Diaーmond  -3-

 

――――悠理を、愛している。

おそらくは、ずっと前から。

気づくのが遅すぎたのだとは、思いたくない。

 

 

 

抱きしめた悠理の体は震えていた。

怯えゆえにでなく。すすり泣いていたのだ。

 

「悠理、泣くな・・・・」

口づけながら、清四郎はゆっくりと悠理の背を撫でた。

優しく、だけど、明確な目的を隠さずに。

シャツのボタンを器用な指先で外す。

口づけの余韻でぼんやりしていた悠理の目の焦点があってきた時には、衣服を脱がせて、ベッドに横たえていた。

両腕で胸を隠そうとする悠理の手首を握り、清四郎はシーツの上に縫い付けるように悠理の体を開かせた。

悠理の目は戸惑いに揺れている。

だけど、その瞳に怖れの色はなかった。涙に覆われてはいても。

 

先ほど清四郎の背にすがりついて来た白い腕。

シーツに押し付けたまま、指を開かせ自分の指を絡めた。

悠理の上に乗り上げ、清四郎は悠理の全身を飽かず見つめる。

「や・・・・」

悠理が羞恥に首を振るが、清四郎は彼女の体から目が離せなかった。

 

長い手足と薄い胸、細い腰。水着姿などでは何度も見ていた。女を感じさせない少年のような体だとこれまで思っていた。

だけど、羞恥に色づく悠理の肌は、光沢さえ放つかのように白く眩しく。

なだらかな曲線を描く伸びやかな四肢と、呼吸に上下するほのかな胸の膨らみが、思いのほか欲望を煽った。

 

自分を抑えなければ、獰猛に貪ってしまいそうだ。

 

清四郎は震えるほどの欲望に耐え、ゆっくりと白い柔らかな胸の頂きに、唇を寄せた。

「あ、」

優しく歯を立て舌先で何度もこねると、そこは固さを持ち色づき始めた。

蒼ざめていた頬もまた。

薔薇色に紅潮した頬は、新たな涙に洗われてはいても、悲しみよりも快感に染まりはじめていた。

 

なだらかな下腹を撫で、きつく閉じられた足を割り、そろりと指先で潤みを確かめる。

「っ!」

小さな可愛い芽をいじると、悠理の体はそれだけで達するかのように大きくひくついた。

水音が立つほど、すでにそこは濡れて男を誘っている。

湿らせた指を、ゆっくり侵入させた。

それまで抵抗らしい抵抗をしなかった悠理が初めて、身を強張らせた。

「・・あ、や・・・・清四郎、だめ、」

涙声で悠理は制止を求めたが、清四郎は止める気はなかった。

言葉に反し、潤みきった箇所は、歓びに身悶え。熱く狭い内部が蠢動し、清四郎の指を締め付けた。

 

清四郎は我知らず、こくりと息を飲んでいた。

ひどく喉が渇く。

欲望がむき出しにされる気がする。

悠理を慰撫し翻弄しているつもりで、清四郎自身が余裕を奪われてゆく。

 

――――指などではなく、早く自分をねじ入れたい。悠理の中を清四郎で一杯に満たしたい。

 

初体験の少年でもあるまいに、抑えがたい渇望が清四郎を襲った。

まるで、無垢な少女のままのような肢体に引き込まれるように。

 

「悠理・・・・いくぞ。」

欲望のあまりかすれた声で呟き、清四郎は悠理の脚を大きく割った。

彼女を求めて猛る部分を、指の代わりに押し当てる。

先走りで濡れた部分が、愛液でなおも濡れた。

ぐ、と押し入れる。

大きく開かせた脚を肩にかけるようにして、体全体で悠理に圧し掛かる。

そうして、悠理の唇を口づけでふさいだ。

「!!」

息を奪われた悠理は、喉の奥で悲鳴を飲み込む。

「・・・くっ」

十分に濡れて息づき男を飲み込みながらも、その部分はあまりに狭かった。

柔らかな尻をわしづかみ、無理やり腰を進める。

 

唇を奪われながら、悠理はきつく目を閉じた。

新たに滲んだ目尻の涙が、まるで痛みを堪えているかのようで。

 

腕の中の華奢な体に、処女を犯しているかのような背徳の悦びを感じた。

きつすぎる締め付けは、悠理の心が拒否しているゆえだとは、清四郎はその時、思ってもみなかった。

ただ。

もしも、と。

欲望に飲み込まれそうになりながら、清四郎は考えずにはいられなかった。

 

まだ悠理が恋を知らず、望まぬ結婚を強いられていたあの頃。

清四郎が悠理を抱いていたら、何かが変わったのだろうか。

婚約してはいても、同室など考えられなかったあの頃のふたり。

もしも、無垢な彼女を抱いていたら。

清四郎は悠理を愛していることに気づけたのだろうか。

そして、悠理は彼に応えてくれたのだろうか。

 

ようやく自分をすべて彼女の体内に埋め込んでから、清四郎は悠理の唇を解放した。

「・・・悠理、感じるんだ。」

下肢は拘束したまま、耳元に囁く。

きつく目を閉じた悠理は、小さく喘いだ。

荒い息が、直接内部の蠢動と呼応する。

どくどくと悠理の内側が熱く燃えている。

「そんなに、きつく締め付けたら、動かすこともできませんよ?ずっとこうしていたいんですか?」

揶揄しながら、わずかに上体を起こし、接合している部分を指先でくすぐる。

「はぁっ」

悠理は背を反らし、震える両手で彼の胸を押した。

腕だけでなく、清四郎の目の前で白い胸の頂も赤く濡れ震えている。

「僕はそれでもかまわないが・・・・」

唇で胸の先を挟み、苛めた。

同時に狭間に侵入させた二本の指で、敏感な芽を嬲る。

深く埋めた自身は動かさないまま、感じやすい場所を責め続けた。

「や・・・もう、苦し・・・」

涙声の哀願よりも、脈動する悠理の内部の方が正直だった。

女の体は柔らかく溶け、男を受け入れ蠢動する。

交わったまま、清四郎は執拗なまでに悠理の全身を愛撫した。

尖りきった胸の先が、唾液に濡れ痛々しいまでに赤らんでも。

首筋にもわき腹にも、所有印をつける。

悠理の内部が喜びに震え激しく締め付けても、精を放たず耐えた。

  

 

――――苦しませたかったわけではない。

清四郎は悠理を犯したいわけではなかったのだ。

彼女を癒したかった。彼女を感じたかった。そして、他の男の影を追い出し、その心を清四郎の存在で占めてしまいたかった。

 

 

清四郎は悠理の腰を抱え上げ、激しく突き上げた。

「ひぃっ!」

秘められた最奥を、切っ先が擦る。

心がそこにあるなら、溶かし崩してしまいたいと。

腰を深くあわせ、何度も突き入れる。

「あ、ああっ・・・・」

泣き声は、もう完全に嬌声に代わっていた。

悠理の潤んだ瞳の焦点はあっていない。

両手がすがるものを求め、清四郎の背に回る。

 

「悠理、悠理!」

名を呼びながら激しく腰を打ち付けた。

淫靡な音が立つ。

汗が飛び散る。

「せ・・・い、しろ・・・・」

喘ぎながら悠理が口にした名が、自分の名であることに歓喜する。

 

悲しみを忘れるのは、情欲のためでもいい。

だけど、決して他の男と間違えさせない。

悠理を抱いているのは清四郎なのだと、思い知らせたかった。

 

敏感な部分をなおも責め続け、溢れさせる。

悠理の中からすべて吐き出させる。涙も愛も。

悠理は何度も悲鳴を上げてのけぞり、泣きじゃくった。

それはもう、痛みでも悲しみのためでもないことは明白だった。

激しく律動し、ようやく清四郎が欲望を放とうとした時には、彼女は快感のあまり意識をなかば失っていた。

 

「悠理、愛してる・・・!」

 

だから、彼の言葉は、おそらく聴こえなかっただろうけれど。

 

「・・・清四郎・・・清四郎・・・!」

喘ぎすすり泣きながら、悠理は清四郎の名しか口にしなかった。

それだけで、清四郎は絶頂に達した。

 

 

放った後も、悠理の中から自分を抜くことができす、清四郎は彼女を抱きしめたままベッドに沈み込んだ。

そして、最初に悠理が与えてくれたような、触れるだけの口づけを意識のない彼女と交わした。

あれほど泣きじゃくっていたのに、悠理の唇はもう涙の味はしなかった。

甘いそれに酩酊する。

まだ繋がったままの下肢の、甘い痺れと共に。

全身を絡めて、眠る悠理と心音を重ね。

ふたり、溶け合ったように思えた。

 

それは、幻想だったのだけど。

 

 

**********

 

 

 

 カーテンの隙間から差し込む朝陽で、清四郎は目覚めた。

腕の重さに、昨夜のすべてが夢ではなかったと知った。

眠る悠理の、あどけない顔を見つめる。

清四郎の胸が、苦しいほどの感情に締め付けられた。

それは、幸福感だった。

 

「・・・悠理、僕達はやり直せますよね?」

眠る悠理の茶色の睫に口づける。

「僕とこうなったことを皆に知らせよう。嫌ですか?」

眠ったままの悠理が答えるはずもないが。

小さく寝息を立てる腕の中の彼女に額を寄せ、鼻の先を触れ合わせ、清四郎は抑えきれない笑みを浮かべた。

本当に全世界に公表したい気分だった。

仲間達は驚くだろうが、剣菱夫妻には喜んでもらえる自信があった。昔から、清四郎は彼らのお気に入りなのだ。

しかし、昔とは違う。

今度こそ、悠理を幸せにしてみせる。

 

悠理の婚約が不幸にも破れたことがきっかけだとはいえ、ふたりは新たな関係に踏み出した。 

清四郎の胸に満ちるのは、未来への希望だった。

 

幸せの幻。

――――悠理が彼を受け入れてくれたのだと、勘違いしていたのだ。

 

TELLLLLL

 

室内の電話が鳴った。

音に誘われ、悠理がゆっくりと瞼を上げる。

「おはよう、悠理。」

清四郎が声をかけると、悠理は寝ぼけ眼でふわりと微笑した。

「せいしろ・・・・」

笑顔と共に呟かれた自分の名に、清四郎の確信も深まる。

自分達は、幸せになれると。

 

素肌のまま、腕枕の上でまどろんでいる悠理の前髪を清四郎は梳いた。

「・・・・ん・・・・夢?」

「夢じゃないですよ。お寝坊さん、昨夜のことを覚えてないのか?」

悠理が身じろぎ、絡めた脚の間でまだ交わっていた部分がずるりと離れた。

そのリアルな感触に、清四郎は苦笑する。

「あ・・・うん?」

悠理はそれでもまだ夢うつつの表情で、現実を認識していないようだ。

 

TELLLLLL

 

鳴り続けている無粋な電話の呼び出し音を止めようと、清四郎は身を起こしてベッドサイドの受話器を取った。

「はい。」

モーニングコールが誰からであっても構わなかった。清四郎はふたりの関係を白日の下公表する気でいたのだから。

 

清四郎が起き上がったため、ふたりの裸身を覆っていたシーツがめくれ落ちた。

腕枕がなくなったせいか、悠理はぼんやりした表情のまま、上体を起こす。

 

『・・・・・・・・。』

電話に出たものの、受話器の向こうは沈黙している。

てっきり剣菱邸内からの内線かと思っていたが、車の排気音とざわめく雑踏のBGMに清四郎は眉を寄せた。

「もしもし?」

清四郎が不審に思い始めた時。

 

『・・・・菊正宗清四郎・・・・?』

 

低い男の声が受話器から聴こえた。

誰の声か清四郎が悟ると同時に。

 

『てめぇ、ぶっ殺してやる・・・・っ!』

 

割れた絶叫が、受話器を震わせた。

 

 

声が聴こえたのだろう。悠理が表情を変えた。

それは夢うつつから覚醒し、現実を認識して強張った顔。

 

「仁義っ!!」

 

悠理は飛びつくように清四郎の手から受話器を奪い叫んだ。

悲痛な声。

 

「仁義、仁義ーっ!!」

 

通話はすでに切断されていた。

それでも悠理は受話器を掴んで、婚約者の名を呼んだ。

彼が剣菱邸を出奔してから、まだ一晩しか経っていない。

そして、清四郎が一抹の淋しさはあれど、微笑ましいカップルの婚約を祝福したのは、その前日に過ぎない。たとえ、遠い過去のように思えても。

 

「・・・・ゆ・・・夢、じゃない?」

沈黙したコードレスフォンを両手に握り締めたまま、悠理はぽつりと呟いた。

 

――――そう、夢から醒めたのだ。

 

清四郎は黙って悠理を見つめていた。

全裸のままベッドの上でうな垂れている彼女を。

その愕然とした表情に、清四郎の胸のどこかが凍りついた。

いや、癒えかけた傷が開いたかのように胸が痛む。

それは悠理の婚約を知らされた時から疼き続けていた傷。

そこに氷を押し付けられたように、凍えて痛む。

冷たいのに、焼けつくようだ。

まるで凍傷のようだ。

 

――――夢は、破れた。

 

清四郎にとっては甘く幸福な夢だったが、悠理にとってはそうではなかったのだ。

 

清四郎は悠理に背を向け、昨夜脱ぎ捨てたシャツを拾い羽織った。

黙々と後始末をして身支度を整える。

悠理の衣服も拾い上げ振り返った時、まだ同じ姿勢で座り込んでいる彼女の足元に目を留めた。

シーツの上に、そうとわかる染み。

薄い血の色。

清四郎は驚愕に目を見開いた。

 

「悠理・・・まさか・・・初めてだったのか?」

石像のように固まっていた悠理の肩が、びくんと揺れた。

「・・・・え?」

問いかけに、悠理は顔を上げたものの。

ショック状態を思わせる放心した目が、清四郎を見返した。

しかし、ほどなくして悠理も清四郎の視線を追って、彼の問いかけの意味を悟る。

「!!」

頬に赤味が差し、泣き出しそうに顔が歪んだ。

悠理は自分の下のシーツをくしゃりと握り締めた。

「違う!これは・・・ここんとこ、生理が遅れてたから・・・!」

真っ赤に染まった顔は、羞恥のためというよりも、憤怒の表情に似ていた。

 

怒りは、弱っている彼女につけ込んだ男へか、それとも自分自身に対してか。

 

しかし悠理の表情に怒りが過ぎったのは一瞬で、胸の凍るような悲しみの影が怒りを覆って隠した。

「っ・・・!」

悠理は吐き気を堪えるように口をふさぐ。

そのまま、染みのついたシーツを引っ張り、体に巻きつけベッドを下りた。転びかねないおぼつかない足取りで洗面所へ向おうとする。

「悠理?」

清四郎は思わず悠理の腕を取って顔を覗き込んだ。

両手で口を覆ったまま、悠理はふるふる首を振った。

見開かれた大きな目には涙が一杯に浮かんでいた。

 

「・・・・・仁義はもう、あたいのところには、帰って来ない・・・・・」

篭った小さな声ではあったけれど、感情が迸り出ていた。

 

清四郎は気圧されて悠理の手を離す。

悠理は洗面所に駆け込み、扉を閉めた。

中から、嗚咽が聞こえる。

それは、昨夜荒れた部屋で泣き続けていた姿を、思い出させた。

誰かを愛し、傷ついた証の慟哭。

 

純潔の証かと清四郎を驚かせた血の染みも、彼女にとっては運命の裏切りであったのだろう。

「・・・・妊娠していたかもしれないと思っていたんですね?そうであれば、彼が帰って来るだろうと?」

ドア越しに問いかけた清四郎に、悠理は答えなかった。

 

――――彼女にとっても、最後の望みは断たれたわけだ。

 

希望は、どんな毒薬よりも痛みを引き起こす劇薬に違いない。

清四郎は閉じられた扉に、頭をもたせ掛けた。

それは、悠理と自分を隔てる壁。

額を押し付けて、耐え難い痛みに瞼を伏せた。

胸の痛み。

 

悠理の恋が破れたことを、まだ喜ぶ気にはなれなかった。

扉の向こうから聴こえる嗚咽に、閉じた瞼の奥が熱くなる。

怒りか悲しみか、それとも。

清四郎は立ち去ることもできず、痛みを堪えていた。

凍りついた胸の傷に、劇薬が染み込んでいくのを感じながら。 

 

 

 

 

NEXT

 


今回、エロシーンが長すぎて、現在編が入りませんでした。(←殴)

リク内容は、どちらかといえば現在編なんで(ちゅーか、エロなんてリクされてないし/笑)、あっちを進めなくては。

楽しく苛めていたとはいえ、清四郎の心情がしんどくなってきたので、次回からは悠理視点にしようかしら。暗い男の心境なんぞ書きたくない・・・(←蹴)

 TOP