銀のピストル 

※18禁リクですので、要注意!

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「もう、やだ・・・・許して」

土壁に叩きつける雨音に、かすれた声は消えた。

濡れた衣服を肌に貼り付けたまま、女は何度目かの懇願を繰り返す。

破られた衣服に滲んだ血と精液が、雷光に浮かび上がった。

闇夜ではない。荒天に外は暗いが、まだ時刻は夕刻。それでも、あばら家の中は淀んだ闇に覆われていた。

 

濡れた上着も脱がないまま、男はふたたび女の腰を抱え上げた。服の上からでもわかる、隆起した筋肉に力が加わる。何度達しても衰えることのない、むき出しの欲望にも。

後ろ手に拘束されているため、埃の溜まった床板に顔を押し付け、むき出しの白い腰だけを高く掲げられる。

赤く傷ついた部分に、再び凶刃が差し込まれた。

肌と肌のぶつかる音だけでなく、濡れた淫猥な音が雨音に混じる。

男の放った精だけではない。無理やりに犯されながら、いつしか女の体は反応していた。

「いやぁっ」

それでも、容赦のない律動に漏れたのは悲鳴。

ガクガクと体を揺さぶられ、奥まで抉られ。背後から貫かれながら、浮いた胸を乱暴にまさぐる男の指に背を反らせる。揺れる尖った胸の先をくじられ、痛みに近い刺激に身を震わせた。

 

「・・・もう、もう・・あたい・・・」

無理やり女の体にされても、無垢で幼い心が受け入れられない。意識が遠のきかけたとき、繋がったまま、仰向けに体勢を変えられた。

 

「悠理」

 

名を呼ばれ、きつく瞑っていた目を開けた。

 

「目を開けて、はっきり見ろ。おまえを犯している男の顔を」

 

暗闇を切り裂く雷光が、男の顔を照らし出す。狂気と欲望の宿った無慈悲な顔を。

 

「う・・・・え・・・」

悠理の目から涙が溢れた。無理やり掘り起こされた官能のためだけでなく、肌が粟立つ。

しゃくりあげる悠理の体を二つに折るように、男は真上から激しく腰を打ち付ける。

心は拒否しているのに、体は男の意に諾々と従い、悦びの涙を流していた。それは、悠理を捕らえた男の持つ、常軌ならざる力のためか。

背中で手が擦られ、ひどく痛んだ。

もう、痛みよりも快感が上回る、犯されている場所の代わりに。

その痛みが、かろうじて悠理を正気に戻す。

 

 

「助けて・・・・清四郎っ・・・」

 

無駄だとはわかっていても、悠理は友人の名を口にしていた。

最後の意識で、すがるように。

 

ドクドクと何度目かの精を体内に放たれ、悠理は意識を失った。

 

 

  

 

 

 

 

 

悠理にボーイフレンドができた。

 

その噂を有閑倶楽部の面々は最初一笑に伏した。なにしろ、悠理はもともと、男友達の方が多いくらいなのだし。

学園の者が夜の公園で悠理とデートしているのを見た、という相手の男は革ジャンを着て髪を立たせた若い男だったというから、まさに悠理の友人になりそうなタイプだ。

 

「悠理、カレシと毎日のように会ってるんだって?僕らにも紹介してよ」

それでも、急いで帰宅しようとする悠理に、美童がからかいの声を掛けた。

ここのところ風邪気味でクシャミを繰り返していたにもかかわらず、悠理は清四郎の調合した薬を口に放り込み、その日も夜遊びに出かけるつもりのようだった。

家で寝てなさい、と忠告するうるさ型の友人の言葉は、あっさりと無視。

「・・・え、えーと・・・ダメなんだ。ケイの奴、あたいと二人で会いたいって。態度デカイし基本陽気な奴なんだけど、結構気まぐれで人見知りするっていうか・・・一匹狼っぽいところがあってさ」

悠理はハクションと大きくクシャミ。無遠慮に人前で鼻をかむ姿には、色気のひとつもなかったが。

「他の奴連れてきたら、もう会ってくんないって言うんだもん。今日だって、行かなきゃ次にいつ会えるかわかんないし」

悠理の答えに、話を振った美童自身が驚く。

「・・・彼、ケイっていうんだ。“会ってくんない”ね・・・」

それは、悠理の方が会いたくてデートを重ねていると取れる言葉だ。

「あたいも、ケイをみんなに会わせたいんだけどさ〜。へへ、絶対、驚くじょ」

悠理は肩をすくめ、頬を染めて笑った。

 

じゃあな、と咳き込みながらもそそくさと部室を後にした悠理に、残された仲間たちは呆然。

 

「・・・マジ?」

「ま、まさかあの悠理に限って」

可憐と野梨子は顔を見合わせた。

美童は眉を下げた情けない表情で、悠理の去った扉と、背後のテーブルの友人の間で視線を彷徨わせた。

「・・・清四郎、いいの?」

「いいわけないでしょう。季節の変わり目なんだから、しっかり風邪を治さないと」

清四郎は持っていた薬箱を棚にしまいながら、眉を顰める。

「いや、そういう意味じゃなくてさ。あんな体調でも、いそいそ会いに行っちゃうなんて、まさかと思うけど、悠理の奴、本当に男ができたんじゃ・・・」

「だったら、それは良い傾向じゃないですか。あいつにも遅い春が来たってことですからね。もっとも、色気づいたようにはちっとも見えないが」

清四郎は馬鹿にしたように吐き捨てた。良い傾向、という割には眉根の皺は深い。

 

清四郎の隣では、魅録も首を傾げていた。

「・・・驚く、ねぇ?」

魅録も美童と同じように、扉と清四郎の顔を見比べる。

友人二人のもの言いたげな視線に、清四郎の眉根の皺はますます深まった。

「なんなんですか?」

「いや・・・あいつのさっきの言葉で、ちょっと思い出したことがあって」

「魅録、何か知ってるのかい?」

もともと、悠理と一番親しい遊び仲間は魅録だ。噂上の男の風貌も、魅録に近い。

「悠理と会ってる男って、あいつじゃねぇかな。俺も一度見かけただけなんだけど」

可憐と野梨子も興味津々魅録の言葉を待っている。

しかし、魅録は清四郎だけを見つめて、口を開いた。

「ほら、一週間前、渋谷の新しい店におまえを誘ったことがあったろ」

「先週ですか?」

悠理に男の噂が立ったのは、ちょうどその頃からだ。

「おまえんちに電話したらお手伝いさんが『道源寺に行った』と言うから、悠理が東村寺系列の修行寺と勘違いしてさ。バイクで迎えに行ったろ」

「ああ、あのときね」

 

魅録と悠理がバイクで向かった先は、近所の寺だった。ただの寺と知って、悠理は震え上がったが。運よく、葬式などは執り行われていなかった。

「おまえには会えたけど、渋谷には行かないって断られてさ」

「あの日は、法事で親戚連中に捕まってたんですよ」

「ああ、そう言ってたな。そんであの後、俺たちだけで渋谷に向かったんだけどさ。夜になって店を出たら、悠理が『来ないって言ってたのに、清四郎が夜遊びしてる!』って、怒り出して」

「は?」

「俺も、見たんだよ。革ジャン着て、肩いからせて歩いてるおまえにそっくりな男をさ」

「「「はぁ?」」」

清四郎だけでなく、美童と可憐、野梨子も目を剥いた。

「いや、他人の空似っての?とにかく、顔はそっくりだったよ。あんまり服装やら態度やらが違うんで、俺は最初気づかなかったんだけど、悠理は『清四郎だ!』って、追いかけていったんだ」

髪を立たせ、革ジャンにボロジーンズ。とても、清四郎がそんな格好をしているところを想像できない。仲間たちはもちろん、清四郎自身も。

 

「悠理の奴、俺らが驚く、って言ってたろ。だから、会ってるのはあいつなんじゃねーかなって」

清四郎は複雑な表情で首を傾げた。

「・・・僕に、よく似た男ですか・・?まぁ、余計にカレシうんぬんは、信じられませんね。悠理に限って、そんな男に惚れるはずはありません」

「ああ、せいぜい、イタズラをたくらんでウキウキしてるってとこだよな」

確かに、色めいた噂にもかかわらず、悠理の日常の態度は恋に落ちた乙女というよりは、新しいオモチャを見つけた子供のようで。

 

「清四郎も、つらいところだねぇ」

美童のなにやら含みのある言葉にこそ引っかかりはしたものの、清四郎はこの時は苦笑するだけだった。

 

「まぁ、悠理の頭で企みそうな悪戯など、たかが知れてますよ。せいぜい楽しみにしておきましょうか」

 

 

この時点では、誰もが悠理の小さな異変を、深刻には捉えていなかった。

仲間たちは悠理が新しい友人を愉快な方法で紹介してくれるに違いないと、待っていたのだ。

悠理の恋などとは、信じていなかった。彼女をよく知るからこそ。

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 


冒頭で泣き伏し、なかなか書けなかったあき様のキリリクをスタートです。連載にしたら続きを書けるかなーーっと、見切り発車。ええ、続きはまだまっ白です。

あき様の名誉のため(?)に明記しますと、「悠理が他の男に強姦される」とかそーゆー鬼畜リクではありません。ワタシが勝手に鬼畜展開を妄想して苦しんでいるだけ・・・。

あ、タイトルは安全地帯の「銀色のピストル」からです。玉置さんのいやらしい声(笑)は今も昔も好きじゃ。

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 素材:イラそよ