四郎の顔に浮かんだ、してやったり、の笑みも含めて。

 

それでも、仲間たちは抱き合うような体勢で立っている友人ふたりから、なんとなく目を逸らした。

いつも通りの光景だと、理性では思っていながらも、なにやら気恥ずかしくて。

 

そう、この期に及んでも、まだふたりの間の空気の変化を、仲間たちは気づいてはいなかった。それは本当にかすかなものであったのだし。

 

「・・・言っておくが、おまえが望んだんですからね?」

 

小さく囁かれた清四郎の言葉を、聞いてしまっても、なお。

 

 

 

もちろん。

蒼ざめ、その後、真っ赤に顔を染めた、魅録一人は例外だった。

 

 

トリック オア トリート!甘い菓子を与えなければ・・・・・・・・悠理は今夜は眠れない?

 

 

 

 ちょっぴり続き

 


ハロウィン競作、ということで、急遽ネタもないまま、タイトルをなんとなく書いたら、あとはあれよあれよと言うままに自動筆記。なんか「真夏の奇跡」のシリーズ続編のようです。(ようですって・・・)まぁ、もともとアレも構想執筆2時間の作ですから。ちなみにこれは構想0分、執筆30分。(爆)

秋になっても、進展しとらんわね、まったく。(笑)

 

 

 

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